7.抜刀禁止
「おいおい、嬢ちゃん。随分なご挨拶じゃねぇか?」
自分たちが食い下がったことなど忘れたように凄む男。
しかし、彼はこうして威圧しないとその場から逃げ出しそうな程に怖いのだ。
今の一連の動作が何も見えず、気づいた時にはナイフが首筋に突きつけられていたのだから。
「そうかしら? きちんと止められたと思うのだけれど」
ティーファは『止められたからOK、ギリセーフ』と思っているが、一般的に見たら単なる挑発。
「そこまでだ!」
男たちが武器を抜く直前、声が掛けられた。
サブマスのドルクが仲裁に入ってきたのだ。
「まずはティーファ。ギルド内は抜刀禁止だ。
今すぐ武器を仕舞え。従わなければギルドの使用規制をかけるぞ」
「あら、そうなの。ごめんなさいね」
別に抵抗することもなく、あっさりとしまう。
ティーファの人生に、武器を抜いてはいけない場面は一度もなかったから、単に知らないだけなのだ。
ダメだと言われたらちゃんと従う。
「ゼンも、相手が嫌がればすぐに止めること。以上。何か言いたいことは?」
ティーファは別に不満などないし、ゼンと呼ばれた男は命の危機を救われたのだから、この場を続ける気は無かった。
「では、これにて解決とする。ティーファは付いてこい、ギルドのルールを教えるから」
ドルクに付いてカウンターへ行き、そこに貼られたポスターを示される。
「いいか、これがギルドのルールだ。当たり前のことだが、きちんと理解するように」
冒険者の中には文字を読めない者も多いが、一応貼ってあるのだ。こういう時のために。
1.抜刀禁止
2.喧嘩禁止
3.魔法の使用禁止
4.危険薬物禁止
5.無許可の商売禁止
「なるほどね」
どれも、ティーファが今まで知らなかったものばかり。
《組織》では、揉めたら喧嘩は当たり前だったし、武器も魔法も使い放題だった。
薬物も、娯楽用は規制されていたけれど、戦闘用の物は多く使われていた。
「そこにはそこのルールがある、ってこう言うことなのね」
「理解してもらえて良かった。今後は守るように」
何気ない風を装ってドルクは言ったが、内心疑問で仕方がなかった。
このルールは、わざわざ貼り出す必要があるか、と思うほどに当たり前のもの。
何かあった時に、『貼ってあるんだから従え』と脅すためだけにあるようなものだ。
それを興味深く見て、今理解した、と言うような少女は、一体今までどんな人生を歩んできたんだ?
興味は湧いたが、わざわざ薮を突く趣味はない。
今の一部始終を見ても、彼女が並外れた戦闘能力を持っているのは確かなのだから、敵に回りたくないのは誰だって同じだろう。
ナイフの軌道を捉えられなかったのはゼンだけではない。ドルクも同じだ。
これからは、ゼンたちが噂を広めるだろうから、今日のような揉め事はそうそう起きないだろう。
それだけでとりあえずはヨシとすることにした。