23.粉屋
ギルドへ戻るドルクを見送ってから、早速畑を整備する。
とは言っても耕して畝を作るだけで、それぞれ魔法で一緒だ。手作業でやろうと思ったらどちらも大変な重労働には違いないが。
「何の種を撒こうかしらねぇ……。麦にしましょうか」
昨日はパン屋の商品を根こそぎ食べてしまったし、この国の主食を作った方がよく売れるだろう。
少年用の畑に野菜は沢山あるから、こちらは麦メインで。
植えて水を撒くと、一旦は作業終わり。
そこでふと思い出した。
「小麦粉にする道具を教えて貰おうと思ってたのに、忘れてたわ」
倉庫を見ても、そこまで本格的な道具は無かった。
というか、ティーファはどういう手段で麦を小麦粉にしているのか知らないのだ。
今のところ、茎も穂もついたままでバサッと買取に出してばかりだから。
「何度目か分からないけど、またギルドへ行きましょうか」
少年を呼んで、また走らせる。
もし話し合いが長引いて収穫時間になりそうなら、先に帰らせれば良いだけの話だ。
「ドルクー?」
「今度は何だ!」
時間的に、さっき帰ってきたばかりだろうドルクはやっぱり機嫌が悪い。
ティーファはそんなこと、まるで気にしないが。
「あのね、麦を小麦粉にする道具が欲しいのよ。幾らくらい、すると思う?」
「お前、今度は粉屋になるのか……」
遠い目をしながらドルクが教えてくれた所によると、麦を粉にするのは風魔法使いの仕事らしい。
それも、戦闘はできないような弱い魔法を使える人の仕事。
それでも、魔法が使えない人に比べてとても役に立つから重宝されている。
けれど、風魔法使いはそんなに数が多い訳ではないから充分作れるほどではなく、試行錯誤が繰り返されているという。
「なら、あんまりいい方法はないのね」
「そうだな。今ある魔道具は、ほんの少ししか作れないか、馬鹿げた魔力が要るか、どちらかだ」
「ふぅん」
ティーファは少し考えた。
馬鹿げた魔力なら、既にあるな、と。
「その魔力って、風属性じゃなきゃダメなの?」
「いいや。そもそも、風属性以外の使い手の魔力を使うためのものだからな。
ただ、効率が悪いから大量の魔力が必要で、ほぼ使える人間がいないんだが」
それはなんとも、本末転倒な話だが。
「じゃあ、それを買うように手配して貰える?」
「そうだな、お前なら使えそうだ」
外縁とはいえ魔ノ森を一瞬で炭に変えるティーファの魔法を見ているドルクとしては、そう言うしか無かった。
……もし、本当にあの魔道具が使えたら、小麦屋としても利益を上げてくれそうだ、などと腹の中で計算しながら。
 




