26.返事
手紙への返事は思っていたよりもずっと早くに来た。
というか、種と苗だけが送られて来たのだ。
手紙無しでモノだけとは、何とも師匠らしい。
これで長々とした手紙でも付いてきたら、その方が驚くだろうし。
「だけど、何なのかくらいは教えて欲しかったわね」
説明書の類いは一切付いていないが、育ててみれば分かるということだろう。きっと。
「ダン、この辺私のものにするから」
畑へ出て、ダンに一応ひと声掛けておく。
別に全部ティーファのものだから許可を得る必要は無いが、その辺の教育は行き届いているのだ。
今まで特に必要にならなかっただけで。
畑と結界の境目あたり、まだ何も無いところを耕してから種をまき、横に苗を植える。
普通の野菜なら見ているうちにぴょこりと芽が出てくるのだが、今回は特に何もなし。
「《組織》の誰かが作った植物なんだから、そんなに普通じゃないわよね。水だけやって、気長に待ちましょうか」
そうしているうちにお昼ご飯が出来た。
また朝と同じトマトスープだが、野菜しかない今の状況では仕方がない。
味付けも塩しかないし、トマトや玉ねぎなど、野菜の味に頼りきった美味しさだ。
ティーファはあまりグルメではないし、食べ物があればそれでいい、という感覚なので美味しくいただくが。
彼女はのんびりお昼を食べているが、ダンは中々忙しそうだ。
収穫時期をずらすためにローテーションを組むことにしたようで、トマトなどの苗から何度も収穫できる野菜をまとめたエリアもある。
あまり時間を固めると大変な忙しさになるし、それぞれが育つまでの時間も微妙に違う。
それを考慮して畑の設計をするあたり、ダンはそれなりに賢いのかもしれなかった。
本来それを考えるのはティーファの仕事のはずだが、彼女はそんなことをする気はない。
自分が苦手なことはどこかの誰かがやってくれたらそれでOK、というのが彼女の考え方だから。
ただ。
「麦を刈るのは、私がやるわよ」
得意なことは自分が率先してやる、それも彼女の考え方だ。
刈るのと水やりは自分の仕事、と認識しているから、それだけはきちんとこなす。
とはいえズサッと刈り取るだけだから時間はあまりかからない。ダンがやると、普通にひとつかみづつ刈るのでそれだけでも大変な時間がかかる。
あれだけ計画的に設計していた理由のひとつは、広大な麦畑の収穫に時間がかかる事だったから、ダンはとても助かった。
彼が一人でやると最後の方は明らかに収穫時期を過ぎてしまっていたが、ティーファの手にかかれば一瞬だ。
もちろんその後集めるのはダンの仕事だが、それくらいのことは別に苦ではなかった。




