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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第59話 在りし日の記憶③

挿絵(By みてみん)




 アルカトラズ刑務所一階。監房。


 中央には長い廊下があり、左右には独房。


 天井は吹き抜けで、二階も似た構造になっている。


 収容人数は約400人。監視しやすい見通しのいい設計だった。


「……」


 監房の廊下、正面奥には、白黒の囚人服を着た壮年が立っている。


 短い金髪に、瞳は青く、表情は渋く、顔には無数の刃物傷が見られる。


 手には有線マイクを持ち、大きく息を吸い、年甲斐もなく声を張り上げた。


『聞こえているだろうか。我々、別棟に収容されていた同志諸君の活躍により、本棟の制圧は完了した。所長、及び、看守等の約200名ほどの職員はすでに独房に捕らえ、我々の支配下にある。解放してほしくば、周辺職員は大人しく投降せよ』


 ◇◇◇


 アルカトラズ刑務所二階。パイプや換気口が連なる通路。


 二階の独房からは少し離れ、格子状の壁から下の様子が見える。


 埃っぽく、手入れされてないとこを見るに配管を通すだけの空間らしい。


「潜入完了ってとこっすね。スパイ映画みたいでドキドキするっす」


 上部にある換気口から、しゅたっと降りてきたのはメリッサ。


 すぐに身を屈ませ、遠足気分なのか、うきうきした様子で語る。


「本来は潜入するより、脱出する側なんだがな……。ともかく、見つかんなよ」


 一方、すでに降り立つラウラは、ぼやくように反応する。


 正面から入っても良かったが、潜入したのには、理由がある。


 主要な出入口は厳重に封鎖。男囚人共が武装して待ち構えていた。


 女囚人の扱いが不明な以上、見張りのいない建物上部から入った形だ。


 普段なら、灯台で見張る看守のいい的だが、警備体制は崩壊してたからな。


 見通しのいい昼間なのに、楽々とここまで入り込むことができた、ってわけだ。


「分かってるっすよ。それより、ここからどうするんすか?」


 一階を巡回する武装した男囚人を横目で見ながら、メリッサは尋ねる。


 実際、潜入したはいいが、多勢に無勢の状況で、相手は敵か味方か不明。


 囚人が看守に反旗を翻す展開は、正直、胸が躍るが、楽観はしてられねぇ。


「主犯格と話をつける。そっから、どうするかは相手次第だ。……来るか?」


 ラウラは目的を告げ、意思確認をしていった。


 こっから先は、修羅場になる可能性があるからな。


 逃げる選択肢を与えてやるのも、先輩の気量ってもんよ。


「ここまで来ておいて、今さら引けないっすよ。ただ、あてはあるんすか?」


 ただ、やっぱりこいつは、頭のネジが外れてるらしい。


 それどころか、急かすように、次の行動を催促してきやがる。

 

「あぁ。ムショを占拠して、ふんぞり返る場所といったら、一つしかねぇよ」


 仕方ねぇから、巻き込んでやるか。失敗しても、死ぬだけだ。


 死刑囚のこっちにとっちゃ、後か先か、って些細な違いだけだからな。


 ◇◇◇


 アルカトラズ刑務所三階。所長室。


 上半分が白、下半分が木目調の壁で部屋は構成。


 家具は木製で統一。中央にはアルカトラズ島のジオラマ。

 

 部屋の最奥には執務机があり、そこには一人の男が腰かけていた。


「同志よ、コーヒーを入れてきてもらえないか?」


 両手を組み、発言するのは、騒動の主犯格。


 国家反逆罪で死刑宣告された、短い金髪に青い瞳の男。


 名はスタンリー・アンダーソン。元海軍中佐。特殊部隊の元指揮官。


「……俺は護衛だ。それ以外のことはしない」


 スタンリーの隣に立ち、答えるのは、筋骨隆々の男。


 髪は黒く、前髪は長く、肌は褐色で、囚人服を着ている。


 両手の甲には包帯が巻かれ、目元は、前髪に隠れて見えない。


 名はアンドレア・アンダーソン。罪状も経歴も、一切が不明の男。


 同じファミリーネームを持つよしみとして、作戦に参加させた形だ。


 愛想がなく、融通の利かないところが玉に瑕だが、腕っぷしだけは立つ。


「そうだったな。……仕方ない。私が入れるとしよう」


 ここは、折れるのが得策だろう。


 重い腰を上げて、スタンリーは歩き出す。


 向かう先は、入り口付近にある木目のテーブル。


 そこには、全自動のコーヒーメーカーが置かれている。


 その横には、コーヒー豆が入った布袋と、紙コップが見えた。


 奥には、角砂糖が入っているであろう白いシュガーポットがあった。


「豆はブルーマウンテン。独房じゃ一生味わえない贅沢品だな。飲むか?」


 スタンリーは、まず紙コップを二つ取り、尋ねる。


 同士を労い、意思疎通を図るのも、指揮官としての務め。


 作戦が終わるまでに、心を開かせるのを密かな目標としていた。


「……不要だ」


 しかし、心の壁はベルリンよりも分厚いようだ。


 理由すらも語ることなく、一方的に断られてしまう。


「そうか。必要になったら、いつでも言ってくれ。私が用意する」


 ただ、焦る必要はない。これから、じっくり解きほぐしていけばいい。


 そう思いながら、豆を中に入れ、紙コップを置き、ボタンを押そうとした。


「待て。やはり、二杯分用意しろ」


 すると、気が変わったのか、アンドレアは催促する。


 図体から考えて、二杯で常人の一杯分といったところか。

 

「承知した。砂糖はどうする?」


 小気味いい気分で、紙コップを新たに二つ取り、問う。


 目標に一歩近づいた。そんな躍進を感じることができたからだ。


「それは……。これから聞くことになるだろう」


 返ってきたのは、いまいち要領の得ない回答。


「これから? それは、どういう――」


 当然、聞き返そうとすると、アンドレアは真上に跳んでいた。


 理解が追いつかないまま見つめていると、彼は天井に拳を振るった。


「……ちょっ!?」


「……まじっすか!?」


 ガシャンと音を立て、落ちてきたのは、換気口の金網と二人の女囚人。


 すぐにアンドレアの言っている意味が理解でき、気付けば、こう尋ねていた。


「砂糖はいくつ必要かな。お嬢さんたち」

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