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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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44/83

第44話 決勝戦③

挿絵(By みてみん)




 イタリア。シチリア島。タオルミーナ。ギリシャ劇場。


 時刻は夜。半円形の階段状に連なる、石畳の観客席は満員。


 舞台の中央には、銀光を纏うジェノと黄光を纏うザーンがいた。


 互いに睨み合うような状況が続き、二人の距離は一足一刀の間合い。


「……疾っ! 疾っ! 疾っ!」


 先に動いたのは、ジェノだった。


 突くような蹴りを、素早く三度放つ。


 狙いは、顔面。左腕。右大腿の計三か所。


「……鉄槌三連アルク・グルヴァンイヘル


 対するザーンは、どっしり構え、三度の張り手で対応。


 どれも避ければ、飛び道具判定の黄色い光波がついてくる。


(速く、もっと速く、さらにずっと速く)


 そんな中、ジェノが選んだのは速度のごり押し。


 避けても駄目なら、真正面から向き合うしかなかった。


 密着の殴り合いになるのは承知の上だ。その上で競り勝ってやる。


「……」


「……」

 

 銀と黄の光が、瞬く間に三度ほど輝きを見せた。


 先手の足技と後手の手技。相打つ形で二人は距離を取る。


 これ以上攻めても守っても意味がない。連撃による判定は現在ない。


『クロスヒットを確認。互いに50のダメージ』


 待っていたのは、アイのアナウンス。


名前:【ジェノ・アンダーソン】

体力:【750/1000】

意思:【1072】


名前:【ザーン・バヤル】

体力:【900/1000】

意思:【1040】


 改めて、結果が反映された数字を確認していく。


(攻防は引き分け。意思は右肩上がり。幸先としては悪くはない)


 最初の打ち合いに比べ、進歩はあった。


 格上の相手と考えれば、上々の結果だと思う。


(……ただ、このままだとジリ貧だ。先手だとクリティカルが取れない)


 問題は、ルール上における先手の弱さ。


 後手は、敵の隙を見てから狙う場所を選べる。


 一方、先手は、どこに隙が表示されるか分からない。


 その仕様上、ダメージトレードは先手が明らかに不利だった。


(それに相手は、てんで本気じゃない……。まだまだ気は抜けないな……)

 

 加えて、気になるのは、意思の低さだ。


 開戦時、ザーンの意思は2000を軽く超えていた。


 ただ、あの数字は、前の試合を参考にしたデータになる。


 つまり、今のザーンは前回の半分以下の力しか出していないんだ。


「お前……加減してるか?」


 すると、ザーンは不思議にもそんなことを尋ねてくる。


 こっちが言いたい台詞を、相手から言われたような感じだった。


「え……? 加減してるのは、むしろ、そちらでは?」


 ジェノは、きょとんとした顔を作り、思ったことをそのまま言い返す。

 

 言っている意味が分からなかった。からかうような人とは思えないんだけどな。


「ふん……。アホと天才は紙一重……。よーく、数字見てろ」


 すると、ザーンは何かを確信しているかのように語る。


「……数字?」


 たぶん、数字は意思の力のことだと思う。


 とはいえ、言葉足らず過ぎて、何を意味しているか分からない。


「――」


 すると、ザーンは、右足を軽く上げ、下ろす。


 次に左足を軽く上げ、下ろす。という動作をしている。

 

 四股踏みだった。相撲取りが下半身と体幹を鍛えるためのもの。


(一体、何を……)


 困惑しながら、一連の動作を見つめていると、ザーンは目を見開いた。


「……っ!!」


 瞬間、相手の体から黄色い光が溢れ出す。


 今までの比じゃない。体に纏われる以上の膨大な光。


 まるで、地下から間欠泉が湧き出たような、圧倒的光量を誇っていた。


(これが、ザーンさんの本気……っ)


 言われずとも、肌で感じ取れる。


 ごくりと息を呑み、相手の数字を見た。


名前:【ザーン・バヤル】

体力:【900/1000】

意思:【2358】


 当然のごとく、前回の試合の最高値を更新。


 今まで戦った相手の中でもトップクラスの数字だった。


(……さっきのは、皮肉だった?)


 お前、加減してるのか。その台詞がまだ頭にひっかかる。


 でも、どう見たって差は歴然。数字では勝てないはずなんだけどな。


「化け、物……」


 そう考えていると、ザーンは、ぽつりとつぶやいた。


 圧倒的に優勢なはずなのに、その瞳には恐怖の色が見える。


(どういうこと? 後ろに誰かいる?)


 視線の意味を深読みして、ふと後ろを振り返る。


 自分以上の実力者が、後ろにいたなら納得できるからだ。


(誰も、いない……)


 だけど、そこに人影はない。


 見えたのは、観客席とは逆側の場所。


 風化した石造りの建物。ギリシャ劇場の跡地。


(じゃあ、さっきのは……)


 つまり、今の言葉と視線は自分に向けられたことになる。


 そう冷静に事態を受け止めていると、視界にはある数字が見えた。


「……っ!?」


 思わず目を疑った。機械の故障かと思った。


名前:【ジェノ・アンダーソン】

体力:【750/1000】

意思:【2469】


 だって、簡単に相手の数字を超えていたんだ。


 こっちは、なんの努力もしていないっていうのに。

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