第七十二話「残虐」
15時45分。エメル、現着。
「皆……どこだろ……」
エメルは、辺りををキョロキョロと見渡した。
「……酷い……」
エメルは、知らない地。その上、死体と血に塗れた街に、一人ぽつんと放り出されたような状況がとても心細かった。
「いや、弱気になんかなってられない。私がカイトを連れ戻すんだ」
エメルは、ツインテールを解き、深呼吸を挟んで、ポニーテールに結び直した。円香のように。
その時、背後に気配を感じ、咄嗟に振り返った。
「あ、バレちまったか」
【上位四讃會 剣術部隊No.10 マチェーテ使い『范新华』】
范は、バレた事などお構い無しに、エメルの左腕を叩き切った。
「まずは一本!」
エメルは、あまりの激痛に顔を顰めた。
「どうだ? 痛ぇか? 痛ぇだろ!?」
范は、笑いながらそう尋ねた。
「……大……丈夫……痛みには、慣れてるから」
エメルは、目に涙を浮かべながらニヤッと笑ってみせた。
「───強がってんじゃねぇぞ糞餓鬼!」
范がそう叫ぶと、地面に転げ落ちたエメルの左腕の断面から、緑色の結晶の様なものと共に、少しずつ消えていった。吹き出た血液のみを地面に残し。
「な、何だ!?」
かと思えば、エメルの方から、同じく結晶と共に、切られたはずの左腕が徐々に再生されていった。
短時間のうちに、エメルの腕はすっかり元通りになった。
これには、エメル本人も驚いていた。それと同時に、自分の体が、ひどく気持ち悪く感じた。
「何だお前! ミミズか!? 気持ち悪ぃッ!! いや……本当に価値のあるのは、工崎なんかじゃなくて、お前なのかも知んねぇな」
范は、自分の顎を触りながらニヤついた。
「───実験スタートォ!! 腕が再生したってんなら……首はどうだろうなぁ!?」
そう叫びながら、范はマチェーテを振り上げた。
その時だった。范の元に何かが急接近し、范は間一髪それを避ける事が出来た。
「な、何だ何だ!?」
男は、その音に驚いてすぐに確認しに行く。エメルも恐る恐る着いていった。すると───
「痛た……エメルさん?」
その正体は、幸志郎だった。
…
遡ること、数十分前。幸志郎は、壊斗と共に、グランヨークの旧オフィス街を歩いていた。
「壊斗さん。少し危機感が足りませんよ。堂々としすぎでは?」
「うるせぇ。こんくらいの方が、かえってあっちから寄って来やすいだろ」
「そうは言っても……」
その時だ。目にも止まらぬ早さで、エディが突進してきた。
「見つけたぞクザキィ!!!」
壊斗は、エディを思いっ切り殴りつける。
「俺に攻撃は効か───」
その瞬間、エディの体は爆散した。いくらエディの"攻撃を受け止める能力"でも、壊斗の一撃は、そのキャパを優に超えていたのだ。
幸四郎は、壊斗のパンチに巻き込まれ、吹き飛ばされた。
…
そして、今に至る。
「……いきなりですみませんが、この子の事、ご存知ないですか?」
汚れをパッパッと払いながらそう言うと、幸志郎は懐から円香の写真を取り出し、范に見せた。
「ん……知らねぇな」
「貴方方に殺された少女ですよ」
「あ、待て。知ってるぜ、ソイツ。工崎を呼び寄せる為の餌だろ? 話は聞いてる」
「……そうですか。もし、その事を話していただけるのであれば、殺しはしません」
「は? 馬鹿言ってんじゃねぇぞゴラァ!! ……気長に待ってろよ。その餓鬼殺した後、すぐテメェの番だからよ」
「……お前らは、円香さんだけじゃ飽き足らず、まだ人の命を奪う気ですか?」
幸志郎は、片手でワイシャツのボタンを外しながらそう呟いた。
「俺だって、金にならねぇ殺しはしねぇさ。俺を苛立たせた奴は別だがな」
范は、マチェーテについた血を舐め取った。
「エメルさん、お手数ですが、目と耳を塞いでおいてください。今から起こることは、決して綺麗なものじゃありませんので」
「何ほざいて───」
幸志郎は、范の言葉を遮り、一瞬にして范の首が切り落とされた。
断面からは、ピューっと血が吹き出す。范はそこから数秒もせずに絶命した。




