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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第26話 本選準決勝②

挿絵(By みてみん)




 コロッセオ。武舞台上。


 スポットライトに当たるのは小柄な二人。


「対戦よろしくです」


 長い灰色髪に、赤い村娘服を完璧に着こなすジルダ。


 スカートの裾を掴み、女々しく、麗しく、礼儀正しくお辞儀する。


「…………ミザミザ?」


 対するは、長い白髪に、白いワンピース姿のミザリー。


 首を横に傾け、黄金色の瞳でその行いを不思議そうに見つめていた。


『神の気まぐれか、悪魔のいたずらか。勝負のカードは最弱対最弱の戦い。本大会の個人成績ワースト1対ワースト2。最弱の汚名を晴らし、初の白星を上げるのは果たしてどちらだ! 準決勝、第一試合、先鋒戦。試合開始ィィィィィ!!!』

 

 そこに響くのは、熱のこもった実況解説。


 ここまで場を繋いだ、陰の立役者の魂の叫び。


 そうして、先鋒戦は何の滞りもないように始まった。


 観裏で起きていたトラブルを、観客に微塵も気取られることなく。


 ◇◇◇


名前:【ジルダ・マランツァーノ】

体力:【1000/1000】

勝率:【0勝3敗0%】

階級:【石】

実力:【1333】

意思:【未測定】


名前:【ミザリー】

体力:【1000/1000】

勝率:【0勝0敗0%】

階級:【銅】

実力:【1500】

意思:【未測定】


 試合が始まり、ゴーグルの端には、そう表示されてました。


 相手は自分を除けば間違いなく最弱。ここまで0を貫く最強の弱者。


(――相手にとって不足なしです)


 ジルダは意気揚々と構え、右手の拳を軽く握り、相手の様子をうかがう。


「……ミーザ」


 一方、ミザリーは『いつでも来い』と言わんばかりでした。


 それも、腕をだらんとさせた状態で、拳を構えてすらいません。


 まるで、隙だらけでした。下には下が、いるのかもしれないですね。


 でも、勝つわけにはいきません。本気で負けたい理由があるのですから。


「――」


 そう思いながら向けた視線の先には、ある人物。


 灰色髪をオールバックにしたバーテン服を着た男性。


 褐色の肌に、左頬には刃物傷、目は刃物のように鋭い人。


(お父様。ボクは……ボクは……)


 これ以上、拳に力を入れないようにしないといけません。


 けど、不思議と手はたぎるように熱く、青い光が見えました。


(いいえ。この思いは抑えないといけません。きっと、これが意思の力……)


 未知の力の正体を、感覚で掴みながらも必死で抑えました。


 使えば難なく勝ててしまう。なんとなくそんな気がしたからです。


 すると、体から生じた青い光は、線香花火のように儚く消えていきました。


(思った通りです。後は善戦したように負けるだけ、ですが……)

 

 そこで、頭にちらつくのは、仲間のお二人のことでした。


 本気で大会を優勝しにいく姿勢を、ずっと後ろから眺めてました。


 もし、ここで負けてしまえば、お二人に迷惑をかけるのは間違いありません。


(自分のためだけに負け続けるのは、こんなにも辛いこと、なのですね……)


 だからこそ、心がずきんと痛みました。


 出会った頃は、なんとも思わなかったです。


 でも、今は申し訳ない気持ちでいっぱいでした。 


(もし、この気持ちが目的を上回ったとしたら……)


 考えるのは、もしものこと。あるかもしれない未来の話。


 心にはもやっとしたものが、ぐわっと広がっていくような気がしました。


「……準備は万端といったところですね。では、遠慮なく行くですよ!」


 そんなもやを振り払うように頭を振って、ジルダは言い放った。


 わざと負けた先にある、勝つ以上に価値があるものを追い求めるために。

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