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前編

ノリと勢いで書きました。

本当ごめんなさい。

「バーブ。お前が()()()になれ」

 今日も朝から魔王様に呼び出されたと思ったら、なんなんだこの人。何言ってんだ。

「魔王様。ついにお脳がお腐りになられましたか」

「丁寧に言えば何言ってもいいとか思ってんじゃねぇぞ」

「じゃぁ気が触れたのですか」

「俺はまともだ。まともだから言ってんだ。俺の嫁はお前以外考えられない」

 何ですか。ラブストーリーは突然にですか。本当やめてくださいよ。


 私バーブは魔王様の側近としてお仕えして百年。今年は魔王様の就任百年目。つまり、魔王様が魔王様となられた時からお仕えしていることになる。

 魔王様はある日突然魔界に生まれ、生まれた瞬間に桁違いの魔力で前任の魔王様を廃し魔王になられた偉大なお方だ。偉大なお方のはずだ。

力に惹かれる魔族たちはこぞって魔王様にお仕えしたいと列をなしたものだが、魔王様は一言で言うとアレなお方だったので――

「とりあえずじゃんけんして最後に残った四人を四天王、次に残った一人を俺の側近にする」

 有史以来はじめてじゃんけんで四天王が決まった瞬間だった。

 私もなんとなく記念受験的な軽い気持ちで参加したら残ってしまったのだ。側近に。

 そんな魔王様にお仕えして百年。

 そろそろ周りの魔族たちがお世継ぎをとせっつきだし、さすがの魔王様も妃を迎えないわけにはいかないと腹を括ったのが百日ほど前のこと。


「慣例通り人間界から召喚するんじゃなかったんですか」

 私は魔王様に尋ねた。だってそう言ってたんだもん。

 歴代の魔王様は例外こそあれど、ほぼ全員が人間界から妃を召喚している。

 魔王様の持つ魔力は魔族では受け止めきれないのだが、魔力を持たない人間であれば魔王様の強大な魔力を受け止め、子を成す事ができるのだ。不思議なことに。

「そのつもりだったが、俺の理想の嫁像を考えるとお前以外いなかったんだ」

「そんなはた迷惑な結論はさっさと忘れて召喚しましょうよ」

「いいから聞けよ」

 聞きたくないんですけど……

「俺の趣味や嗜好を理解してくれて、俺が望むものを先回りして用意する健気さ」

 あ、言うんですね。聞かないといけない奴ですね。

「そして小気味のいい会話。俺に怯む事無く真正面から言い返せる胆力。そして俺のそばにいても煩わしくない存在。お前以外にいないんだ」

「いや、私仕事ですし」

「なんだと」

「仕事だからこうやって色々我慢してお仕えしてんですよ。なんでじゃんけんで勝っただけで従属の呪いとか発動させてんですか。それさえなければ私だって今頃はかわいい嫁さんの一人や二人もらってかわいい子供たちに囲まれてますよ」

「だから俺の嫁になればすべて解決だろう」

 本当人の話聞かねーな。こいつ。

「お断りします。私は平和な結婚と家庭を持つことが夢なんです。魔王様と結婚なんて人生の墓場どころか毎日が地獄の業火に焼かれる日々ですよ。とりあえず召喚しましょうよ。歴史によると、ニホンとか言う国の女性は男性の三歩後ろを歩いて、夫を立てるのが生きがいな民族だそうですよ。どれを引いても魔王様の理想通りのが来ますよ」

「本当か?」

 魔王様がジトっとした目でこちらを睨むが気にしない。

 私は魔王様が四の五の言わないうちに召喚の魔法陣を床に召喚した。

 召喚の魔法陣の召喚とか意味が分かんないと思うが許してほしい。

 魔法陣というのは一から描くと大変なのだ。だから、職人がせっせと日々描いては保管庫に仕舞ってくれている。

 それを与えられた権限で召喚するのだ。

 だから召喚の魔法陣の召喚と、召喚がゲシュタルト崩壊しそうな言い方になる。

 ちなみに、私の権限は魔王様のそれとほぼ変わらない。魔王様が面倒がって自分がしなければならないことの八割以上を私ができるように、無理矢理権限と魔力をお与えになったのだ。

