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成り行きで異世界転生 〜チート能力、期限付き〜  作者: 乙坂創一
第二章『フロウザー家捜索』

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第八十話「幕引き」

───あれ……何も見え……ゔぅッ!?

意識を取り戻した壊斗は、全身のあらゆる部位に耐えられないほどの痛みが走り、シオンの上に座ったまま気を失った。


再度目を覚ましたのは、見知らぬ部屋のベッドの中だった。ゆっくりと周りを見渡すと、仲間たちの姿が見えたが、皆揃って暗い表情を浮かべていた。

「皆……? アイツは……」

壊斗がそう声を漏らすと、一斉に冷たい視線が向けられた。

「起きたか」

そう冷たく吐き捨て、トパーズが近づいてくる。

「ここは……」

「円香と昌幸が待機してたホテルだ」

壊斗の寝ているベッドの端に腰掛け、背を向ける様に話しを始めた。壊斗はその言葉に違和感を覚えたが、追及はしなかった。まだ色々と状況の整理が出来ていなかったからだ。


トパーズは、お前に言いてぇ事は山ほどあるが。と言葉を紡いだ。

「コウシロウだけを連れて行ったのは、オレたちが足でまといだからか?」

トパーズは、静かにそう問いただす。その声は、どこか悲しげだった。

「そんなこと……!」

壊斗は言い返そうと口を動かすが、途中で声が出なくなった。

「結局よォ、お前だって死にかけてたじゃねぇか。オレたちが助けに行かなきゃ、コウシロウまで死んでたかも知れねぇ。その上で、オレたちが倒した奴ら全員が、お前に襲いかかる事になってたんだぞ」

「え……助けにって───」

壊斗は、驚いた表情で幸志郎の方を見た。

「私は話していませんよ。さすがお仲間さんです。貴方ならそうすると、分かっていたみたいですよ」

「あぁ。……だからこそ、悲しかったよ。計画通りに事が進んで……」

結輝がボソッと呟く。

「違う。違うよ。ごめん。皆に勘違いさせた……」

「勘違い?」

トパーズは、冷たく言葉を吐いた。今度は、少し怒りが伺えた。

「……俺は、皆を足でまといだなんて思ってない。信じてない訳でもない。ただ俺は、皆にこれ以上傷ついて欲しくないだけだ。……死んで欲しく、ないだけだ」


数秒の沈黙の後、言葉を続ける。

「皆を巻き込まないでも、俺と幸志郎さんだけで何とかなると思ってた。……けど、考えが甘かった。結局、皆が居なかったら俺は───」

壊斗は、下唇を噛み締め、両手で顔を覆った。

「……俺も思ってたよ。皆をもっと頼ろうって。でも、円香たちは俺のせいで死んだろ……? それは変わりようのない事実な筈。だから……本当なら、俺が変な奴らに狙われてるって分かった時点で、すぐにお前らの元から離れるべきだった。後悔してもしきれないよ……」


「……お前が……お前は何をしたんだ。何か隠してんのか? 誰かに恨まれるような事をしたのかよ?」

「思い当たる節なんか無いよ……少なくとも、俺の周りまで巻き込まれるような事をしたつもりは全く……」

「……口を挟んでもいいか?」

ドアを開け、部屋の中に入ってきたリアムが割って入る。

「お前、外に出てろって」

トパーズはリアムを止めようと立ち上がる。

「離せ。クザキに直接言わなきゃいけないことがあるんだ。今から何が起ころうが、全ては俺の責任だ」

壊斗は、自分の元に向かってくる得体の知れない人間の姿を見て、上半身だけ起こしている体勢から、思わずベッドから降りて立ち上がった。

「アンタ、誰だ……?」

「リアム・ハリス。上位四讃會、銃撃部隊No.7だった男だ」

リアムは、壊斗と顔を向かい合わせて自己紹介をし、手を差し出した。


「正直に言う。俺は、お前の命を狙う組織の一員だった」

「言い方が悪ぃだろッ!! カイト待て、まずこいつの話を───」

「上位……四讃會?」

壊斗は、後半の言葉より、まず前半の言葉が耳に引っかかる。聞き馴染みのある言葉が耳に入り、壊斗は過去を回想した。



「僕さ、決めた! 上位讃會を解体する」

「それはどうして?」

「……もう必要ないから」



スザンの、その言葉を思い出す。ただ、リアムの口にしたものは、スザンのとは少しだけ違う事にも気がつく。

「待ってくれ……上位讃會……上位四讃會……?」

「お前、上位讃會を知っているのか?」

「でもあの時、スザンは解散させるって……」

壊斗は、スザンに対する不信感で目の前が真っ暗になった。スザンが自分の命を狙っている。何の罪も無い仲間を殺した。様々な情報が一気に脳に入り、パンク寸前に陥った。そんな壊斗を正気に戻すよう、リアムは壊斗の肩に手を置き、揺らした。

