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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第47話 忍び寄る影

挿絵(By みてみん)




 先鋒戦が終わり、数十分が経過したギリシャ劇場。


 中央の砂地の上には、真新しい石造りの武舞台が見える。


 試合中にできた大穴を塞ぐ処置として、運営が用意したものだ。


(やけに手際が良いな。これも予想通りの未来ってか……)


 砂地の脇で、武舞台が運ばれる光景を眺めていたのは、ラウラだった。


 立ちながら、腕を組み、訝しむように、一連の流れを黙って見つめていた。


「……よっと。ラウラ、中堅戦の準備できたみたいだよ」


 観客席の柵を軽快に飛び越え、現れたのはジェノ。


 小休憩してたが、吉報を知らせるために戻ってきたみてぇだ。


(よくケロッとしてられるな。あんな試合の後なのによ……)


 先鋒戦は、ジェノの勝利に終わった。


 勝ったのは嬉しいが、勝ち方がえぐすぎる。


 あの爆弾みてぇな技。あれは到底、真似できねぇ。


 センスには限界がある。許容量を超えると、ぶっ倒れる。


 あれだけの破壊力を持つ拳だ。体に相当な負担がかかったはず。


 それなのに、何事もなかったように見えるのが不思議で仕方なかった。


「分かってるよ。見てたからな。……それより、ジルダはどうした」


 ただ、褒めてやるのも認めてやるのも癪だ。


 口には出さず、ラウラは早々に話題を変えていった。


 実際、目の届く範囲で、ジルダがいねぇのは気掛かりだった。


「トイレかな? まぁどの道、すぐに戻ってくるんじゃない?」


 楽観視してんのか、ジェノはあっけらかんと言った。


 相変わらずって感じだが、危機感が少し足りてねぇように感じる。


「あのなぁ。あいつは未来のお前の娘なんだぞ。少しは心配してやったらどうだ」


 状況整理も兼ねて、危機感を煽るように事実を伝えてやった。


 放任主義と言えば聞こえはいいが、あまりにも無関心がすぎる。


 過保護とまではいかなくとも、心配はしてもいいと思うんだがな。

 

「曲がりなりにも、俺の娘だよ。大丈夫に決まってる」


 すると、ジェノは自信満々に即答していった。


 その表情は明るく、瞳には一切の揺らぎも曇りもない。


 自分が大丈夫なら、その娘もきっと大丈夫。ってぇとこだろう。


 自己肯定感のお高いことで。その自信が、強さの秘訣かもしれねぇがな。


「あぁ、そうかよ。ただ、これは命令だ。ジルダのそばにいてやれ」


 言ってる理屈は分かるが、念には念をってやつだ。


 ここから先は、何が起こってもおかしくねぇからな。


「えっ、でも、ラウラ、これから中堅戦なんじゃ……?」


 すると、ジェノは不安を隠し切れない顔で、尋ねてくる。


 占いのこともあるし、単純に見届けたいって気持ちがあるんだろう。


「ばーか。僕が負けるわけねぇだろ。安心して、ジルダの方に行ってろ」


 ただ、余計なお世話だ。誰かに見守られなくても、やるべきことはやる。


 それが大人ってもんだ。本音を言えば、心細いが、もう子供じゃねぇからな。


 ◇◇◇


 ギリシャ劇場。観客席の裏手。公衆トイレ前。


 周りは風化した赤っぽい石造りの壁が並んでいる。


 それが影を生み、トイレ周辺は月の光が届いていない。


「……ふぅ。見てるだけで、緊張してしまうです」


 そんな暗がりのトイレから出てきたのは、赤い村娘服を着たジルダ。


 赤いハンカチで手の水気をふき取りながら、強張った表情をしている。


「…………」


 その背後に、忍び寄る人影があった。


 ジルダは気付かず、劇場に戻ろうとしている。


「――」


 それをいいことに、不審者はジルダに魔の手を伸ばす。


 少しずつ、ゆっくりと、気取られないように、迫っていく。


 距離は徐々に縮まり、ほんの数ミリで、ジルダに触れかけた時。


「そこまでにしておいた方がいいですよ。……不審者さん」


 赤っぽい石造りの壁の上から、声変わり前の少年の声が響く。


 その体には銀光を纏い、いつでも引き金を引ける状態になっていた。


「え? ……ジェノさん、ですか?」


 先に反応を示したのは、ジルダだった。


 壁上に目線を向け、やや戸惑っている様子。


「……っ」


 一方で、不審者は手を引っ込めている。


 驚きのあまりか、軽い息遣いが漏れ出ていた。

 

「そのお顔、拝ませてもらいますよ。どうせ、白教なんでしょうけど」


 少年――ジェノは予想を立て、纏う光を強め、辺りを照らす。


 光は徐々に、暗がりにいた不審者の顔を明らかにしていった。


「…………え。なんで」


 不審者の顔を目撃し、反応を示したのはジェノ。


 予想とは違う。そう言わんばかりの表情をしている。


「もしかして、敵、ですか……?」


 ようやくジルダは状況を察し、後ろを振り向いた。


 そこに立っていたのは、短い紫髪に黒いバニースーツを着た女性。


「うっす。久しぶりっすね。ジェノさん」


 ジェノにとっては、適性試験を共にした元仲間。


 試験を不合格になり、ダンジョン送りとなった冒険者。


 しばらくは戻ってこれないと思われた、メリッサが立っていた。

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