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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第53話 決勝戦⑨

挿絵(By みてみん)




 ギリシャ劇場。武舞台上。


「うらぁ!!!」


 響くのは、ラウラの怒号。


 勢いよく振り放たれたのは、右拳。


 喧嘩で培った泥臭い一撃が、真っすぐ放たれる。


「何度やっても……。無駄……っ!!」


 一方、後手に回るオユンは遅れて動き出し、掌底を放つ。


「うぶっ!」


 掌底は、放った拳の初速を超え、ラウラの顎を的確に捉える。


 瞬間、体は宙に浮き、平衡感覚を失い、気付けば、月を見ていた。


 一部が欠けた月。三日月ってやつだ。どんな意味があるかは知らねぇ。


 ただ、綺麗だった。勝負のことなんか忘れて、ぼーっと、眺めたい気分だ。


『ヒットとダウンを確認。マスターに100のダメージ。10カウントを開始します』


 だけど、そんな甘えが許されるわけがねぇ。


 ズドンという音と共にアイのアナウンスが響く。


 背中はジンジンして、顎はヒリヒリと痛んできやがる。


(……ちくしょう。これでツーダウン目。リーチってところか)


 それでも、頭は働き、状況は把握できていた。


 今みてぇに、綺麗に投げられたのは、これで二度目。


 試合のルールでは、スリーダウンでTKO。負け扱いになる。


 つまりは、もう一度、同じ目に遭ったら負けちまうってところだ。


『10、9、8』


  そう考えを整理してると、アイのカウントが聞こえてくる。


 ダメージは多少あったが、再起不能になるほどの致命傷じゃねぇ。


「……はいはいっと」


 腹筋と背筋を使い、体を起こし、地面に両足をつける。


 言われる前に、ファインティングポーズを取り、再開を待った。


『続行可能だと判断しました。試合を再開してください』


 すると、面倒なアナウンスを端折り、アイは試合を進行する。


(こいつ……まるで人間みてぇだな)


 AIなのは分かってるが、とても機械の行動のようには思えなかった。


 声に抑揚がないだけで、中身がいるんじゃねぇかと錯覚してしまうほどだ。


(いや……んなことより、問題はこっちだ)


 ただ、すぐに考えを切り替えて、ラウラは前を向く。


 そこに立っていたのは、オユン。間違いなく合気道の達人だ。


名前:【オユン・ボルジギン】

体力:【1000/1000】

意思:【50】


 体力は変わらず満タン。試合は一方的に不利な状態。


(拳を交わせば何か見えるかと思ったが、微塵も隙がねぇ……)


 分が悪いのは分かってたが、それでも、やるしかなかった。


 感覚系に飛び道具は使えないってのを、さっき実感したからな。


 何かしらの収穫があればよかったが、そう都合よくはいかねぇわな。


「……しゅぅ、しゅぅ、しゅぅ」


 そう思っていたところに聞こえたのは、吐息。


 息を激しく切らし、呼吸を整えるオユンの姿だった。


(こいつ、もしかして……。いや、どう考えても間違いねぇ……)


 そんな状況を見れば、否が応でも、ある答えに行き着いちまう。


「オユン……。さては、お前……死ぬほど体力ねぇだろ」


 まさかとは思いつつも、見るからにそうだ。

 

 思ったことをそのまま口に出し、確認を取る。


「必要なのは、対応力……。不要な力は、不要……っ!」


 すると、オユンは開き直ったように事実を認めていく。


 どうやら、一か八かで攻め続けた甲斐はあったみてぇだな。


「そうかよ。だったら、ひと思いに次の一撃で沈めてやる」


 体力を回復させる隙は与えてやらねぇ。

 

 恐らく、次の攻防が、体力の限界だろうからな。


 やけっぱちだが、さっきの状況に比べりゃあ、随分マシだ。

 

「望む……。ところ……っ!!」


 オユンは肩で息をしながら、身構え、舞台は整った。


 相手の意思は明らかに低い。拳が入りゃあワンパンKOだ。


 技量でカバーされてたが、体力不足っつぅ致命的な弱点も見えた。


(頼れる技は今んとこねぇが、僕には親にもらった拳がある)


 ラウラはじっと右拳を見つめ、ぐっと意思を込める。


 すると、白く輝くセンスが拳に集まり、収束していく。


(ジェノのような破壊力はねぇが、それでも……やるしかねぇんだ!)


 そこで気を抜かねぇように、自身を奮い立たせ、余計な思考を振り払う。


名前:【ラウラ・ルチアーノ】

体力:【800/1000】

意思:【2243】


 そのおかげか、意思は最高記録を更新。


 体はだるくねぇし、これ以上ない万全の状態だ。


「未来も占いも必殺技も、くそくらえ……」


 距離は約二歩分。一歩踏み込めば、拳が届く距離。


 オユンは距離を調整して、絶妙な間合いを作ってやがる。


 この状況は、奇しくも先鋒戦。ジェノ対ザーン戦の最後と同じ。


 先攻対後攻。決め手も同じと来た。だったら、余計に、負けらんねぇ。 


「こいつが、僕の……全力だぁぁぁぁっ!!!!!!!」


 くすぶる劣等感を力に変え、ラウラは大きく一歩を踏み込んだ。


 一気に距離を詰め、拳を振りかぶり、力の反動を利用する合気に立ち向かう。


「――」


「――」


 拳を放ち、オユンは動き、接敵するまでの間。


 感性と神経が一番過敏になる瞬間に、それは起きた。


「……っ!!?」


 腹の底を蹴り上げられたような圧迫感が体を襲う。


 全身の毛穴がぶわっと開き、嫌な汗が背中を伝っていく。  


 震えが止まらねぇ。振り上げた拳を止めるには十分すぎる出来事。


(オユンの野郎……。こんな底が見えねぇセンスを隠してやがったのか……)


 敗北を覚悟し、ラウラは前を見る。


 恐怖半分。賞賛半分。といったところだ。


 だが、眼前には、目を疑う光景が広がっていた。


「……ッ!!?」


 こっちと同様に、オユンも手を止め、怯えていやがったんだ。


(どうなってやがる。出所がオユンじゃねぇんだとしたら、一体、誰が……)


 そこまで考えた時、頭の中には一人の人物の顔が浮かんだ。


 灰色髪のオールバックに、褐色の肌をした、左頬に傷がある男。


 準決勝の大将戦で戦った、黒いバーテン服姿の、いけ好かねぇやつ。


(こいつは……マランツァーノのセンス……っ!!?)


 理解が追いつき、状況をようやく受け止める。


「とどめ……っ!」


 そこで動き出したのは、オユン。


 さっきと同様の掌底を打ってきている。


「んなくそ……っ!!」


 中身を知っていた分、反応が遅れた。


 焦りながらも、止めた拳を打ち抜こうとするが。


「余の占いは、外れない……っ!」


 遅い。反応も判断も、あまりにも遅すぎた。


 掌底は顎を捉え、オユンの決め台詞が聞こえてくる。


(ついて、ねぇな……)

 

 すると、体は宙に浮き、見えてきたのは三度目の三日月。


 悔しくて仕方ねぇが、今度はぼーっと眺めることができそうだ。

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