「……それなんだ。スザンに組織を解散させた。それがお前が命を狙われる理由。そんなくだらない理由さ」

「お前、オレらがいくら聞いても答えなかったのに……!」

「最初は、当事者であるクザキに伝えるべきだと思ったからな」

「何でそんな事、俺に……お前が……お前らが、円香たちを───」

「カイト、落ち着いて……!」

そこでエメルを皮切りに皆が止めに入る。

「待て。マドカとやらの件、その後の話に関しても。俺は一切関与していない。神に誓って」

リアムは両手を上にあげた。


「……信用出来るか。そんな事。皆も、何でこんな奴を信用してる? おかしいって……」

壊斗は頭を抱えた。

「オレたちだって、敵だった奴を易々と信じた訳じゃねぇよ。色々こいつを試した結果、信用に値すると判断したんだ」

トパーズは、ポンポンとリアムの頭を殴る。

「お前がコウシロウと2人で敵地に正面突破した時、敵に銃撃されなかったのは、事前にこいつがソイツらをぶっ殺しといてくれたからだぞ」

「……それを聞かされて、もっと信用出来なくなったぞ。つまりこいつは、仲間を簡単に裏切るような奴だって事だろ……?」

「カイト……!」

反論しようとするトパーズを、リアムが待て。と止める。

「俺が組織を裏切った理由は2つ。1つは、妹が失踪したから。今は妹の捜索に集中したくてな。理由としては、もう1つの方がでけぇ。もう1つは……スザンさんが組織を抜けた事だ。それが大きな要因。あの組織は、スザンさんで持っていた。今までもスザンさんが居るからって、汚いやり方に目をつぶってたんだ。だが、創設メンバーが次々と辞めていって、遂にはスザンさんも組織を抜けて、腐りかけてたもんが、完全に腐りきった。スザンさんが居なくなった途端、やりたい放題のヘドロ組織に成り下がった。仁義もへったくれも無い。自分が殺したいから殺す。奪いたいから奪う。やってる事はただの盗賊だ。俺はそんな組織に入った覚えは無い。だから裏切ったんだ。けれど、スザンさんを誑かしたお前の事を恨んでも無い。あれはスザンさんが決めた事だ。結果として組織と踏ん切りをつけるキッカケになって良かったとすら思ってる」

「誑かしたって……」

「……そう聞かされてるんでな。それ以上の事は分からない。まぁ聞けよ。今から全貌を話す」


リアムは、事の経緯を1から全てを説明した。上位讃會が元々どういう組織だったのか。

「親父を……殺す為!?」

「それって、"あの"ダイヤモンドか……?」

「あぁ、間違いないだろう。仲間集めのために、海を渡ってきたという話を聞いた事がある」

───俺たちと、目的は同じだったって言うのか……

壊斗はその事実にショックを受け、頭を抱えた。


その後もリアムは話し続けた。メンバーの数が増えてゆくに連れ、次第に仲間の統制がとれなくなり、やりたい放題の組織に変わって行ってしまった事。そんな上位讃會にとって、スザンが歯止めの役割を担っており、彼の存在がとても重要だった事。そのスザンを上位讃會解散という考えに導いたのが壊斗だと言うこと。壊斗の命がゲーム感覚で狙われ出した事等を事細かに。すると。


