22.畑の拡張
「今植えたってことは、収穫できるのはお昼過ぎかしら。それなら、これは買い取りに出しちゃったら食べるものが無くなるわね」
少年は一回の収穫物をほぼ全部食べてしまう。
野菜ばかりでお腹に貯まらないのも原因のひとつかもしれないけれど。
「じゃあ、物はないけどギルドへ行きましょうか。畑を広げて貰いましょう」
そう、現状では彼の取り分でほぼ全部畑を使ってしまうので、儲けゼロなのだ。
それでは困るし、なんのために彼を置いているか分からなくなるので、それなりに満足できる額を稼ぐためにも、畑を広げようと思う。
「一旦は、倍でいいかしら? あなた、この量でご飯は足りてるの?」
「……ん」
足りているようなので、こちらの畑は彼の食事用、もう一つ増設する方を儲け用にすれば良いだろう。
「ドルクー?」
ハイスピードでギルドへ行き、いつものようにドルクを呼びつける。
彼はサブマスの地位にあるお偉いさんなはずなのだが、ティーファはお構い無しだ。
「今度は何だ?」
ドルクは若干機嫌悪めだが、それも仕方がないだろう。
ティーファが来てからと言うもの、彼は酷い目にあってばかりだから。
それ以上の利益を齎してくれているから目をつぶっているだけで。
「畑を広げて欲しいの。彼はものすごく良く食べるから、こちらへ買って貰う分が無くなっちゃうのよ」
「それは大変だ! すぐに行こう!」
ドルクはサブマスとして経営には力を入れているので、作物を売ってくれないとなれば一大事。
出来る限りの対応をしようとすぐに動いてくれた。
また荷台に二人を乗せて家へ戻る。
少年が来るまではこの地味に遠い道を往復するのも嫌になっていたが、今では快適楽々だ。
「どちらへ広げるのが良いと思う?」
今の畑は、森と平野の丁度境目辺りにある。
平野側に広げるか、森側に広げるか。
「もちろん、森を拓いて畑にした方が良いな」
「そういうものなのね。じゃあむこう向いてて」
ティーファは事も無げに言って焼き払う。
本来、魔ノ森は魔力が充満しているからそこで攻撃魔法を使うだけでも大変なのだが、ティーファにとっては大して変わらないらしい。
これでも随分威力を抑えているとはドルクは知らない。
森を一瞬にして焼け野原に変え、そのに結界と呪印を張る。
これだけ沢山の魔力を蓄えた土地ならば、『ふつう』の農家とは比べ物にならないスピードで作物が作れるだろう。
「ありがとう。これで大丈夫ね」
あまりの消費の激しさに困っていたが、これで一安心。
「ああ、また買い取りに出してくれよ」
ドルクはやっぱりギルドの利益をメインに考えているようだが、お互い様で上手くやって行けそうだ。
「うふふ。帰りも送らせるわよ」
「いや、遠慮しておく」
「そんな気を使わなくてもいいのに」
小悪魔めいた笑みを浮かべるティーファは、ドルクが暴走台車を苦手にしていることに気づいたのだろう。
厄介な相手に弱点を知られたな、とドルクは苦い顔をしたとか。
 