 本当、何でもアリだなこの人。


「お前……俺にだって心の準備が……」

「心の準備なら百日前からできたでしょう。さ、召喚なさってください」

 ダメならダメでまた考えましょうと最後の一押しで魔王様を納得させ、私の魔力で魔法陣を開くと、魔王様も諦めて魔力を注ぎ込み、呪文を唱える。


「――我の求めに応え出でよ!」


 詠唱が終わり、まばゆい光が我々を包み込み、思わず目を閉じる。

「え?何ここ、マジ魔界?」

 目を開けるとそこには人間の娘が座り込み、物珍しそうに辺りを見回していた。

 魔界っつった?この人。

「あ、まおーたそ!ってかガチで魔王だったの?そのカッコてコスじゃなかったんだ。ウケるんだが」

 ま……まおーたそ?

「おー。みりあむたそ。よく来てくれたな」

 魔王様?え?知り合い?なんで?


「まおーたそとはさ、つぶやいったーでFFなんだよね」

 え……えふえふ……?

「相互フォロワーってやつ。まおーたそが『嫁募集』って呟いてて、ウチがそれにイイねしてからたまーに絡んでたってカンジ?」

 なぜ自分のことなのに疑問形で話す……

「うむ。みりあむたそは俺の相談にも乗ってくれててな」

 魔王様あんた何やってんだよ。どう見ても子供だろ、この子。何相談してんだよ。

 聞けば腹を括ったと思った百日前辺りから人間界で言うSNSを始めて、このみりあむたそ殿と親交を深めていたとか。あんたいつの間に人間界のスマホ契約してたんだよ。ってか魔界から使えるんか、つぶやいったー。

「まおーたそアイコンとか写真よりイケメンじゃん。なんか役得?的な」

 疑問形で話すのはやめていただきたいのだが……

 つかあんた自分の写真撮って載せてんのかよ。魔王だろ。

「あ、この人がバーブたそ?」

 ここは疑問形だな。うん。って、なんで私の名前知ってんだよ。

「まおーたそが嫁にしたいけど、クソが付くほど真面目だけど自分のことを誰よりも理解して支えてくれるし、側近としても有能だから嫁になると側近がいなくなるしどーしよって言ってた」

 あんた本当に何やってんだ。

 魔王様は気まずそうに上目遣いで私を見るが、そんな仕草してもかわいくないんだからな。

「ってかさ、バーブたそって男……だよね?ってことはまおーたそってゲイ的な人?」

「魔族には性別は関係ない。魔族とは本来魔力の塊なんだが、実体がないと不便だろ。人間と契約する時とか。だから人間が好む姿を形作っているだけだ。言わば両性具有というやつだ」

 魔王様がみりあむたそ殿に説明する。いや、この子理解できてる?

「りょーせーぐゆー?ん-、LGBT的なやつ?」

 える……何?

「まあそんなもんだ」

「ふーん。魔界って進んでるんだねー」

 魔王様、絶対理解してませんよ、この人。

「ま、いいや。とりあえず子供作っちゃえばいいんでしょ?どこでする?」

 はい?

「まおーたそからDMで聞いてるの。とりあえず子供さえ作れば全部おけまる的な感じって。まぁウチも初めてってわけじゃないし、なんか何でも望みを叶えてやるとか言われたらいっかーって?」

