13.現状
お腹いっぱいご飯を食べて、家へ帰ってきたティーファ。
ふと思いついて、ガルダット帝国地図を広げてみた。
今ティーファが居るのは帝国北東の端。
東の神国と北の魔境、両方に接する要衝だ。
そもそも、最近の帝国は領土獲得に熱心で、戦争と開拓に余念がない。
伝統的に、最も手柄を上げた皇子が次の皇帝になれるので、三人いる皇子たちは日々領土を取ろうと必死なのだ。
ティーファには野心というものはあまり分からないが、戦争が好きだというのはよく分かる。
あれは楽しく心躍るので、戦いを作ってくれる、という点で帝国はいい国だと思っているのだ。
ティーファも出陣した先の戦争も、東の神国との戦いで、その時の主戦場は南側のエリアだった。
彼女をはじめとした人型兵器と呼ばれる魔導師の活躍もあって、帝国は勝利を収めたのだ。
今は戦後の内部争いも終わり、次の戦いに向けた準備期間中。
次に狙うのは神国北側の鉱山帯なのだろうか。
その辺のことはティーファは知らないし、知る気もないが、実はこのティーファのお引越しも作戦の一部だ。
大きな魔力を持つ人物を魔境へ派遣して、開拓させようという狙い。
その目的をティーファは早々にこなしているので、しばらくはここに置いておいてもらえそうだ。
束の間の平穏の間は開拓をさせておいて、いざ東国との戦いとなれば呼び出しやすい。
この村は立地的にティーファに適した場所とみなされたのだった。
まあ、そんなことはティーファには関係ない。
ここはとにかく普通の農村で、『普通』の仕事である農家になるのにとってもいい村、それが彼女の感じたことだから。
『うぉおおおぉん』
狼の遠吠えが聞こえて、ふと顔を上げた。
反響の大きさからすると、かなり遠くから聞こえて来ているのだろう。
「そういえば、この辺りには魔獣が沢山いるんだったわね」
ティーファが今まで戦ってきた相手はほとんどが人間だったので、魔獣のことをあまり考えてもいなかった。
師匠と仰ぐ親代わりの人物が《暗殺者》なので、ティーファも近接対人戦闘が大好きだから。
ただ、今日見た感じだと人間と戦える機会はあまりなさそうだから、面白くないな、とも思っていたのだ。
「平和も良いけれど、やっぱりたまには戦いたいものね」
ここまでの道中は、まっすぐ向かってくるだけだったから、戦闘とは縁が無かったのだ。
そろそろしっかり動きたい気持ちにもなってくる頃。
「そこまで急いでもいないけど、いつかは魔獣を狩りに行くのもいいわね」
魔獣は、人間や獣と比べて遥かに頑丈だと聞く。
自分の技を磨く相手として不足はないだろう。
「それも楽しそう!」
ひとり浮かれる少女は夢見心地のようだが、実際に思い描いているのは血なまぐさい戦場。
それを望んでいる時点で、ティーファは『普通』にはなれないのだった。
 




