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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第72話 決勝戦⑬

挿絵(By みてみん)




 目の前には、両目を閉じたボルドさんが立っていました。


 驚くほど殺気はなかったです。むしろ、無気力のように感じます。


(狸寝入りの上位互換……。睡拳といったところですか)


 能力の考察を進めながら、慎重に身構えます。


 相手との距離は二歩分。仕掛けるにはまだ遠いです。


 ただ、尻上がりの技だと聞いて、待ちに徹するのも考え物。


(ひとまず、触ってみてもいいかもしれません)


 そう結論を出し、間合いを計りながら、仕掛けてみることにしました。


「……」


 相手の射程に入るかどうかのギリギリの距離。


 懐を探るように、慎重に、大胆に、詰め寄ります。


 あと少しで、ボルドさんの間合いに触れようとした時。


「――」


 それは、ほんの一瞬の出来事でした。


 目の前にいたボルドさんは消えていたのです。


(速い、ですね……)


 ただ、足音がかすかに聞こえます。


 凄まじい速度で移動を繰り返していました。


(でも、音を頼りにすれば問題ないです)


 耳を澄ませ、拳を握り、後手に意識を集中させます。


 足音は、規則性も法則性もなく、音も距離もバラバラでした。


 予測するのは困難な状態です。それも、いつ来てもおかしくありません。


「――」


 そう考えた瞬間、音が一際大きく、距離も近く感じました。


 気配は真後ろ。普通なら、振り返って迎撃がベターな流れです。


(予測不可能なものは予測不可能なことが、予測できるです)


 膨大な経験から導き出された直感。


 それが後ろではない、と語りかけてきました。


 難しく考える必要はありません。心に身を任せるまでです。


(大司教様。お力をお借りするです)


 狙いは背後ではなく、誰もいないはずの正面。


 型も技も心得があります。後は思いを乗せるだけ。


「――虚空拳黄泉」


 突き出したのは、脱力し切った右の拳。


 速さも、強さも、何もない、赤子のような突き。


 腕が伸び切る瞬間に、ほんの少しだけ、センスを込めます。


「――――ッッ!!!」


 目の前には予測した通り、踵落としを放つボルドさんの姿。


 放った拳は、吸い込まれるように、相手の鳩尾を捉えていました。


(手応えあり、です)


 踵が脳天に落とされるまでもなく、ボルドさんは飛ばされていきました。


『クリティカルヒットを確認。敵に200のダメージ。敵残り体力800』


 どうやら、急所だったようです。


 受け身は意図的に取ったみたいですね。


 目を見開いたボルドさんが、前に見えました。


 殴られたことで、トランス状態が解けたっぽいです。


「……ふぅぅ。見事。無軌道を逆手に読まれてしまったか」


 ボルドさんは息を整えながら、素直に褒めてくれました。


 嫌な感じはしません。ただ、満たされない感じの方が強いです。


「……」


 弱いのが可愛い。という価値観に沿って、戦ってきました。


 そのせいで、強いことを褒められても、あまり嬉しくないのです。


 弱くて強いのも可愛いとも言われましたが、分からなくなってきました。


(可愛いを極めろ、という課題は、思ったより難しいですね)


 思い出すのは、大司教様に出された最後の課題です。


 抽象的なせいで、目的に近づけてるのか一向に分かりません。


(勝ち負けも重要ですが、課題にもそろそろ答えを出さないと、ですね)


 複雑な心境のまま、試合に意識を傾けていきました。 


「弱さを極めようとした先の脱力。拙者にはない武の高みに至りつつあるな」


 そこで耳に入ってきたのは、聞き流せない言葉でした。


(……そういう、ことですか)


 弱いのが可愛い。弱くて強いのが可愛い。可愛いを極める。


 課題を出された意味が、今やっと分かったような気がしました。


「これぐらいで驚いてもらっては、困るですね。本領はまだこれからです」


 この調子なら、本当に掴めるかもしません。


 可愛さを追い求めた先にある、自分だけの境地に。

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