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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第27話 本選準決勝③

挿絵(By みてみん)




 コロッセオ。武舞台上。


 タッタッタッと素足で走る音が響きます。


 迫ってくるのは、一人の白い髪に黄金色の瞳を持つ少女。

 

「ミーザっ!!!」


 ミザリーは、『せーの』と言わんばかりに頭突きを放ちました。


 避けるのは簡単です。でも、避けるわけにはいかないです。なぜなら。


「……っ」


 そう考えていたところに、ガシンと重たい衝撃が、お腹に走ります。


 それは、ミザリーの頭が食い込んだ音でした。ものすごい痛かったです。


『ヒットを確認。マスターに50のダメージ』


 頭突きを体で受け止め、踏ん張っていると、無機質な声が耳に響いてきます。


名前:【ミザリー】

体力:【100/1000】

意思:【未測定】


名前:【ジルダ・マランツァーノ】

体力:【0/1000】

意思:【0】


 視界の端には、簡略化されたステータスが浮かびます。


『――マスターは敗北しました』


 そして、アイの声が響き、勝負の決着はつきました。


 立ち合いは強めで後は流れで。八百長を起こした力士の台詞です。


 それに勝るとも劣らない名勝負でした。これなら文句は言われないはずです。


「……」


 二人なら、頑張ったねと褒めてくれるはずです。


 後ろを振り向けば、きっと、その言葉が待ってるはずです。


 それなのに動けません。心にぽっかり穴が開いてしまったみたいでした。


(……お二人に向ける顔がない、です)


 笑えばいいのか、泣けばいいのか、落ち込めばいいのか。


 どんな顔をして、後ろを振り向けばいいのか分かりません。


 足は鉄の棒のように硬くなって、びくともしなくなりました。


 こんな感覚、初めてです。今まで一度も感じたことありません。


「……ミザ?」


 すると、頭突きをしていたミザリーがこちらを向き、首を傾げてました。


 まるで、『痛かった?』と言わんばかりの表情で、申し訳なさそうでした。


 痛いのは、確かに痛かったです。でも、痛いのは、体じゃありませんでした。


(心が、痛いです……)


 ぎゅっと掴んだ胸はズキンと痛み、動悸がしました。


 体は膝から崩れ、全身の力が抜けていくのを感じます。


 とても立っていられず、そのまま地面に倒れていきました。


「……ミザっ」


 攻撃だと思ったのか、ミザリーは後退していきます。


 崩れゆく体を受け止めてくれる人は、武舞台にはいません。


(罰が当たったかも、ですね……)


 因果応報。自業自得。身から出た錆。


 その全てに当てはまってしまう現象でした。


 言い訳の余地なんかなく、全部、自分の責任です。


 受け入れるしかありません。このまま顔を地面にぶつけて。


 それで。――それで。


「………………え」


 そこまで覚悟した時、体は突然、ふわっと浮きました。


 まるで、雲の上に乗っかっているような、心地いい感覚でした。


 すぐに辛うじて動く首を振り、視線を動かします。そこに立っていたのは。

 

「よく頑張ったな。後は僕たちに任せとけ」


 励ましてくれる仲間。ラウラでした。


 腰と足を抱えて、お姫様だっこしてくれてました。


 そのおかげか、痛みが少しだけマシになったような気がしました。


「このままじゃ、ボク、駄目ですね……」


 そこでふと溢れ出てきたのは、心からの本音でした。


 実際、チームに迷惑をかけてばかりで何も貢献できてません。


 ゴミクズ以下の存在でした。生きている価値なんかないのかもしれません。


「ばーか、駄目でもいいんだよ。それを支えるのがチームなんだからよ」


 そんな弱気な心を支えてくれたのは、ラウラの心強い一言でした。


 すると突然、ぐぅっと目頭が熱くなって、目の前がぼやけてきました。


 その感情を、その言葉が持つ本当の意味を、今やっと理解できた気がします。


「負けるのって、こんなにも悔しいことなんですね……」

 

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