「本当に、ただの逆恨みじゃねぇか。あれはスザン本人が決めた事だぞ……」

壊斗はハハッと感情の籠っていない笑い方で笑う。

「そんなゴミみてぇな理由で、円香は、乱子は、悟はッ!! 死んだってのかよッ!!!」

壊斗は、何度も自傷した。やるせない怒りを自分にぶつけるしかなかったからだ。

「辞めろ。そんな事したって、状況は良くならない」

結輝が自傷行為に走る壊斗の腕を掴む。

「起きたばかりで、こんな話をして悪い」

リアムは壊斗と目を合わせて謝罪を述べた。

「……いや、お前には感謝してるよ。お前のおかげだ。お前のおかげで、俺が何をするべきか分かったよ」

壊斗は、トパーズの方を向いた。

「なぁトパーズ……フロウザー家の事、後回しにしてもいいか?」

「あぁ、かまわねぇ」

「……上位四讃會を潰す。これ以上被害者を出さないためにも、やらなくちゃいけない事だ」

壊斗は、辛い現実を受け止め、一歩前進した。


「じゃあ、すぐに円香を東雲城に───」

「待て。今日は休め。お前にも、皆にも休息が必要だ。今日は色々な事が起こりすぎた」

「……確かに、そうだな」

壊斗も、それには同意した。


「……よしお前ら、準備しろ。風呂に行くぞ」

「風呂……?」

「ここのホテル、5階に"温泉"ってのがあるらしいぜ。前に好きっつってただろ、カイト」

トパーズは、ニヤッと笑った。

「いや、今はそんな気分じゃ───」

「もう夜の10時だぞ。後ちょっとで閉まっちまう。いいから行くぞ!」

トパーズは、嫌がる壊斗の手を引いた。



ジャーバルには、男女が別れたものしかなかったが、ここエマルカでは男女混浴の銭湯が主流だった。その中でもほとんどのホテルはシャワールームのみ場合が多いが、数少ない、大浴場を併設したホテルが幾つか存在し、その内の一つがこのホテルなのだ。


ここの風呂は、ジャーバルとは違い水着を着用するスタイルだ。疲れを癒すのと、気分転換も兼ねて、皆で一緒に入ることにした。


「円香、大丈夫かな……」

更衣室で貸出の水着に着替えながら、昌幸がそう呟く。

「クローゼットの中に寝かせて、鍵まで掛けてきたんだ。心配する事ねぇよ」

トパーズはそう言って昌幸の頭を撫でた。

「……子供扱いしないでくださいよ。僕と3つしか違わないのに」

昌幸は、むぅとトパーズを見上げる。

「ハッ。3年はデケェぞ?」


次に、トパーズは暗い顔で俯く壊斗の背中を叩く。

「……卑屈になんなよ。お前の考えてる事は何となく分かるぜ」

そう声を掛けるが、壊斗は無言のままだった。

「だからこそ、心身共に疲れ取って、気持ち入れ替えよう。な?」

「……そうだな」

壊斗は、そう言ってぎこちない笑顔を見せた。



「うわ、広ぇ〜!」

皆は、戸を開けて温泉を見渡した。ここの温泉は全て露天風呂で、木製の屋根に覆われていた。

「今回は皆一緒だぁ!」

いつもは大抵1人で風呂に入っていたエメルは、皆と一緒に入れてとても嬉しく感じていた。

「とっとと身体洗って入ろうぜ!」

トパーズは、場を盛り上げようと頑張った。

「……プールみたいだな」

「ん、普通だろ?」

壊斗のつぶやきに、エマルカ在住のリアムが答える。



「ふぅ……」

身体を洗い、湯に浸かり、息を漏らす。そこで壊斗は何故か目から涙が流れ出した。

「カイト、どうして泣いてるの?」

「わっかんね。何でだろ……」

手の甲を使って涙を拭う。暖かい湯に浸かった事で、色々な感情が溢れ出てしまったのだ。


「……そういえば、何でお前は上位四讃會なんかに入ったんだよ。エマルカ生まれなら、ダイヤモンドに恨みなんか無いだろ?」

涙を拭った壊斗は、隣で寛ぐリアムにそう尋ねる。

「確かに俺が加入したのは中期だが、好き勝手やりたくて入ってきたゴミたちとは違う。俺が入ったのは、完全に腐る前だ。……組織に入った理由は、金が必要だったのと、スザンさんの掲げた理念に共感したからだ。早くに両親を亡くした俺が、妹を何不自由なく育てる為には、金が必要だった。俺は一人じゃ何も成せなかった。仲間が必要だったんだ」

「中期に入ったのに、内情に詳しいのは、創設メンバーの一人と仲が良かったからだ。その人によく昔話をされたもんだ。だが、その人はキャバクラ関係で起きた抗争により命を落とした。上位讃會(俺ら)はそういうののケツ持ちもやっててな。ただ暴れたいだけの奴らはそれ目的では入ってくるやつも居るくらいだ」

