第七十七話「回復」
秋学期のテストも終わり、春休みに入りました。これから投稿ペースを上げていけたらなと考えております。
───グランヨーク、旧オフィス街、グラフィス通り。
「どう……しよう」
廃れた交差点の前で、エメルは自問自答を繰り返していた。
───コウシロウさんを置いてはいけない……身動きが取れない状態で放置するなんて、やっぱりダメだよ! じゃあ……コウシロウさんが目を覚ますまで、一緒に何処かへ隠れる? ……いや、もし皆が危ない目にあってたら、私が治してあげなきゃ……どうしよ……どうしようッ!?
エメルは、まるで全ての責任が自分にあるかのように、頭を抱え込んでいた。齢十二の少女に、過酷な状況下の中、自身の体重の約2倍近くある成人男性を背負いながら、最善の択を選ぶのは、驚く程に難しいことだった。
「私が……やらなきゃ……早く皆を、探さないと……」
エメルは、例え重みに耐えきれなくなろうと、引き摺ってでも幸志郎を連れてゆき、仲間を探すと心に決めた。
…
「酷い……建物がいっぱい崩れちゃってる。皆が心配だよ……それに……遠くから何か、爆発音みたいな音が……」
エメルは、前方に建つ建物のほとんどが崩れ去っており、仲間が巻き込まれていないかを危惧した。そして、どこからか聞こえてくる音に、嫌な予感を覚える。
「───お〜いッ! 誰か助けてくれッ!! 瓦礫の下敷きになって出られないんだ!!! それに……仲間も大怪我をしているッ!!」
暫く歩き続けていると、遠くの方から微かに助けを求める声が聞こえてきた。
「その声は……リアム!?」
うっすらと聞こえてくる声の主が、リアムである事にエメルは気づいた。
エメルは急いで声の元へ向かった。
「……その声は、エメルか!? ……周りには誰も居ないか?」
「うん、コウシロウさんだけだよ。それよりッ! リアムはどこにいるの!? 」
「なら、良いんだ。とりあえず、俺より先に……トパーズを探してやってくれ。死にかけてる」
「トパーズはどこ……?」
「……ルーシィ。エメル達を頼む」
リアムは、光とともに、青い犬を呼び出した。
「この子……」
ルーシィは、幸志郎を乗せろ。と言わんばかりに背中を突き出した。
「ごめんね、ありがとう」
エメルは、お礼を言って幸志郎をルーシィの背中に乗せた。
「ルーシィはスピードだけじゃない。鼻が特別良く利く。ルーシィの功績で、銃撃部隊の連中を殲滅出来たんだ。すぐにトパーズの場所を嗅ぎ当ててくれるだろう。……何かあったら、そいつが身代わりになってくれる。気をつけろよ」
「でも……リアムは……?」
「なに、命に別状は無い。下半身が潰れただけだ。出血は酷いが、まだ持ち堪えられる。早くトパーズの奴を」
「……わかった。すぐ戻ってくるから、待ってて」
エメルは、その言葉でトパーズの状態にある程度察しがつき、幸志郎を乗せたルーシィの後に着いて行った。
ルーシィがトパーズの場所を探し当てると、エメルは絶句した。そこまで離れてはいない場所に横たわる、血塗れのトパーズ。その隣に倒れている、切断された女の遺体。その辺り一帯が血の海の化していた。エメルは、口に手を当て、目を強く瞑り、数秒間何かを堪え、決心したような顔つきで目を開いた。まずは足元に転がっているトパーズの腕らしきものを拾い上げ、トパーズの元へ駆け寄り、能力を使用してトパーズの応急処置を施した。次に、切り落とされた片腕をトパーズにくっ付け、能力を発動した。繋ぎ合わせた時、ズレがないよう慎重に。そして、エメルの能力により、不足した血の輸血を完了した。
「───きて」
───なんだ……うるせぇ……誰だよ……
