9.収穫の苦労
「よし、じゃあこの種をパラパラしていけばいいのね」
買ったばかりの種を、出来たばかりの畝に蒔く。
麦をメインに、にんじんとキャベツ、玉ねぎだ。
しばらく見つめているうちに、ぴょこりと芽が出てきた。
「あら、かわいいわ。元気に育ってね」
破壊の限りを尽くしてきた自分が、植物を育てるなんて。
人生変われば変わるものだ。
「次は、水やりをするのね。自力で撒くか、魔法を使うか。魔法を使いましょうか」
ティーファはその華奢な見た目通り、筋力には自信がない。
その代わりに有り余る魔力があるのだから、そちらを使うのは当たり前だ。
「井戸の水を汲み上げる、と」
それも魔法で出来た。
魔力が少なければ手動でも出来るらしい。
「それで、えい」
指示通りの動きで杖を振ると、溜まった水がぶわあっと宙に浮き、畑に降り注いだ。
「なるほど、凄いわね!」
まるで水魔法も使えるようになった気分で楽しい。
「これで、しばらくは置いておけばいいのね。じゃあその間にお家の中のものを見てこようかしら」
さっきはちらっと見ただけで、倉庫の中身なんかはまだ見れていない。
馴染みのある武器の手入れ道具もあったし、見たことはあるが使ったことのないものも多い。
「これは良く使いそうね」
大きな魔導式の荷台だ。
収穫出来たものをこれに載せて運ぶのだろう。
倉庫をひとしきり漁ってから、ベッドルームを多少綺麗にしていたら、もう夕方だ。
ちりん
鈴のような音が鳴ったから何かと思ったら、魔導書から鳴ったようだ。
「あら、もう収穫の時間なのね。急がないと」
夜は魔獣が活発に動くから危険、という理由ではなく、魔導書によると、放置しすぎると育ちすぎて枯れてしまうらしい。
そうすると種が出来て次に使えるらしいが、全部が種になってしまっては困る。
畑に出ると、黄金色の麦と、丸々と肥えた野菜が並んでいた。
「いい出来栄え、なのかしら? とにかく収穫してしまわないと」
作物の出来栄えが良いかどうかはティーファには分からないが、作業はしてしまわないと。
そして、残念なことに。
「これは、魔法は使えないのね……」
繊細な作業だからだろう、魔法で一気に全部収穫、とはいかないようだ。
「早くしないとっ!」
そういえば、『魔農家のススメ』にも書いてあった。収穫は手作業だから、計画的に植えましょう、って。まさに今がその状況だ。
「もういいわ! ええいっ!」
麦はとにかく切断してしまえばいいはず。
ということで、倉庫にあった大鎌をブンまわして足元から刈る。
柔らかいものを一気に斬るのは難しいことだが、ティーファにとっては簡単だ。
野菜はそう簡単にはいかないから一つずつ抜かないといけないが、麦ほど沢山はないからどうにかなりそう。
何とか全部を抜き終えて、そのあとで散らばった麦をかき集める。
「農家って、こんなに大変なのねっ……!」
慣れない作業にゼェハァと息を切らすティーファ。
農家の大変さとはまた少し違う気もするが、まあ仕事とはどれも大変なものだろう。たぶん。