「そうか。創設の奴ら意外だと、組織に入る理由も多種多様なんだな」

壊斗は聞いて悪かった。と謝った。


「……やっぱり円香が心配だ。僕はもう上がりま───」

「待てって」

トパーズは上がろうとする昌幸の腕を引っ張り、強引に湯に沈めた。

「ぶはッ! 何を……!」

「お前、相当顔色悪いぞ? 眠れてねぇだろ? あったけぇ湯に浸かって、疲れ取れよ」

「うぅ……ですが……」

「マドカの奴だって、きっと今のお前を見たらこう言うぜ? 『身体休めて、元気になって』ってよ」

「……そう、ですね。円香ならそう言いそうです」

昌幸に笑顔が戻る。それを見たトパーズも微笑んだ。


その時、タイルを歩いていた子供が足を滑らせ、すっ転び様にエメルの方へ一直線に飛んできた。

「うわっ!」

「きゃっ」

足を滑らせた男の子は、エメルと頭をぶつけ、そのまま湯に落ちてしまった。

「いてて……大丈夫……!?」

エメルはすぐ男の子の脇を掴み、湯から引き上げると、後から痛みがやってきたのか、泣き出してしまった。

「ごめんなさい! ……ノア! だから言ったじゃない! 気を付けて歩かないと!」

母親らしき人物がそう叱り付ける。エメルはそのまま(ふち)に座らせ、おまじないを掛けた。おまじないという名の能力(ちから)を。

「見て見て」

その言葉の通り、男の子は涙ながらに目を開けると、男の子の頭に手をかざし、両手を広げ、ふうっと息を吹き掛けた。

「痛いの、飛んでっちゃった。どう? もう痛くないでしょ?」

そうニコッと微笑む。

「……うん! ほんとだ! お姉ちゃん、ありがと! ぶつかってごめんね?」

「ううん。私は大丈夫だよ」


その後、何度も頭を下げる母親に、「いえいえ」と笑いながら返した。

壊斗は、エメルの普段見れない大人っぽい姿が、とても微笑ましく感じた。

「……結輝、眩しそうにしてたけどどうかしたのか?」

一人だけ光を遮るように手を前に出し、目を強く瞑る結輝に疑問を感じ、尋ねてみる壊斗。

「……一つ聞きたいんだけど、エメルが力を使う時って、あんな眩しい光なんか出てたか?」

昌幸以外の皆はその問いにハテナを浮かべる。

「あぁ。最初は眩しく感じたけど、もう慣れたよ。結輝もじゃないの?」

「いや、全く。……もしかして、俺が能力者になったから、見えるようになったのか……?」

エメルの能力が、非能力者には見えていなかったという事実が発覚し、壊斗は「やはり自分も能力者なんだ」と再実感した。


「……幸志郎さん」

「はい。どうかしましたか?」

「ちょっとの間、皆を見てもらっても良いですか? トパーズと二人で話したいことがあって……」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

快く引き受けてくれた幸志郎に会釈し、壊斗はトパーズの元へ歩く。

「なぁ」

「ん? どーした?」

壊斗は無言でクイクイっと親指でサウナを指差す。

「……行くか。前のリベンジしてやるよ!」



風呂の方は賑わっていたが、サウナの中には人っ子一人居なかった。

「嫌な話をぶり返すようでさ、皆の前じゃしたくなかったんだけど、俺が気ぃ失った後、どうなった? 色々さ……」

「それでオレを誘ったのか。……別に。大した事ァ起きてねぇよ。あの後、敵に覆いかぶさってぶっ倒れてるお前を回収して、すぐにあの場からずらかった。音を聞き付けた野次馬共がワラワラやってくる前にな」

トパーズは、情景を頭に思い浮かべて話した。


「俺と戦ってた奴……あの、ダウンベストの奴は……?」

「お前の下敷きになって奴か。くたばったんじゃねぇか? 少なくともお前を回収した時にゃ動かなかったぜ。ま、(ソイツ)が死のうが知ったこっちゃねぇ。自業自得だろ」

「くたばったんじゃって……俺、アイツにボコボコにされて……え、どういうことだ……?」

「それはオレが聞きてぇっての。お前、あの時正気じゃなかったろ」

そう言って壊斗の顔を覗く。

「正気じゃなかったって、どんな風に……?」

「……皆は気づいてなかったみてぇだから、敢えてあの場じゃこの話はしなかった。けど、あれはいつものお前じゃなかった。それだけは分かんだ。殺気とはまた違う、変な感じがした。……言葉にしづれぇ」

