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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第31話 本選準決勝⑦

挿絵(By みてみん)




 コロッセオ。舞台袖。


 会場は未だブーイングに満ちている。


 時は、中堅戦があっけない幕切れを果たした後のこと。


(……嫌な予感が当たってしまいましたか)


 その光景を舞台袖で見ていたのは、マランツァーノ。


 正面にはセレーナ。武舞台から背を向け、歩いてきている。


 その顔は俯いていて、気まずそうにこちらから目を逸らしていた。


(皮肉なものですね。あの素っ気ない態度が、元々はこちらに向いていたとは)


 思い出すのは、対戦前のジェノに示していた反応。


 それがなんの因果か、そっくりそのまま返ってきている形。


 切られる覚悟をある程度していたとはいえ、さすがに堪えるものがあった。


「……」


 すると、気付けば、セレーナは舞台から降り、隣に立っている。


 顔は合わせず、ただ、誰もいなくなった武舞台を静かに見つめていた。


(口も利けませんか。困りましたね……)


 セレーナは、中堅戦を自らの意思で降参した。


 この先、どういう立ち振る舞いをするか分からない。


 準決勝を勝ち進んだとしても、決勝で降参されては正直困る。


「悪いけど、あたしは『あっち』につくから」


 どう声をかけようか迷っていると、セレーナは自ら話を切り出した。


 その声色は暗く、冷たい。今まで接していた彼女とは、別人のように感じる。


(やはりこうなりますか……。勝ち進んでも、徒労で終わるかもしれませんね)


 決勝で待ち構えているチームは、強敵だ。


 一敗が確定した状態で勝てるほど、甘い相手ではない。


 セレーナが使えないなら、何か別の策を講じておく必要がありそうだ。


「残念です。あなたは最後まで味方でいてくれると思っていましたが」


 事実を受け止め、マランツァーノは淡々と語る。


 『こっち』の世界で目的を分かってくれる人はいない。


 他人に期待するだけ損。結局は一人でやり切るしかなかった。


 アレを体験していない人間が、同じ道を選べるはずがないのだから。


「安心して。セバスを見限ったわけじゃない。今回は勝ちを譲っただけ」


 そう気持ちに踏ん切りをつけた時、セレーナは話を付け加えた。


 嬉しいような、嬉しくないような、複雑な感情が心の中で膨れ上がる。


(この言葉、信じていいのでしょうか……)


 不安、迷い、心細さ。その全てをさらけ出してしまいたい。


 ただ、今は見せられない。一度でも感情をさらせば、覚悟が揺らいでしまう。


(いえ、気にすべきは、人として信じるかどうか、ではないですね)


 マランツァーノは頭を振って、余計な雑念を振り払い、覚悟を決める。


(――駒として、使えるかどうか。それを見定めるための単純な作業)


 傷つくのが怖いから。断られたら辛いから。裏切られるのは嫌だから。


 だから、感情を包み隠して、それっぽい理由で自分を納得させて、口を開く。


「つまり、次の試合、私が勝てば、決勝は本気で動いてくれると?」


 尋ねるのは、先を見越した未来のこと。


 予防線は張ってある。駒なら断られても問題ない。


 ただ、使えなかった。そう割り切っておけば傷つかなくて済む。

 

「当然でしょ。あたしを守るナイト様は、一人でも多い方が楽ちん、だからね」


 しかし、セレーナは、どこまでも人だった。


 先ほどの暗い声音が、嘘のように明るくなっている。


「はぁ……」


 心の底からため息が漏れる。


 それが、どういう感情かは分からない。


 安堵か、呆れか、はたまた、憧れからくるものなのか。


「なにその反応……。あたしのこと超馬鹿にしてない?」


 感情の整理がつかないまま、セレーナは不服そうに尋ねてくる。


 ともかく、これで不安材料はなくなった。言うべきことは一つのみ。


「信用していますよ。これで、心置きなく優勝をもぎ取ることができそうです」

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