青年陸軍将校
「今の腐敗した日本は、天皇の意に沿う国家ではない。」
帝国陸軍青年将校
昭和10年前後、天皇親政を唱える軍人達の間で、よく使われている言葉があった。「大善」、「小善」と言う二種類の言葉である。天皇に尽くす際には、「大善」と、「小善」の二種類の行動の取り方があると言うのである。
「小善」は、軍人勅輸に書かれている通り、天皇に忠実に仕える事。そして「大善」とは、「陛下の大御心に沿って"一歩前に出て"お仕えする事。」
彼等(青年将校)にとっては、勿論「大善」の方が優位であると考えられていた。しかし、それは裏を返せば、自分達で勝手に天皇の心情を察して、天皇の為になる事なら何をしても良いとも、解釈出来る。
例え天皇の大権に叛く事でも、大きな意味で、「大御心に沿っている」のなら、それも許されるとした。それを象徴するのが、軍内にあった二つの派閥であろう。天皇親政を急進的に望む「皇道派」と「統制派」である。「統制派」は、日本の喫緊の問題は、国家総力戦に見合う高度国防体制を作り上げる事であり、それには合法的に軍部が権力を手に入れ、国家総動員体制"統制"経済体制にしなければならない。と言う考え方を持っている者達であった。陸軍上層部に多く、代表的な人物として、教育総監の渡辺錠太郎、陸軍省軍務局長の永田鉄山等がいる。
それに対して「皇道派」は、陸軍士官学校を卒業したばかりの、原隊付き勤務にあった青年将校が中心だった。20代半ば~30代の血気盛んな若者が多かった。このセリフは、その「皇道派」の青年陸軍将校が放った言葉である。
理想的な国家を作る為には、非合法活動も辞さない「大善」を信仰する者達であった。元陸軍大臣の荒木貞夫、元陸軍参謀次長の真崎甚三郎らがリーダーとなり、青年将校達を焚き付けていた。
「皇道派」は、天皇制打倒を説く共産主義国家のソビエト連邦を目下の敵とした。国家が腐っているという事を、まるで天皇がそう思っておられるかの様に語る傲慢さが、このセリフからは読み取れる。




