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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第68話 継承

挿絵(By みてみん)




 別棟での騒動より三年後。ギリシャ劇場地下の神殿。


 周りは青い松明で照らされ、地面は黒い影に覆われている。


 入り口付近に立っているのは、黒いバニースーツを着たメリッサ。


 両手には白と黒の手袋。足元には骨と肉片と衣服の切れ端が落ちている。


「助けにきたっすよ、先輩。あの時みたいにね」


 そして、メリッサは三年前と同じように上から目線で言い放つ。


 頼んでもねぇのに、全部こいつの手のひらの上。あの時と変わらねぇ。


「……またごっこ遊びのつもりか。助けてくれって、いつ頼んだ!」


 いつもいつも先回りして、過保護なまでに干渉してきやがる。


 初めは、可愛いもんだと思ってた。実際、何度も助けられたしな。


 だけど、もう、うんざりなんだ。こいつに人生を引っかき回されるのは。


「先輩の露払いごっこほど、楽しいものはないっすからね」

 

 すると、メリッサは悪びれることなく、告げてくる。


 冗談なら笑って済ますが、こいつの場合、本気だから性質が悪い。

 

「あいつはっ! あいつはな……っ!!」


 ラウラはバニースーツの胸倉を掴み、行いを責め立てようとする。


 ただ、上手く言葉が出てこねぇ。あいつの素性をよく知らねぇからだ。


「ジェノ・マランツァーノ。未来のジェノ・アンダーソン。組織『ブラックスワン』に属する元代理者(エージェント)。蝙蝠型の聖遺物レリックを所持し、能力は記憶の回帰と忘却。ダンジョン『コキュートス』で洞窟男の魔眼を入手し、適性試験合格。本誓約前に組織から逃走。目的は不明。……ただ、先輩を犯そうとしたっす」


 すると、メリッサは聞いてもねぇことをぺらぺらと語る。


 なんの同情の余地もない、心底くだらねぇ犯行動機つきでな。


「……そんなのが、殺していい理由になると思ってんのかっ!!!」


 胸倉を掴む手の力が、自然と強まる。


 責められる立場じゃねぇのは、分かってる。


 だけど、そんな理由で納得できるわけがなかった。


「おい、その辺にしとけ。責めても死人が帰ってくるわけじゃない」


 そこに割って入るのは、黒スーツを着た銀髪の青年ジャコモ。


 黒いシルクハットのツバに手をかけて、軽く脅しをかけてきやがる。


「……雑魚は引っ込んでろ!!」


 声を荒げるラウラは、空いた左拳に白いセンスを込め、放つ。


 狙いは横手に立つジャコモの顔。そこに目掛け、拳は振るわれた。

 

「――ッ」


 ガキンという金属音が響き、地面を擦る音が聞こえる。


 手応えはあった。だが、いまいち殴り足りねぇような感触。


 恐らく、鋼鉄仕込みのハットでとっさにガードしたってところか。


「……強くなったのは、お前だけじゃない」


 数歩下がった距離で、ハットを片手に持ち、ジャコモは述べる。


 体には赤いセンスが纏われていて、以前に比べて、光に鋭さを感じた。


「外野は黙ってろって言ってんだ! 僕とこいつの問題だ!」


 雑魚じゃねぇのは、認めてやる。


 ただ、口出しされるのは、筋が違う。


 殺したのは後輩だ。こいつは死因じゃねぇ。


「俺も加害者だ! 見たら分かるだろ。視神経腐ってんのか」


 そこでジャコモは、誇らしげに加害者であることを主張する。


 加害したように見えて、そうじゃねぇんだが、説明すんのが面倒だな。

 

「いや、それについては同意っす。この件には口出し無用っすよ」

 

 そう思っていると、メリッサは加勢するような形で口を挟んでくる。


 この件に関しては意見が一致してるらしい。あいつが納得するかは別だが。


「……姉御が、そこまで言うなら」


 ただ、意外にもジャコモは大人しく食い下がっていく。


 しつけられた犬みてぇだった。借りでもあるのかもしれねぇな。


「……それで、先輩はこの件について、どう落とし前をつけさせたいんすか」


 すると、すぐにメリッサは話を戻してくる。


 それもちょうど切り出したかった話題を添えてな。


「殺した責任を取れ。死んだこいつの目的を、お前が代わりに叶えろ」


 ラウラは足元に散らばる肉片を見て、言い放つ。


 後輩を独房にぶち込んだところで、ご褒美にしかならねぇ。


 罪を償わせるにはこれしかなかった。どうせ、反論してくるだろうがな。


「分かったっす。――朱雀、こっちに来るっす」


 しかし、意外にもメリッサは提案を受け入れ、明後日の方向を向く。


 そこにいたのは、一匹の黒い蝙蝠。声に従って、一直線に迫ってくる。


『いいですね。正解。さすがハーバード卒だ』


 飛んでくる蝙蝠は爽やかな青年の声で鳴いた。


 録音した音声を加工再生したような、妙な感じだ。


(あいつの紹介通りなら、聖遺物レリックか……。確か、能力は……)


