第1話【終わりの始まり】
「ガンが転移しています。」
2月14日。私は、病室にいた。外では、近くにある高校の制服を着た女子達が楽しそうに歩いている。
これから好きな人にチョコ渡す、もしくは渡した帰りだろうか。
私は、楽しそうに笑う女子高校生の表情を見て、朗らかな気分になると同時に物凄い嫉妬感を抱いた。
今日から1ヶ月後の3月14日、ホワイトデー。
この日は女子高生にとって待ち遠しい日であることは間違いない。
その日、私はこの世に存在しない。
昨年摘出した癌が再発し、体の至る所に転移していたのだ。
〜余命1ヶ月〜
医師に言われた絶望の5文字だった。
「葵、結果はどうだった?」
病室の扉が開けて入ってきたのは翼だった。
翼は、中学校から仲が良く、家も近かったため、部活帰りによく遊んでいた。
高校の卒業式が終わった後に、翼から告白され、それから彼氏彼女の関係になっている。
今日は、検査入院とだけ伝えていたため、学校が終わってから私のお見舞いに来てくれたようだ。
「異常なし!葵、完全復活です!」
「よかった。元気過ぎて逆に困るぐらいだもんな。」
そう言って笑う翼に対して、私は愛想笑いで返した。
愛想笑いしかできなかった。
外で楽しそうに話をしながら歩く女子高生達を再度見て、私はまた嫉妬心にかられた。
〜なんで私なの〜
1話完〜2話に続く〜
癌の転移、余命宣告を受けた葵。20歳という若さで絶望を味わってしまった彼女は、見ず知らずの他人にまで嫉妬心を抱くほどショックを隠せない状態になってしまう。ただ、翼にはその現状を告げることができなかった。葵と現状を知らない翼。2人の関係は今後どのようになっていくのか?葵は翼に伝えることができるのか?切なくも淡い大学生の物語が始まる。