壊斗は、トパーズの言葉から、自分がどういった状態であったか、過去の経験から何となく察しがついてしまった。

「思い当たる節はある。けど……実は俺自身もよく分かってないんだ。昔にも今日みたいなことが起きて。自分が自分じゃなくなるような感覚で……突然何かに飲み込まれるみたいな。そんな感覚。それで、意識が戻るまでの間の事は覚えてない。……なんか厨二病みたいで恥ずいけど、本当の事なんだ。親に聞いても、はぐらかすばっかで何も答えてくれないしさ」

トパーズは壊斗の話を黙って聞いた。

「その時の事は、思い出したくも無い記憶だけど、いつか皆にしないといけない話だと思ってる」

「……別に急いじゃいねぇんだ。お前が話したいタイミングで良いんだぞ」

「ありがとう。……そう言ってくれると、少し気が楽だ」

壊斗とトパーズは見つめ合う。2人は、何だかむず痒い事を言ってしまったと後悔した。

「……そろそろ出るか」

「だな」


「おや、工崎さんにトパーズさん。それに……リアムさんまで」

「おう。お前も入りに来たのか? ……って、リアム?」

二人は周りを見渡すと、壊斗達の三つ後ろの段に、タオルを頭に巻いたリアムが座っていた。

「どうした?」

「うわッ!? 後ろに居たのかよ!? 気づかなかったぜ……居んなら声掛けろよな」

「お前らの後に入ったが、二人が話に熱中してたから。邪魔しないように黙ってたんだ。安心してくれ。話の内容は耳塞いで聞かないようにしたからよ」

「そうかよ……」

トパーズは、バツが悪そうに返事をする。


「……すみません。まだお話中でしたか?」

「いや、大した話はしてないです。ただの世間話っすよ」

「そうですか……実は、私も工崎さんにお話がありまして。昌幸くん達には、サウナは危ないので、居なくなったらすぐ分かるように、サウナの扉付近にある椅子に座っているよう言ってあります。 ほら、ここからよく見えるでしょう?」

サウナの扉から外を覗くと、エメルが手を振っているのが見えた。その隣には、昌幸も座っている。


「で、本題に入りますと───」

そこで幸志郎は、実は。と話を切り出した。

「私の方で、昌幸くんを引き取りたいと考えています」

「え、昌幸を……?」

「はい。今回の事件も加味して色々と考えた結果、そうするべきだと結論付けました。当人にも話しをしたら、『皆が良いって言うなら』と返事を頂きました」


壊斗とトパーズは、暫く黙りこくった。その後、トパーズが口を開く。

「……オレは賛成だ。アイツはまだガキすぎる。それに、身を守る能力も持ってない。いざとなった時、自分を守れるのは自分しか居ねぇ……マドカの二の舞になられちゃ、困る」

言い方は悪いが、壊斗もその意見には同意だった。


「仮に、ユウキみてぇに戦いの最中に能力に目覚める可能性はあるかもしれねぇが、危ねぇ目に合うかも知れねぇ所に、連れ回したくねぇ。それに、マサユキが能力に目覚めるとは限らねぇ。……コウシロウが引き取ってくれるってなら、願ったり叶ったりだ」

「……そう、だな。それが良い」

壊斗は、仕方ない事だと受け入れた。

「何も一生の別れという訳ではありません。引き取るとは言いましたが、これからも会いたい時にいつでも会える関係でありたいと考えています。ですよね? 工崎さん」

幸志郎は、そう言って前を向いた。

「コウシロウ、それァ壁だ」

さっきから、幸志郎はずっと壁に向かって話しかけていたようだ。

「……すみません。眼鏡を掛けていないもので。近づき過ぎると、よく見えないんです」

幸志郎は恥ずかしそうに俯く。その光景を見て、壊斗は笑を零した。

「あ、コウシロウがカイトを笑わせた!」

「笑ってないって」

「嘘つくなって! 見てたぞ!」

トパーズは、嬉しくなって壊斗を指差した。壊斗に笑顔が戻ったのは、数日ぶりの事だった。それが、トパーズにとってこの上なく嬉しかったのだ。


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