表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/83

第41話 未来

挿絵(By みてみん)




 イタリア。シチリア島。タオルミーナ。ホテルイザベラ屋上。


 時刻は夜のはじめ。日は陰り、夕闇が辺りを支配しようとする頃。

 

 トイレから戻ってきたラウラとジェノは席につき、ジルダに視線を向ける。


「で、お前は何を隠してる。そろそろ話してもらうぞ」


 そこで、話を切り出したのは、ラウラだった。


 その表情はどことなく晴れやかで、スッキリとしている。


 ジェノは、止めようとするも止められない。そんな反応をしていた。


「……先に謝らせてくださいです。ごめんなさいでした」


 すると、ジルダはなぜか頭を下げ、謝辞を述べた。


 謝ったってぇことは、後ろめたいことがあったらしい。


 場の空気は自然と重たくなり、気まずい沈黙が流れていく。


 頭下げたなら、許してやる。そう言ってやりたいのは山々だが。


「それはなんの謝罪だ。事と次第によっちゃ、ただじゃおかねぇぞ」


 締めるところは締めねぇといけねぇ。


 曲がりなりにもチームのリーダーだからな。


(ま、どうせここまで言っても、無駄なんだろうが……)


 ただ、ジルダの回答に、正直そこまで期待はしてねぇ。


 今まで懐を見せなかったやつが、簡単に心を開くわけねぇからな。


「……順序立てて、お話ししますです。ボクがこれまで隠していたことを」


 そんな中、意外にもジルダは覚悟を決めた様子で語り出す。


 嘘か本当か。本音か建前か。ともかく、これではっきりしそうだ。


 ◇◇◇

 

「――以上が、お二人に隠していたことです」

 

 あれから数十分が経過し、ジルダは話を締めくくる。


 話の順序はめちゃくちゃだったし、情報も断片的だった。


 多少、話のできるやつなら、一分ぐらいでまとまる内容だろう。


 お世辞にも、話が上手いとは思わねぇ。どちらかと言えば、口下手だ。


「……『シビュラの書』で見た理想の未来を叶えるために、言えなかった、か」


 それでも、ジルダが語る言葉には、心がこもっていた。


 仕草からも、表情からも、嘘をついてるようには見えねぇ。

 

 ここにきて、ようやく腹を割って話してくれた。そんな気がした。


「簡潔に言えば、そんな感じです。改めて、お二人を騙してごめんなさいでした」


 そう考えていると、ジルダは再び頭を下げる。


 さっきみてぇに嘘臭くねぇ。ちゃんと誠意が感じられた。


 ジルダの背景が見えたからだろうな。全貌が分かったわけじゃねぇが。


「気にすんな、って言えるほど大人じゃねぇが許してやるよ。話してくれたしな」


 ひとまずは、雪解けってやつだ。


 これ以上疑ってかかる必要はねぇだろう。


 まだ裏があるなら、裏切られた時に考えりゃあいい。


(ま、あくまで僕の話に限るがな……。こいつがどう思うかは別の話だ)


 ラウラはちらりと隣に座るジェノの顔を見る。


「……」


 だんまりと沈黙を貫いていて、顎に手を当て、深く考え込んでいた。


(理由があっても、不義理は許せない性質タチかもな)


 ジェノは隠し事をしないタイプの人間だ。


 何か問題が起きれば、迷わず、報告してくる。


 その逆のことをされたら、どう思うのかって話だ。


「あの……。ジェノさんは許してもらえない感じ、ですか」


 その沈黙が答えだと思ったのか、ジルダはおどおどしながら確認していく。


(さて、どう出る。ここでぶち切れたりしたら、面白れぇんだがな)


 ラウラは高みの見物をするようにジェノの反応を待つ。


 もし、仮にぶち切れたとしても、止めるつもりはなかった。


 人の感情にとやかく言えるほど、偉くなった覚えはねぇからな。


「あ、えっと、気にしてはいませんよ。ただ……」


 そこでようやっと、ジェノは回答をする。


 どうやら、なんとも思ってなかったらしい。


 ある意味こいつらしいな。続きが気になるが。


「……ただ、なんです?」


 安堵しつつも、不安そうな表情で、ジルダは尋ねる。


 最後の言葉まで気を抜いてないらしい。慎重なやつだな。


 ここから、見限られるような展開なんてねぇと思うんだがな。


「理想の未来って、具体的には何を目指していたんですか?」


 そんな中、ジェノは深刻な顔をして本題を切り出した。


 聞いたのは、未来を実現するため、っつぅ表面的な部分だ。


 具体的な中身の話はまだしてねぇ。内容次第で判断ってとこか。


「……それは」


 それに対し、困った顔をしてジルダは言い淀む。


 こいつのプライベートゾーンってやつかもしれねぇな。

  

 例えば、意中の男性と結婚するため、とか言いたくねぇだろ。


「心配すんなって、こいつなら悪だくみはしてねぇよ」


 一応、同じ女性側の立場として、フォローを入れてやった。


 聞かれていいことと、聞かれたらまずいことぐらいは分かるからな。


「善悪なんか立場と主観で変わるよ。俺は目的を聞くまで信用できない」


 意図が伝わってねぇのか、ジェノは自論を語り、頑なに譲ろうとしなかった。

 

