第42話 決勝戦①
イタリア。シチリア島。タオルミーナ東部。
山の斜面を切り開いて作られた舞台。ギリシャ劇場。
半円形の階段状に石造りの観客席が広がり、中央には舞台。
観客動員数は、約5000人。コロッセオの十分の一程度の広さだった。
当然、観客は満員。プレミア価格がついたチケットは一分で完売していた。
時刻は二十時。夜闇が辺りに満ちる頃、舞台中央にはスポットライトが当たる。
『――』
立っているのは、赤いスーツを着た、男性実況者。
髪は黒く、七三分けで、耳は長く、褐色肌で細身の青年。
片手には、無線のマイクを持っていて、大きく息を吸い込んだ。
『三人一組の異種格闘技トーナメント。ストリートキングも残すところ決勝のみ。優勝者には歴史的遺物『シビュラの書』と、副賞は1000万ユーロが与えられる夢のある舞台。その頂に王手をかけた、選りすぐりの選手たちの入場だぁ!!!』
熱い実況の音色と共に、舞台には白い煙が上がる。
同時に、夜の空には、一筋の赤い閃光が煌めいた。
ドドンとド派手な音を立て、閃光は華麗に花開く。
情熱の赤。熱気の象徴。開幕を示す打ち上げ花火。
観衆は地響きのような歓声を上げ、その時を待つ。
「「「「「「――――」」」」」」
満を持して舞台裏から現れたのは、予選本選を勝ち抜いた六人の選手。
予選では互いに手を組み、寝食を共にした、浅からぬ因縁を持つ両チーム。
その全員が、舞台中央に出揃い、観客の歓声と視線を、一斉に受ける形となる。
『ここに役者は出揃った! 血沸き肉躍る試合を始める前に伺うべきことがある』
そんな観衆の熱狂がひとしきり収まった頃。
実況者はタイミングよく、大会の進行をしていく。
『まずは、チームラウラのリーダー。ラウラ選手。試合の意気込みをどうぞ!』
そして、マイクをラウラに向け、暑苦しく尋ねていった。
服装は、白いシルクのドレスに、体には白い包帯が巻かれている。
加えて、両目には、黒いゴーグル。両手には、白いグローブが装着されていた。
『ぜってぇ、勝つ。そんだけだ』
マイクを向けられたラウラは、ローテンションでインタビューに答える。
ただ、その顔色は至って真剣そのもので、秘めたる闘志が垣間見えていた。
『シンプルで短いながらも、熱く、心のこもった言葉をありがとう! では次に、チームラウラに対するチームモンゴルのリーダー。ボルド選手! 本大会におけるトップの成績を誇る立場として、相手選手に何か一言あれば、どうぞ!!!』
次にマイクを向けられたのは、青い民族衣装を着た辮髪の男。ボルド。
黒いゴーグルに、白いグローブを身に着け、その体は細く引き締まっている。
『成績や数字に意味などない。互いの意思を存分にぶつけ合おうぞ』
そして、武士道精神に則った言葉を言い放ち、舞台は整った。
『くぅぅ、この男、謙虚すぎる! さぁ、兎にも角にも、両者の意気込みは伝わった! 最高の舞台で、至高のエンターテインメントショーを始めようか! ストリートキング、決勝戦! これより、試合開始ィィィィっ!!!』
実況者は、魂のこもった声を乗せ、決勝は始まった。
暗雲立ち込めるシチリア島の伝統ある建物。ギリシャ劇場にて。