 考えを巡らせている間にも、メリッサは蝙蝠に手で触れていった。


「う、くっ! 何度やっても、慣れないっす、ね――」


 すると、突然、メリッサはその場で、うずくまり出した。


(記憶の回帰と忘却。まさか、あいつの記憶を引き継いでんのか?)


 浮かぶのは一つの予想。説明された内容から容易に想像がつくものだった。


「おい、顔が真っ青だぞ。大丈夫なのか」


 予想が当たってるにしても、少し様子がおかしい。


 だらだらと脂汗をかき、顔色は悪く、視線は右往左往している。


「……持たざる者よ、等しく首を捧げて、慚愧の至りで朽ち果てよ」


 返事はなかった。代わりに、メリッサは詠唱を終える。


 直後、蝙蝠は輝き出し、白と銀のナイフへと変化していった。


 それを両手で握るメリッサは、ギロリと血走った目で睨みつけてきた。


(どうなってる……明らかに様子がおかしい……)


 嫌な緊張感が場に満ちていく。


 どう考えても、普通の状態じゃねぇ。


 まるで、人格を乗っ取られたような感じだ。 


「お前は一体……何者だ」


 ラウラは自然と、目の前の相手にそう尋ねていた。


 知性を持たない人ならざる者。率直にそんな印象を受けたからだ。


「     、       。」


 そんな予想が的中するように、認知できない言葉を目の前の相手は話してくる。


「あぁ、面倒な展開だな。いいぜ、かかってこいよ人外。目ぇ覚まさせてやる」


 状況を受け入れたメリッサは、拳を構え、人差し指を引いた。


 相手が人だろうとそうじゃなかろうと、一発殴れば元に戻るだろう。


 素手で聖遺物レリック相手は骨が折れるが、意思のない相手に、負ける気はしねぇ。


「にひっ。冗談っすよ、冗談。演技っす」


 と、息巻いてたところに、メリッサは笑みをこぼし、語る。


 顔色は戻り、汗は引き、いたって健康そうな表情に戻っていた。 

 

「……ちっ、ふざけやがって。心配して損したじゃねぇか」


 反射的に出てくるのは、本音。


 普段なら、絶対に口に出さない言葉だった。 


(しまった……。こんなこと言ったら、あの馬鹿は……)


 ラウラは手で口を覆い、目の前のうざい後輩を見る。


「あれ? あれあれぇ? 先輩、うちのこと、心配してくれてたんすか?」

 

 すると、案の定、言葉尻を捕らえて、うざ絡みしてきやがった。

 

「お前のことなんか心配するか、馬鹿」


「へぇ。だったら、何を心配してたんすか?」


「……お前の両手にある聖遺物レリックだよ。壊れたら困るだろ」


 うざ絡みを続ける後輩に、適当な理由をつけて茶を濁す。


 そこで、メリッサは両手に握る、二振りの刃物を見つめている。


「あぁ、これっすか。確かに貴重っすよね」


「そういうわけだ。お前のことは、なんの心配してねぇよ」


「……そうっすか。それなら、これで心置きなくお別れできるってもんっすね」


 売り言葉に買い言葉。なんてことはない、いつもの日常的な会話だった。


 ただ、メリッサの声のトーンが急に落ちる。選択肢をミスった。そんな感じだ。


「あ? お別れ? どういうことだ」


「いいっすか。うちの攻撃、ちゃんと受けてくださいっす」


 疑問に対して、見当違いなことをメリッサは告げてくる。


 それも、二振りのナイフをこちらに向け、敵対する意思を見せていた。


「また演技のつもりか――っ!」


 と言いかけた時、メリッサは近づき、刃を振りかざす。


 反射的にラウラは拳にセンスを集め、そのまま正面に振るった。


「――忘却の彼方」


 拳と刃は触れ、二つの異なる振動は共鳴し、在りし日の記憶だけを忘却させた。

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