「───起きて! トパーズッ!!」
トパーズは、ひどく聞き馴染みのある声に気付き、意識が一瞬で戻り、バチンと目を覚ました。
「エメラルド……何でここに……」
「もう! 心配させないでよッ! 私が来なかったらッ!! どうするつもりだったのッ!!!」
エメルは、起き上がろうとしたトパーズの胸に顔を埋めて泣いた。それはもう、大きな声で。
「信用してたのに……ッだから行かせたのにッ!!!」
「……悪い。やっぱオレ、お前が居ないと何も出来ねぇな。死の淵をさまよって、新たな力に目覚めた結果が、これだ。相打ち……こんなんじゃ、倒したとは言えねぇ」
トパーズは、エメルが泣き止むよう頭を撫でながらそうぼやいた。
「ん……ソイツ、ルーシィか? その上に横たわってんのは、コウシロウ? カイトと一緒のハズじゃ……待て、リアムはどこだ?」
エメルは、その言葉で、まだ何も終わっていない事を思い出した。流れ出す涙を唇を噛んで堪え、感情を抑え込んだ。
「急がないと。早く助けなきゃ」
「そうだな。って……アイツ、こうなってたのか」
トパーズは、久藤の亡骸を見て、そう呟く。
「その人……」
「あぁ、敵だ。だけど、悪い奴じゃねぇと思う。戦っててそう感じた。埋葬でもしてやりてぇが、時間がねぇ。それに、そんな資格も」
「……うぅ」
「───はッ!? まだ生きてやがんのかッ!?」
その声の主は、久藤では無く幸志郎だった。
「……エメル……さん……? それに……トパーズ……さんまで……」
「コウシロウさん、やっと目を覚ました……!」
「私の事は……どこかに隠しといてと……」
「動けないコウシロウさんを、そのままにしておけないよッ!」
エメルは、初めて幸志郎のことを怒った。この過酷な状況が、エメルを強くしたのだろう。思っていること、口に出せるように。
「もしあのままなら、リアムは瓦礫の下敷きになってるハズだ。急ぐぞ」
エメルとトパーズ、そして目を覚ましたばかりの幸志郎を背負ったルーシィは、急いで駆け出した。
…
三人は、瓦礫を掻き分け、リアムを引き摺り出した。
「下半身……完全に潰れちまってんじゃねぇか。エメラルド、治せそうか?」
「……やってみる」
エメルは腕まくりをし、リアムの治療に取り掛かった。
「コウシロウ、エメラルドが回復に専念できるよう、敵が来ねぇか見張っとくぞ」
「了解です」
二人は、リアムの治療が終わるまでの間、警戒を怠らなかった。警戒が緩んだ隙に起きた、惨事を繰り返さない為に。
「……そう言えば、何でリアムはトパーズが死にかけてるって分かったの? 瓦礫の下敷きになったままで」
エメルは、治療をしながら、そんな疑問をぶつけてみた。
「トパーズの相手は、剣術部隊の現No.1だった。アイツは用心深いことで有名だ。もしトパーズがアイツに負けていたら、真っ先に俺の事を探しに来たはずだ。完全に息の根が止まっているかを確認する為にな」
「……そっか」
そんな会話をしている間に、リアムの治療が終わった。
「エメル、助かった。徐々に下半身の感覚が戻ってきた」
「良かった……皆無事で……」
「まだ"皆"じゃねぇ。カイトがまだだ。それに、ユウキも無事か分からねぇ。巻き込まれてねぇと良いけどな」
「……先程から鳴り響いている、この轟音、まさか、壊斗さんじゃないですよね……?」
「ま、まさかな……早く行くぞ、心配だッ!!」
トパーズが、疲れ果てたエメルを背負い、駆け出した。
それに着いていくように、幸志郎とリアムも駆け出す。当初の目的であった、壊斗を連れ戻す為に。
今回の話、ちょっと補足説明を入れたい所があったんですけど、無粋そうなので辞めときます。




