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名ゼリフから読み解く 大東亜・太平洋戦争  作者: 佐久間五十六


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小沢治三郎④

 「囮だから、一刻も早い米軍機の攻撃を彼等は望んでいる?こんな馬鹿な話はない。」

 小沢治三郎日本海軍中将

 参謀副長だった菊池朝三少将によると、空母瑞鶴の艦橋で、小沢治三郎中将がこのセリフを言っていると言うから、その苦悩や葛藤の程が伺い知れる。ともあれ、小沢治三郎中将の艦隊は、司令官以下全ての乗組員が、作戦目的を完璧に共有していた。

 それは即ち、作戦の成功が自らの全滅を意味している事になる。実際に米軍の索敵機が上空を旋回した時は、皆して雀踊りをしていたらしい。

 「敵索敵機2機上空にあり。」との知らせが入ると、万歳三唱をしたと言う。ハルゼー米国海軍大将率いる米国海軍機動部隊は、まんまと囮にかかった。さぁ、後は引っ張り上げるだけである。小沢治三郎中将の艦隊は、全速力でルソン島沖を離れて、敵機動部隊を北方に引き寄せた。

 一方、栗田健男中将の艦隊は、太平洋戦争の謎の一つとして有名な180度反転をしてしまう。即ち昭和19年6月25日正午頃砲撃開始直前に何故か栗田健男中将の艦隊は、レイテ島突入を止めてくるりと反転し戦場を去ってしまった。乾坤一擲も何もあったものではない。

 これを知らず、つまり作戦の失敗を知る事無く、小沢治三郎中将の艦隊の死闘は続けられた。小沢治三郎中将の艦隊の全ての空母瑞鶴・瑞鳳・千歳・千代田の4隻は、米軍攻撃機の前に相次いで沈没。小沢治三郎中将の自己犠牲は、栗田健男中将の艦隊の謎の反転により、実を結ぶ事は無かった。

 小沢治三郎中将は、空母瑞鶴と共に沈没しそうになったが、参謀達に抑えられて、抱き抱えられる様にして、軽巡洋艦大淀に移乗させられた。まだ戦い続けている艦があるのに、司令官が勝手に死ぬ事は許されなかった。

 しかし、これを持って小沢治三郎中将の艦隊の犠牲を無駄死にとは言って欲しくない。文字通り命懸けで与えられた任務を遂行し敢闘した事は、見事であったと賛辞を送りたい。総員が本気になって、撃滅される為に闘う事が出来たのは、部下にはっきりと明確に目標を与えたからである。その教訓を得られただけでも、後世の人間にとっては、価値のある犠牲であったと言える。

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