ハンス・フォン・ゼークト
「参謀教育とは、天才を作る事ではない。能率と常識とを発揮出来る、通常人員を育成する事である。」 ハンス・フォン・ゼークト独陸軍将軍
第一次世界大戦後、ヴェルサイユ条約による厳しい軍備制限の中で、ドイツ陸軍を再建したハンス・フォン・ゼークト将軍の言葉である。
正にこれこそ究極の参謀論である。これと正反対の教育を行ったのが大日本帝国陸軍大学校と大日本帝国海軍大学校であった。
良き参謀の条件は3つある。一番目は、指揮官の頭脳を補う事が出来る事。具体的にはリーダーの計画立案や決断の為に、情報を集めて分析し、公正な判断を下し、適切な助言を行う事である。指揮官の為に、二つも三つも作戦計画を用意し指揮官の判断を仰ぐ。これこそが本来参謀が担うべき役割である。参謀は、こうした「裏方、黒子」でいなければならない。
二番目は、部隊の末端まで方針を徹底させる事。さらには、各部署で上手く行っているかを確認する事が参謀にとっては重要な仕事となる。つまり、リーダーの命令が発っせられた後、現場にお任せと言うのは、駄目なのである。現場をすっぽかさない。これも重要である。
三番目の条件は、将来の推移を察知する能力を有する事。行動開始後に、適切に統帥を補佐する事も参謀の大切な役割である。裏方としての役割をこなせるような人材育成は大切であるし、その為に参謀職を出世の為のステップにするなど、もっての他であった。もとより、スタッフと言うものは地味な存在である。
米軍将校で、幕僚勤務を志願する事が少なかったと言われているのは、米軍において参謀が影響力を持つ事はまず無かったからである。参謀は指揮官の意思決定が忠実に実行される為の、補佐官に過ぎず、情報部門を除いては個性を発揮する事は許されていないものであった。参謀というものは本来"黒子"なのである。