 ちょっと何言ってるのか全く分かりませんけど、とにかく魔王様がみりあむたそ殿に私の知らない間にお願いして、みりあむたそ殿が了解したというのは理解しました。

「つまり、みりあむたそ殿は魔王様のお妃になって下さると言う事でよろしいでしょうか」

「え?嫁はバーブたそがいいんでしょ?あとウチの名前はみりあむだよ。みりあむたそ殿とかウケる」

 つまり、みりあむがお名前でたそは敬称と言う事ですか……ってかこの人どこの人だよ。

 みりあむって名前からすると西洋の人なのだろうけど、見た目はニホン人……とも違うか。髪の毛ピンクとか魔界にもおらんぞ。

「本名は篠崎みりあだよ。みりあだけとか寂しいからみりあむって呼んでもらってんの」

 ニホン……人でいいのかな。

「どこをどーみても日本人だろが。日本のJK様だぞっ!」

 そう言うとみりあむ殿はドヤァっと胸を張った。

 何がドヤァなのかわからない。

「ってかさ、悪魔もセックスのやり方は人間と一緒なわけ?」

 今なんつった。

「魔力の塊っつったじゃん。人間だったらセックスして子供つくんだけど、悪魔も同じなの?」

「俺たちは悪魔ではない。魔族だ。悪魔は人間がつけた呼び名だな。それから人間が望むなら人間と同じやり方もできるぞ」

 魔王様もドヤァってしないでください。

「マジか。んじゃあ人間ルールでお願いしよっかな。まおーたそイケメンだし、ちょーらっきーじゃん」

「なら寝所を用意させよう。バーブ」

 魔王様が私に目配せをする。

 いや、あんたさっき私に嫁になれって言ってなかったか?なんでそんなノリノリなんだ。

「んじゃさ、まおーたそ」

 私が使用人に寝所の用意を命じていると、みりあむ殿が魔王様を見上げてニヤリと笑った。

 なんだ。なんか悪い顔しているぞ、人間なのに……

「報酬の件だけど」

 報酬?

「願いを何でも一つ叶えてくれるってゆー」

 なんかさっきも言ってたな。いや待て、魔王様……あんたそんな条件で人間を釣ったのか。

「おう。何がいい。言ってみろ」

 あんたなんでそんなドヤ顔なんだよ。

「んとねー。なんでも思い通りになるようにー……魔法が使えるようになるとか?」

「……人間界には魔力がないから魔法は使えない」

「えー!なにそのクソ仕様。じゃあなんで悪魔は人間の世界で魔法使えるのよ」

「魔族だ。――人間界で魔法が使えるわけではない。召喚された魔法陣の中は魔界から魔力を供給されるのと、召喚した人間の魂を使うから望みを叶えることができるんだ」

「じゃあウチもそれできるようにしてよ!クソムカつく奴とか消しちゃいたいじゃん」

「だから、人間は魔法が使えないんだと……」

「使えるようにしてよ!魔王でしょ!なんでも言う事聞いてくれるって言ったじゃん!嘘つき!」

「ま……魔王でも人間界に干渉は」

「わかった!魔法じゃなくていいから超能力とか!テレポーテーション的な?がっことか仕事とか遅刻しないで済むし、どこでも入れるじゃん!」

 さらっと犯罪予告めいたこと言ってないかこの人……。

「……人間界の摂理に反することはできない」

「なにそれ。じゃあ何ができるわけ?」

「……富を得るための能力を授けたり、地位や名誉なんかを得れるための能力を……」

「はぁー?」

 みりあむ殿の顔が徐々に曇り、魔王様はみりあむ殿から目を背けてる。

「なにそれ無理ゲーじゃん。努力とか苦労とかしたくないんですけどぉ。大体子供作る代償が能力とかなくない?」

「でも人間はそれを望んで俺たちを召喚するんであって……」

「ないないないない!」

 みりあむ殿が手足をばたつかせながらピンクの頭をぶんぶん振って怒鳴った。やだ怖い。

「じゃあさ、人間界と魔界を繋げちゃおうよ!そしたら魔力ガンガンでしょ!そんでウチが無双できるようにしちゃって!」

 なんかすごいこと言ってるぞこの人。

 魔王様をチラ見すると、魔王様の顔面に脂汗がだらだらと流れている。そりゃそうだよな。魔族でもこんなん言わんわ。大丈夫か人間界。

「人間界と魔界をつなげるなどできない。そんなことをすると両方のエネルギーがぶつかり合って、この世界ごとお前も消えてしまうんだぞ」

「はい出たクソ仕様!」

「バーブ!助けてくれ。俺こんな嫁嫌だ……」

「あんたが呼んだんでしょ!」

 珍しく同意でございますよ。みりあむ殿……

 寝所の用意ができたと伝えに来た使用人を下がらせて、言い争っている二人を横目に私は考えを巡らせた。

ちょっとだけ続きます

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