表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/83

第49話 決勝戦⑦

挿絵(By みてみん)




 ギリシャ劇場の中央。武舞台上。

 

 武舞台に立っているのはラウラとオユン。


 試合に進展はなく、お見合いの状態が続いていた。


(相手は合気。うかつに攻められねぇな……)


 その原因は相手の戦闘方法。


 相手の攻撃を受け流す、後手の技だ。


 安易に手を出せねぇが、攻め以外の手立てはねぇ。


(だったら、試してみるか。例のアレを……)


 普通の使い手なら、無理くり攻めるだろうが、普通じゃもの足りねぇ。


 付け焼刃だろうがなんだろうが、相手に有効なら、勝負の世界じゃ通用する。


「そっちが来ねぇなら、こっちにも考えがある」


 ラウラは、一歩後退し、オユンから距離を取る。


 距離はおおよそ三歩分。どうあがいても手足は届かねぇ。


「……」


 オユンは、黙ったまま、冷静に待ち構えている。


 御託はいらねぇから、とっととやれっつうところか。


(面白れぇ。そっちがその気なら、やってやるよ!)


 意思を込め、体からは濃い白光。センスが生じる。


 初めて出会った頃とは、格段に成長してるはずだ。


「――」


 掲げるのは、右手。拳を開き、五本の指をピンと立てる。


 成功するイメージを鮮明に思い浮かべ、センスを集中させる。


 ジェノが先鋒戦で掴んだ感覚通りなら、それで上手くいくはずだ。


(よーし、なんとなく掴めた。センスは十二分。失敗する未来は見えねぇ!)


 己を鼓舞し、意識を高め、準備はほとんど整った。


 後は息を吸って、肺に空気を送り込んで、気合入れて。


白い牙(ホワイトファング)ッ!!!」


 叫び、放つ。思い浮かべた、渾身の必殺技。離れた相手にも届く、飛び道具を。


「……」


 しかし、オユンは、構えてすらいねぇ。


 無表情で、哀れむような目線をくれてやがる。


 それどころか、体にはセンスすら纏っていかなった。


(こいつ、馬鹿か? このままだと直撃して――)


 心の中で罵りながらも、思考が止まった。


 一目見て、その理由が分かっちまったからだ。


「嘘だろ、おい……」


 だってよ、目の前には何もなかったんだ。


 心の底からできると疑わなかった、渾身の必殺技。


 白い牙が手から生じるイメージで放ったはずの、センスが。


「そなたは今日、成功しない暗示……。そう言った……っ!」


 初めから出ないと分かっていた口振りで、オユンは語る。


 それほど、自分の占いの結果を信じていたってぇとこだろう。


(舐め腐りやがって……。まだ分かんねぇだろうが……っ!!)


 かぁっと、血が頭に上っていくのを感じる。 


 でも、今さら引くに引けねぇ。こうなりゃ意地だ。


白い牙(ホワイトファング)ッ! 白い牙(ホワイトファング)ッ!! ――白い牙(ホワイトファング)ッ!!!」


 連呼。がむしゃらに連呼。ただひたすらに連呼。


 恥も外聞もなく、子供みてぇに必殺技を叫び続けた。


 自分を信じ続ければ、いつかできるって、言い聞かせて。


「……っ」


 歯をギリッと軋ませる音が聞こえる。


 それが自分の音だって気付くのに時間がかかった。


「夜の地中海を眺めてる方が、有意義……」


 次に聞こえてきたのは、オユンの呆れたような声。


 首を横に向け、劇場の横手に広がる景色を眺めてやがる。


 お前に見る価値はない。間接的にそう言われてるみてぇだった。 


(こんの野郎……っ!!!)


 だったら、無理にでも続けたくなる。


 何がなんでも、諦めたくなくなっちまう。


「……くそっ、どうして、出ねぇんだ」


 それなのに、気付けば右手を下ろし、本音を漏らしていた。


 悔しいが、これ以上やっても無駄だって、感覚で分かるからだ。


「意思の力は感覚系。芸術系。肉体系。おおよそこの三つに分類される……」


 見下げを通り越し、オユンは情けをかけるように解説を始める。


 別に回答なんて求めてねぇのに、余計なことをぺらぺらと喋りやがる。


「……」


 遮ってやりたいのは山々だが、どう考えても耳よりの情報だ。


 ここは黙って耳を傾けるしかねぇ。センスに関しては素人だからな。


「そなたは感覚系……。感覚系は感じ取ることが得意で、センスを飛ばしたり、形に変えるのが不得意。芸術系は、センスを飛ばしたり、形に変えるのが得意で、身体強化が不得意。肉体系は、身体強化が得意で、感じ取るのが不得意……っ!」


 オユンは、止まることなくつらつらと説明を続ける。


(へぇ……。僕が感覚系で、鈍いジェノは肉体系か。あながち間違ってねぇな)


 嘘をついているようには、感じなかった。


 だってよ、人には必ず得意、不得意が存在する。


 それが、意思の力にまで反映されてるってだけの話だ。


(……ん? でも、待てよ)


 説明を受け止めながらも、浮かんだのは些細な疑問。


「どうして、僕が感覚系だって分かった」


 占いの力を使ったから。オユンも感覚系だから。


 色々と考えられるが、他に種があるような気がした。


「芸術系のセンスは鋭く、肉体系のセンスは量が多く、感覚系のセンスは――」


 そこまで言われて、さすがに理解できた。


「濃い……わけか」


 つまるところ、ぱっと見で、敵の系統が判別可能ってわけだ。


 知っているのと、知ってないのとじゃ、天と地ほどの格差がある。


(敵の情報を鵜呑みにするのは危険だが、頭には入れた方がいいだろうな)


 嘘の可能性も視野に入れつつも、前を向く。


「でも、どうして話した。黙ってりゃ有利なはずだろ」


 これは念のための探りだ。下手な嘘は見抜ける。


 感覚系。つぅのが正しいなら、分かっちまうはずなんだ。


「そなたの朝餉は美味だった……。それだけ……っ!」


 意気揚々とオユンは理由を語り、ようやく構え出す。


 発しているのは、赤く濃いセンス。説明通りなら、感覚系の証。


 とても嘘には感じねぇ。つまり、自らのセンスを間接的にバラしたことになる。


(……やっぱ、こいつらは憎めそうにねぇな)


 少しでも、人として粗があれば、やりやすかったかもしれねぇ。


 でも、こいつらには、嫌味が一切ねぇんだ。あるのは、武士道精神。


 フェアに戦えればそれでいい。っつぅ、なんの悪意もない真っすぐな心。


「あぁ、そうかよ! 教えてくれて、さんきゅな! でも、ぶっ飛ばす!!!」


 互いに感謝を伝え合い、ようやく戦う舞台は整った。


 後は、正々堂々、心置きなく、実力で未来をこじ開けるだけだ。



現在、本話にて話のストックが0になってしまいました。

明日は更新できないかもしれませんので、あらかじめご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