24.名付け
「あともうひとつ用事があるのだけど」
早速手配に行こうとしたドルクを引き止める。
「何だ?」
「この子の戸籍が欲しいのよ。買い取りにいちいち私を連れてくるのは面倒でしょ?」
「お前な、気軽に言うが、戸籍を取るのがどれだけ大変か、分かってるのか?」
「あら、そうなの?」
《組織》はカンタンに手配してくれたように思うが。
この国の戸籍システムは、基本的に税金を納められるだけの経済力か権力を持っている者のみを戸籍に入れている。国として保護しているのは戸籍のある人だけ。
そうでない一般庶民は各種ギルドに登録し、その場に応じた利用料という名の税を納めはするが、国から何かして貰える訳では無い。
ギルドは国がある程度管轄しているので、それを使わせて貰う、という見返りがあるだけだ。
「んー、私って、戸籍があったと思うのだけど」
「お前は戸籍持ちの市民だが、この村には数人しかいないぞ?」
「あら、そうなの。知らなかったわ」
昔のティーファが関わる相手は、帝国中枢の人間が多かったため、ほとんどが戸籍持ちの市民だった。
だから、『ふつう』は戸籍があるのだとばかり思っていたが、そうではなかったようだ。
「とにかく、コイツに戸籍を持たせるのは無理だから、ギルド登録にしとけ。冒険者ギルドの登録要件なんて、あってないようなモンだからな」
「じゃあ、それでよろしく」
ドルクが紙を一枚持ってきて、書き始める。
冒険者には文字を書けない者が多いから、代筆してくれるのだろう。
「名前は?」
「……ん?」
ただキョトン顔を返すだけの少年に、ドルクが困った顔で視線をティーファに向ける。
「そうだったわ、彼、記憶喪失なんだって。だから、名前が分からないのよ」
「じゃあ、今決めろ」
とっとと仕事を終わらせたいドルクは非情だ。
「んー、大喰らいとか?」
「……どんな名付けセンスだよ。せめてもうちょいマシなの考えてやれ」
何となく、《組織》の名付けを想像してしまったが、そう言えば自分にも『ティーファ』というステキな名前があるんだった。
尊敬する師匠に付けてもらった特別な名前が。
「……そうねぇ、責任重大ね。
あなた、自分で考えたら?」
「……?」
無言の返事のみ。自分で考える気はまるで無さそうだ。
「どうしましょう。私、普通の名前にはあまり詳しくないのだけれど」
「適当でいい、何か言え。はやく」
「んー……」
そう言われても、ティーファにはあまりよく分からない。
ただ、呼びやすく短い名前が良いだろう。
「ダン、なんてどうかしら?」
「よし、いいだろう。お前の名前は今日からダンだ。いいな?」
「……ん」
こくり。
珍しく深く頷いたので、本人的にも悪くはないのだろう。
「あとは、年齢……15でいいか? 性別男、所属はテリトル村。宿登録はティーファの家でいいな。
これでOK。次からはダン一人でも買い取り可能だ」
「良かったわね」
「……ん」
出会って丸一日ほど経つのにようやく名前を決めるとは、と思いながらも、少年のことを焼くと言っていたティーファが気に入ったようで良かったな、と思うドルクであった。
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この子、一体何話名無しのまま過ごしてきたんだ?笑




