25.手紙
製粉機と戸籍、両方の話が出来た上、少年の名前が決まった。
「うふふ。良かったわね、ダン」
「……ん。」
満足気に会話しながら爆走する。
ちなみにこの道は魔境方面への道として、冒険者たちもよく通る。
この時間帯は皆魔境の中へ行っているから人気がないが、夕方などの人の多い時間に爆走したら大層目立つだろう。
そうして帰ってきた頃にはそろそろ収穫が始まろうかという時期になっていた。
実の成っているものを端から取っていったら、またそこに次の実が成る。
気味が悪いほどの早回しだが、ティーファはこれが『ふつう』だと思っている。
並行して料理を始めたダンを眺めて「器用だな」なんて思っていたけど、自分も何かすることが欲しい。
《組織》に居たころはこんなに暇をする時間は与えられなかった。次々と舞い込む仕事をこなしていたから。
だから、これだけ時間を与えられると逆に困ってしまう。ティーファは自分で考えることがあまり得意ではないのだ。
「私も何か育てたいわね」
今育てているのはギルドから仕入れた種のものばかり。この村にあるのは冒険者ギルドだが、近くの農業ギルドへ言って融通して貰ったものだ。
「何か面白い植物はないのかしら。一度手紙を書いてもいいわね」
《組織》を抜けたとはいえ、生まれの分からない自分にとって、故郷とも言える場所だ。
生活も落ち着いてきたし、現状仕事も特にない。
真昼間の皆が働いている時間だが、今日はのんびり手紙を書くことにした。
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拝啓 師匠
お久しぶりです。
無事目的の村に着いて、『ふつう』の暮らしを送っています。楽しいです。
魔農家という『ふつう』の仕事に就いたのですが、優秀な助手が出来たので私は今とてもヒマです。
なので、何か面白い植物を送ってくれたら嬉しいです。たぶん、《狂錬金術師《マッドアルケミスト》》辺りが持っているでしょう。
よろしくお願いします。
ティーファ
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思ったよりも書くことが無くて短くなったが、あまり長々と書くと逆に変だ。
何より、帰ってこいとか、別の仕事をしろとか、そういうことは言われたくないし。
ということで書き上がった手紙を一度読み返してから。
ぽいっ。
召喚した《闇》の中へ投げ込んだ。
これで、師匠の近くにいる死霊呪術師の元へと届くから。




