15.死体モドキ
家へ帰ると、家の前に人が倒れていた。
「あら、死んでる?」
別にどこで誰が死んだって構わないが、死体を放置すると臭う。
家の前が臭くなるのは嫌なので、その前に焼いてしまおうと思った時。
「うぅう……」
「あっぶない、生きてるじゃない!」
火をつける直前ギリギリのタイミングで、死体が唸り声をあげた。
「うーん、でもどうしたらいいのかしらねぇ」
死にかけに対してティーファができることといえば、トドメを刺して楽にしてやることくらいだろうか。
ただ、その対応はたぶん『ふつう』ではないだろう。
「ギルドの人のところへ連れて行けば、何とかしてくれるでしょう」
昨日野菜を載せた浮遊台車に少年の死体モドキを載せて、来た道を引き返す。
昨日教わった通り、裏口の荷受場から入ったら、誰もいない。
「ごめんくださーい。ギルドの人、いるー?」
「おいお前、今もしかして俺のことを呼んだか?」
「あら、いるじゃない。ちょっと相談なんだけど……」
「俺の名前はドルク・マスカスだ。覚えとけ」
「うふふ。いい名前ね」
ようやく名乗りを聞けて満足なティーファ。
……じゃなくて。
「これ、どうしましょうね?」
つい、と視線で示したのはぐったりとしたままの少年。
「おい、大変じゃねえか! 呑気に名乗ってる場合じゃねぇ! その斜め向かいが医者だから、すぐに連れて行け!」
裏口から出てすぐの所を示されたから、載せたままでそちらへ行く。
ティーファにとって《薬師》は人体実験を仕掛けてくる油断ならない相手だが、この村の薬師は皆から信頼されているらしい。
連れていくと、すぐに薬師が出てきた。
こんな所だからイカつい男だと思っていたら、意外や意外、おばあちゃんだ。
小さくって白髪で、開拓村があんまり似合わない人。
「あらあらぁ、大変ねぇ。こちらへ寝かせてあげて?」
死にかけを目の前にしているとは思えない優雅さに逆に驚いてしまう。
「ううん〜。どうしたのかしらぁ」
なんとなくの流れで診察を眺めていたのだが。
「あら、大変、忘れてた! 私、もうそろそろ収穫しないといけない時間だから、帰ってもいいかしら?」
これから帰っても、昨日同様の大急ぎ収穫になってしまうだろう。
「お、お前、これ置いて行くのか?」
「回収が必要だったらまた呼んで? あ、処理でも呼んでくれて大丈夫よ。一瞬で焼くのは得意だから!」
今まさに生きられるかどうかの瀬戸際にいる相手に向かって死んだ後の話をするのは如何なものか、とドルクは頭を抱えそうになった。
連絡手段は人を遣るか、魔道具の《呼び鳥》を使うか。どちらも大変だ。
ティーファの周りでは呼び鳥はよく使われていたが、あれは本来、コストも魔力も沢山かかる贅沢品なのだ。辺境でそうそう使えるものではない。
「まあいい、収穫が終わってからでいいからまた来てくれるか?」
「分かったわ!」
良い返事を残して、ティーファは帰って行った。




