20.面倒と利益
満足いくまで食べ終わった頃には、もう屋台のほとんどの店は空だった。
そろそろ店じまいの時間帯だったから、このせいで食べ損ねた人はほとんど居ないだろうが、明日の分の仕込みまで出してきた店はこれから大変だろう。
きっちり計算して一軒ずつ支払いをするティーファも大変だったが。
その後の帰り道。
「あなた、あれだけ食べるなら、自分で作れないの?」
「……ん。」
返事が微妙だが、たぶんきっと肯定だろう。
「材料も、今日みたいにあなたが収穫するのよ。種と水は、私が蒔いてあげるから」
「……ん。」
働かざる者食うべからず、という言葉もある。
人並み以上に食べるのなら、人並み以上に働いて貰わなければ、ティーファが困るのだから。
「明日の朝ごはんに困りそうね。収穫が深夜になってもいいから、今のうちに植えましょうか」
帰ったら即座に種を蒔く。
収穫まではおよそ五時間。その頃にはたぶん零時を回るだろうが、作業するのはティーファではないからまあいい。
自分の朝ごはんくらい、自分で作って貰わないと困るのだ。
「でも、多分、料理スペースも足りないわよね?」
あれだけの量を作ろうと思ったら、大きな鍋とかが要るんじゃないだろうか。
「あー、もう、嫌っ!」
考えることが多くて思わず叫んでしまったが、それもまた楽しいと、少しは思えた。
「何か、使えそうなものあるかしら?」
倉庫を漁ると、錬金術に使う大きな釜があった。
たぶん、置かせたのは《狂錬金術師《マッドアルケミスト》》だろう。
彼はティーファに錬金術を教えようと躍起になっていたから。妹分を可愛がっているつもりが、本人にはかなりウザがられているなどとも知らずに。
だが、その想いが思わぬ所で役に立った。
これがあれば、自分で作るだろう。きっと。
「これあげるから、自分で料理しなさい。
あんなに食べてたら、私の財布が持たないわ」
あくまでも考えるのは自分のことで、村の迷惑になるとかそういうことは考えないティーファだった。
「……ん。」
返事をしたことを思えば、自分で料理が出来るのだろう。
「明日の朝ごはん、私の分も買いに行かなくて済みそうね」
確かに面倒事は増えたが、それを補う程度には利益もある。
拾って良かったかもしれないと、そう感じたのはティーファの成長だろう。
《組織》に居た頃のティーファは、脳みそを他人に預けたかのような振る舞いしかしていなかった。
言われるがままに破壊と殺戮を繰り返す、正しく殺戮人形。
それが、環境が変わっただけで、こうして面倒事を楽しむことも覚えたのだから。




