14.ふつうの日常
翌朝。
「ふぅ、やっぱり『ふつう』って良いわね」
窓辺のベッドで朝日に照らされつつ、心底そう思う。
やはり人間は朝日と共に動き出すように出来ていると思うのだ。決して闇夜に動く生き物ではないはず。
「今日もやることは昨日と同じよね」
『ふつう』というのは、毎日同じことを繰り返すのだと聞いた。
日々多くの戦場を渡り歩くのがふつうじゃないことくらい、ティーファにも分かっているから、昨日と同じことをしてみようと思う。
「昼に植えて、夕方には収穫できたでしょう?
なら、一日二回収穫できるじゃない!」
全く『ふつう』ではない異常な収穫ペースだが、ティーファはやってみることにしたらしい。
「じゃあ、ご飯の前に早速植えちゃうわよー!」
嬉々として畑に出て、昨日と同じように種をぱらぱら。水を魔法でびしゃあっと飛ばして、あとは待つだけだ。
「野菜には水をあげたんだから、私にもご飯が必要よね。買いに行こうっと」
《組織》に居たころは手軽に食べ物が手に入ったが、ここではわざわざ中央まで買いに行かなくてはならない。
正直言って、だいぶ面倒くさいのだ。
「だから、ギルドの人があんなに呆れてたのね……」
ティーファは名前を知らないから、『ギルドの人』としか認識されていない可哀想なドルク。あんなによくしてるのに。
それはともかく、どれだけ面倒だと思っても、ティーファは食料の製造方法を知らないから、買いに行く他にないのだ。
昨日の夕方と同じくらい混んでいる屋台群の中へ突っ込んで行き、既に馴染みになったサンドイッチ屋へ突撃する。
「おう、ティーファ! 今日は、お前さんのおかげで野菜がたっぷり使えてるぜ!
肉はたっぷり、野菜もいっぱい。うまいぞ!」
昨日のものもかなりボリューミーだったが、そこに野菜を足したものだから肉も野菜もこぼれ落ちそうな勢いだ。
「美味しそうね。でも私は、半分でいいわ」
大規模魔術を使った後ならともかく、普段のティーファはそこまで大食いではない。
「そりゃあ、そんだけ小さい身体だったらそうだろうな! 半額でいいぜ! というか、今後も野菜をギルドに納めてくれるなら、サービスしとくぜ?」
「お言葉に甘えて、半額にしてもらえる?」
「いやいや、持ってけ!」
「どんなに小さくても、取り引きにしておいた方が良いっていうのが師匠の教えなのよ。はい」
問答無用でカウンターに銭貨を置く。
「厳しい師匠なんだな。ティーファがしっかりした子どもなのも分かるってことだ」
「あら、私はもう18よ? とっくに成人してるわ」
帝国の成人年齢は15。
ティーファはもうずっと前から身体が大きくなっていないが、年齢は重ねている。
「そんなナリで成人なのか! いや、だがそのことはあまり言わない方がいい。男どもの抑えが効かなくなるぞ」
「……そうかしら?」
自分の長所は焼け野原をカンタンに作れることと、師匠程じゃないけど暗殺が得意なこと。
そう認識しているティーファは、自分の見目がどれだけ魅力的なのか、全く理解していない。
「分かってなくてもいいから、年齢のことには触れないことにしとけ」
「アドバイスありがとう。参考にするわ」
ティーファは割と素直な子なので、礼を言って立ち去る。
朝ごはんはゲットできたし、昼はまた納品に来た時にでも買えばいいだろう。
何事も起こらない平和な買い物だったが、たまにはこういう時間があっても良いと思う。
この村に来てからも、なんだかんだとトラブル続きだったから。
 