(はぁ……。生真面目っつーか、頑固っつーか。気持ちは分かるけどよ)


 このモードに入ったジェノは正直言って、めんどくせぇ。


 どう説得しようとしても、絶対に自分の意見は曲げねぇからな。


「一応止めたが、答えた方がいいんじゃねぇか。このままじゃ見限られるぞ」


 念のため、ジルダに向けて状況が分かるように説明する。


 このままだと、チーム内に亀裂が入るのは間違いねぇからな。


「書の記述にないので、できれば答えたくないのですが……」


 それでも、ジルダは答えたくないらしい。


 よっぽと恥ずかしい内容なのかもしれねぇな。


 仕方ねぇ。恥をかかねぇようにお膳立てしてやるか。


「いいから、さっさと吐いちまえ。ここだけの話にしてやるから。なぁ、ジェノ」


 ラウラは、隣にいるジェノの肩を叩き、同調圧力をかけていく。


 話す覚悟は決まってるみてぇだが、余計な心配は減らしてやりてぇからな。


「うん。……俺は誰にも言わないですよ。仲間でいられるかは内容次第ですけど」

 

 圧に屈したように見えるジェノだったが、発言の芯は揺らいでねぇ。


 むしろ、ジェノがジルダに圧を与える形で、会話のバトンを渡していった。


「……仕方ありません。お話ししますです」


 すると、ジルダは観念したように話し出す。 


 その表情は真剣で、すでに覚悟を決めたみてぇだ。


 細かい息遣いが聞こえ、言葉を発する準備も万端ときた。


(さぁ、何が出てくるか、見物だな)


 どんな赤裸々なエピソードが語られるのか。


 人の恥部が垣間見える瞬間だ。楽しみで仕方がねぇ。


「……実の父親と一緒に暮らす。それが、ボクの思い描いた理想の未来です」


 十分な前置きを挟んだ上で、ジルダは目的の中身をようやく語る。


 思っていたよりもまともな理由。適当な嘘を並べているように見えねぇ。


(これはちょっと茶化せねぇな……)


 場を和ませるためにも、冗談めかして触れようと思ったが、無理だ。


 父親が生きていたら、同じ道を選んでてもおかしくなかっただろうからな。


「やっぱり、今のは……」


 聞いた二人は押し黙り、ジルダは発言を訂正しようとする。


 その顔は真っ赤になっていて、恥を忍んで話したってのが見て取れた。

 

「訂正する必要なんかねぇよ。立派な理由だと思うぜ」


 さすがに反応しないわけにはいかねぇわな。


 大きいくくりで見りゃあ、同じ穴のムジナなんだからよ。


(僕はいいとしても、問題はジェノ、なんだよな)


 ラウラは隣にいるジェノを見つめ、思考する。


 こいつの判断基準はまだ掴めねぇとこがあるからな。


 そんなエゴのために騙したのか、なんて台詞も言いかねない。


「……実の父親。ジェノ・マランツァーノか」


 ジルダの言葉を噛みしめるようにジェノは独り言をこぼす。


 もうフォローは入れられねぇ。後は、こいつの主観次第だ。


「駄目、ですか?」


 我慢しきれなくなったのか、ジルダは回答を促した。


 その表情は暗く、不安に押しつぶされそうな顔をしている。


 ジルダの中では、見限られる可能性を高めに見積もってるらしい。


(受け入れる確率は、半々ってところか)


 ある程度予想をしつつ、どっちつかずの空気が流れる。


 当の本人じゃなくても、胃が少しキリキリしてきやがった。


「……納得しました。その理由なら、ジルダさんのこと信用できそうです」


 そこでジェノが見せたのは、肯定的な反応だった。


 どうにか、お眼鏡に叶ったらしい。ギリギリのラインな気がしたが。


「ふぅ……。それなら、良かったです……」


 ほっと一安心といったところか、ジルダは深く息を吐きながら言った。


 ひとまず、修羅場は避けられた形だ。話は一件落着、ってぇところだろう。


(話を終わらせてもいいが、どうもまだ気になるな)


 ただ、疑問の全てが解消されたわけじゃねぇ。


 目的の中身を知った上で、気になることがまだあった。


「この際だから、僕も一つ、聞いといてもいいか?」


 そう考えたラウラは、早速、質問を重ねていく。


 ジルダの話では未来のことはあまり話せないらしい。


 なんでも、話すぎると、未来に影響が出るからだそうだ。


 ただ、今さら一つや二つ質問が増えたところで変わらねぇだろ。


「……だいじょぶです。ボクで答えられることだったら」


 すると、ジルダは警戒心を強めながらも、了承してくれる。


 少しぐらいなら未来に影響は出ないって、判断したのかもしれねぇな。


「じゃあ、遠慮なく聞くが、この先の展開は、どう書かれてたんだ?」


 ラウラが率直に尋ねたのは、タブーとも言える質問。


 結果を知れば、未来に影響が出てもおかしくねぇからな。


 答えてくれたら儲けもんだ。別にそこまでの期待はしてねぇ。

 

「……えっと、ボクたちは決勝で敗れて、『白き神』は完全復活を果たす、です」


 そんな中、サラッと返ってきたのは、とんでもない事実。


 大会で問題が起きることが確定している、重苦しい未来だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