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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第65話 在りし日の記憶⑨

挿絵(By みてみん)




 アルカトラズ刑務所別棟三階。事務所。


 眼前では、金髪の男がメリッサを押し倒そうとしている。


(このままじゃ……。どうする……っ!)

  

 それを目の当たりにしながらも、ラウラは動けずにいた。


 ここから一歩でも動けば、別棟に監禁され、慰み者にされる。


 そう言われたことももちろんあるが、それ以上に、分が悪すぎる。


(突っ込むにしても、僕だけじゃ限界がある……)


 視線を横に向けると、黒髪の男が睨みを利かせている。


 一人で飛び出して行っても、上手くいくビジョンは見えねぇ。


(飛び出すなら同時がいいが……こいつは、やれんのか……)


 思考を巡らせながら、ラウラは横にいる人物を一瞥する。


「……」


 そこにいたのは、『鉄仮面』の異名を持つ看守。


 表情は相変わらず毅然としてやがるが、体は震えていた。


 こいつのメンタルは豆腐だ。この状況に、耐えられるわけがねぇ。


(動ける状態じゃねぇか。喝を入れれば動くとは思うが……)


 思い出すのは、別棟に入る前に起きた出来事。


 弱気なメンタルに喝を入れて、『鉄仮面』を被らせた。


 だから、強気に言えば従ってくれるはずだが、問題点が一つあった。


(巻き込んでいいのか……)


 自分が失敗して性奴隷になんのは、まだいい。


 どうせ、死刑になる身だったから、諦めもつく。


 ただ、他人の人生を巻き込むのは、話が別だった。


「意外だな。真っ先に止めに入ると思ったが」


 メリッサを押し倒した金髪の男は、顔だけこちらに向け、語る。


 飢えた獣のような眼光で、雄の本能をむき出しにしてるのが分かる。


 今にも無抵抗なメリッサを組み伏せ、欲望のはけ口にしようとしていた。


(考えてる時間はねぇ。やるなら一人だ。ただ、その前に……)


 すぐに考えを切り上げ、腹を決めるが、一つだけ気掛かりなことがあった。


「確認だが、片方が動いたら、動かないもう片方も連帯責任とはならねぇよな」


 問題は、動かなかった隣の看守が罰を受けるかどうか。


 自分勝手な行動に、他人を巻き込んだら、後味が悪ぃからな。


「それが懸念か。口約束になるが、動かなかった方は手を出さないと保証しよう」


 すると、金髪の男は、納得した様子で答えていく。


 これで、懸念材料はなくなった。後は出たとこ勝負。

 

 足に力を込め、一歩踏み出せば、命がけの乱闘開始だ。


「……そうかよ。それなら、心置きなく僕一人でぶちのめせるってもんだ!」


 己を奮い立たせるように、ラウラは声を張り上げる。


 そして、その有り余る勢いのまま、動き出そうとした。


「……っ」


 しかし、体には、ある異変が起こった。


 足が地面に引っ付いたみてぇに動かねぇんだ。


「どうした? 威勢がいいのは口だけか?」


 すぐに異変を察し、金髪の男は煽るように言った。


 その手はメリッサの体に伸び、胸を揉みしだいている。


「てっめぇ……」


 今すぐにでも、頭を叩き割ってやりてぇ。


 それなのに、体はびくとも動こうとはしねぇ。


 腕はプルプルと震え、拳を握んのが精一杯だった。


「もういいっすよ、先輩。うちの覚悟は決まったっす」


 なんの色もない声音で、メリッサは語る。


 視線は天井を向き、何もかも諦めようとしていた。


(……なんで、どうして、この体は動きやがらねぇんだ!)


 脱獄したい欲望を断ち切って、ここまで来た。


 危険なのは承知の上で、事務所に乗り込んだ。


 慰み者にされる覚悟を決めて、啖呵も切った。


 そこまでして、まだ足らねぇっていうのかよ。


「そこで指をくわえて見ておけ。後輩が孕み袋になる様を」


 金髪の男は腰のベルトに手をかけ、語り出す。


 ここが最後のチャンスだ。今なら、まだ間に合う。


 あのクソ野郎の顔面を、ぶん殴ってやることができる。


(……動け。動け。動け。動け。動けっ!!)


 強く握った手は血で滲み、体は小刻みに震え出す。


 あと一歩、あと一つきっかけがあれば動き出せそうだった。


(……くそっ、くそっ、くそっ!! 動けってんだ!!!)


 それでも、及ばない。足は力んで、震えて、力が全く入らねぇ。


 不甲斐ないにもほどがある。このまま見てることしかできねぇのかよ。


「――」


 その時、靴音が聞こえた。


 遠くはない距離。すぐ近くからだ。


(……嘘だろ、おい。やめろ、やめてくれよ)


 音が鳴った意味は理解できる。


 容易に想像がつく。頭に映像が浮かぶ。


「きひひっ。馬鹿な女だ」


 次に聞こえてきたのは、下卑た笑い声。


 それが示す意味は、もう他に考えようがない。


 あらゆる予想は、自ずと一つの最悪な答えに収束する。


「看守とは、規律と秩序の維持に努め、囚人の指導、更生、社会復帰に従事する者。別棟であろうと、職務は全うされなければならない。つまり、アルカトラズ刑務所看守長――ルミナ・グレーゼの前で、この落花狼藉は、まかり通らん!!!」

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