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ストリートキング  作者: 木山碧人
第四章 イタリア

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第17話 敵情視察

挿絵(By みてみん)




 コロッセオ地下。選手控室。


 廊下と室内を繋ぐ扉が、ゆっくりと開かれる。


 入ってきたのは、重たい足取りをした、短い青髪に黒服を着る女性。


「はぁ……しんどぉ……」


 試合前の洗礼を受けた後のラウラだった。


 その表情は、残業続きの会社員のように疲弊しきっていた。


(さて、どこまでこいつらに話そうか)


 目の前には、ソファに座るジェノとジルダが見える。


 ジルダはモニターを見ていたが、ジェノは振り返っている。


 当然、目が合った。よく分からねぇが、深刻そうにしている顔とな。


(……よく見りゃあ、似てんな、あいつと)


 今はこいつの事情なんてどうだっていい。


 どうせ些細な悩みだ。それよりも気になるのは、顔。


 褐色の肌に、左頬の傷。偶然とは思えないほどやつと似通っていた。


(いや、待てよ……。こいつって、もしかして……)


 ふと湧き上がる疑問。ふと浮かび上がる天啓。


「おい、ジェノ。お前って兄弟いるのか?」


「あのさ、ラウラ。俺って兄弟いるのかな?」


 ふと思ったことをそのまま呟くと、声が重なった。


 それも、事前に打ち合わせてしたかのようなタイミング。


 加えて、前もって示し合わせていたかのように、同じ内容だった。


「あ?」


「え?」


 夫婦漫才みてぇに、またもや声が重なる。


 こいつもこいつで、裏でなんかあったみてぇだ。


 ひとまず、今は情報をすり合わせるしかねぇだろうな。


 ◇◇◇


 裏で一回戦が進行する中、数十分が経過する。


「ジルダの父親の名前がジェノ・マランツァーノだと……」


「俺と同じ名前の人が参加者で、さっき廊下で会った……」

 

 コロッセオ地下にある控室に響くのは、お通夜みてぇな声。


 情報をすり合わせると、互いに顔が青ざめるという結果となった。


 これも、全部、『シビュラの書』に書かれた筋書き通りの展開なのかよ。


「お父様……」


 そして、その事柄に反応するのはもう一人いた。


 ソファにちょこんと座る当事者。ジルダ・マランツァーノだ。


「……そうだ。お前の父親ってどういうやつなんだ」


 思いついたようにラウラは尋ね、二人の視線はジルダに向いていく。


 ジェノの話では、ジルダの父親は、ジェノ・マランツァーノらしい。


 つまり、さっきのやつだ。父親なら、何か知っててもおかしくねぇ。


「幼き頃に白教の施設に預けられて、それっきり……です」


 しかし、返ってきたのは後ろ暗い反応。


 ここで嘘をつく必要なんかねぇし、事実だろうな。


 あの性悪男が子育てを放棄したってのも、正直、納得がいく話だ。


「はぁ……答えは闇の中ってか。つーか、考えること多すぎだろ」


 眼鏡職人の保護。大会の黒幕。ジルダの父親。


 『八咫鏡』の回収。『白き神』完全復活の儀式を阻止。


 ざっと考えてもこれぐらいは課題がある。どうにかなんのか、これ。


「大会で優勝する。それだけ考えよ。きっとそれで何とかなる気がするんだ」


 そこで、ジェノは目的を再び一つに定めていく。


 元々は、こいつに殺しをさせないための選択なんだがな。


 まぁ、目的は単純な方がいいし、あながち間違いってわけでもねぇか。


「だったら、ひとまず敵の分析をすっぞ。次はジルダの父親の試合っぽいからな」


 そうして、場はジェノの一言でまとまり、仮想敵の観察をすることになった。


 ◇◇◇


 コロッセオ。武舞台。四角形状のバトルフィールド。


 立つのは二人。バーテン服を着たジェノ・マランツァーノ。


 そして、対するは、黒い胴着を着た、ガタイのいい黒髪短髪の男。


「センスに多少の覚えがあるようだな」


「ええ。あなたを軽くひねり倒せるぐらいには」


 男が問い、マランツァーノは答える。


「面白い。だが、センスの多寡が勝敗に直結しないことを我が拳で証明しよう」


 突き出されるのは、清く正しい拳。


 己の強さを微塵も疑わない、芯のある心。


 血の滲む努力と鍛錬を経て、培われた頑強な体。


 どれを取っても一流。今の短いやり取りで十二分に伝わる。


「存分に発揮してください。それでも、あなたは完膚なきまでに叩き潰されます」


 ただし、それは礼節を何よりも重んずる武道での話。


 その幻想を砕くための拳を、マランツァーノは前に突き出した。


『一回戦。第二試合。匿名希望対虎心館との試合を始めます』


 裏で実況の声が響く中、ゴーグルから、機械の声が鳴り、勝負は始まった。


名前:【ジェノ・マランツァーノ】

体力:【1000/1000】

勝率:【0勝0敗0%】

階級:【銅】

実力:【1500】

意思:【未測定】


名前:【近藤虎徹】

体力:【1000/1000】

勝率:【4勝0敗100%】

階級:【金】

実力:【1768】

意思:【733】


 表示されるのは互いの戦績。


 4勝で階級が金。格上に勝ち続けた証。


「最初から全力でいかせてもらう!」


 近藤の体から溢れ出すのは、黄色のセンス。


 洗練されるほど光の量は増し、濃く、鋭くなる。


 相手は量も濃さも鋭さも全て申し分ない。平均以上。


 ――しかし。


(……あまりにも整い過ぎている。突出した『何か』が感じられない)


 武道のお手本のような存在。裏を返せば個性に乏しい。


 攻めにも守りにも特化していない。バランス型の秀才タイプ。


 この手のタイプには、総じて陥りがちな問題がある。それは――。


「虎我破爪拳」


 近藤は両手を前に突き出し、現れたのは一匹の黄色い虎。


 センスを虎に変化させたもの。ただ、襲ってくる気配はない。


 代わりに、近藤はこちらの後ろに回り込み、隙をうかがっていた。


「前門の虎、後門の狼。攻防一体の必殺技、といったところでしょうか」


「この技を見せて、敗北したことはない。悪いが、一発で退場してもらう!」


 そう前置きを挟み、虎と近藤が、前方と後方から襲ってくる。


 同時に対処はできず、回避するのも困難。受けざるを得ない状況。


 しかも、片方に意識を割けば、もう片方が攻めてくる。二撃必殺の構造。


 一見、デメリットがないように見える。ただこの技は、ある欠陥を抱えていた。


「……終わりです」


 狙いは本体。相手と同等程度の意思を右拳に込め、背後に放つ。


「――――っ!!!」


 捉えたのは鳩尾。近藤は白眼を剥いて、意識を失いかけている。


 一方で、前方にいた虎は、飼い主から供給された力を失い、蒸発していた。


「器用貧乏ですね。虎にセンスを使ったせいで、本体の防御が疎かですよ」


 問題も欠陥も、その一言に集約される。


 近藤は、そのまま意識を失い、一発ノックアウト。


 相手チームは降参し、残り二人の出番はなく、決着がついた。

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