3.魔農家のススメ
「それで? 魔農家、って何なの?」
「んー……。嬢ちゃん、字は読めるか?」
「ええ、もちろん」
《組織》は戦い方以外にも、任務遂行に必要なことは何でも教えてくれた。
文字の読み書きは言わずもがな。
「じゃあ、これをやろう」
ドルクが差し出した冊子、『魔農家のススメ』
「これを読めば誰でも魔農家になれる。個人差はあるがな」
ティーファは、これさえ貰えればもうおっちゃんに用はない、とばかりに存在ごと無視してパンフレットに視線を落とす。
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『魔農家のススメ』
1.魔農家って?
魔農家とは、土地の魔力を使って植物をスピーディーに育てる特別な農家です。
野菜が育つし土地の魔力は祓えるし、一石二鳥!
あなたも魔農家になりましょう!
2.どうやったらなれるの?
魔農家になれるのは、辺境の一部の土地だけです。魔力のたっぷりある土地なら、呪印と結界を敷くだけでカンタンに魔力を作物に流せます。
お近くの冒険者ギルドにお問い合わせください。
3.良いことはあるの?
通常の農家の数倍のスピードで育つので、一年に何度も収穫できます。魔力の多い土地なら、数百倍も夢じゃありません。沢山作って、沢山稼ぎましょう! 作物を沢山作れば、地域社会にも貢献できますよ!
4.注意することは?
魔力を流す時に、契約者の魔力も使います。魔力の使いすぎで倒れないようにしましょう。手に負えないと思ったら、ギルドへ連絡して範囲を縮めて貰ってください。
また、魔農家の作物は驚異的なスピードで育ちます。あまり沢山植えると収穫が大変ですので計画的に植えましょう。
5.困った時は?
何か困りごとがあれば、冒険者ギルドに相談しましょう。魔農家は貴重な存在ですので、アフターフォローまでしっかりとサポート致します。
《あなたも、良い魔農家ライフを送りましょう!》
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「特別な農家、って言ってるわよ? 私は、普通がいいの」
「それは、王都周辺などの内地では特別、というだけだ。ここいらの農家じゃあ普通だよ」
先ほどの経験から、『本当ではないがウソではない』ことを言う。
この辺りに農家なんて居ないのだから、彼女がやったことが『普通』になるはず。
「ふうん。まあいいわ。じゃあ、私も魔農家になろうかしらね。早く育つ方が楽しそうだし」
「よっしゃ! じゃあ早速嬢ちゃんの土地を見に行くぞ!」
快哉を叫ぶドルクに若干顔を顰めつつも、ティーファは大人しくついて行く。
この男は、己の欲に忠実だけれど、他人を騙して不幸にする人間ではないと、そう感じるから。




