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名ゼリフから読み解く 大東亜・太平洋戦争  作者: 佐久間五十六


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山下泰文

 「我意強く、小才に長じ所謂こすき男にして、国家の大を為すに定らざる小人なり。使用上注意すべき男なり。」 山下泰文陸軍大将

 マレー作戦司令官で「マレーの虎」として有名な山下泰文陸軍大将は、辻正信中佐に対してこのセリフの様に酷評している。

 しかしながら、評判の悪かった辻正信中佐は、不思議と部下の評判は良かった。特に一緒に戦った兵隊の多くが、彼を誉めた。参謀の中で辻正信中佐ほど、前線に出て行った者はいないと称賛するのである。逆に言えば、参謀と言う者は東京にいるのは勿論、第一線の司令官でも安全な後方にいて、机に向かってああだ、こうだとやっているだけで、全く戦場には出ては来ない者ばかりである。

 ところが、辻正信中佐は違う。「前線で兵士が苦労しているのを放っておけない。」と言って、率先して戦場に出て行き、兵隊と共に銃を取る。その為、誰も反論は出来なかった。この種の正論を辻正信中佐は、しばしば口にしていた。

 作家の杉森久英は「辻正信」と言う著作の中で、「彼のする事なす事は、小学校の修身教科書が正しいと言う意味で正しいので、誰も反対のしようがなく、彼の主張は常に大多数の無言の反抗を尻目にかいて、通るのであった。」と述べている。

 参謀はスタッフであり、軍の責任者ではない。にも関わらず、辻正信中佐の犯した、権限逸脱や独断専行を上官である司令官達はあらゆる場面で抑える事が出来なかった。この事は、参謀重視の日本型リーダーシップがもたらした、取り返しのつかない過誤であった。

 大日本帝国陸軍の致命的な弱点が、この辻正信中佐と言う男には集約されている。どんなに座学の成績が良く、紙面上では優秀でも、現場で成績優秀とは限らない。辻正信中佐はそれを、身を持って示した貴重な例であろう。頭でっかちではバランスが悪いのである。

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