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成り行きで異世界転生 〜チート能力、期限付き〜  作者: 乙坂創一
第二章『フロウザー家捜索』

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第七十一話「覚醒」

結輝は、生まれて初めて女を殴る決心を着けた。この狂った世界が、結輝を変えたのだ。


しかし、結輝のパンチはいとも簡単にいなされ、カウンターの肘打ちを食らった。スピードや攻撃の威力が根本的に違う。結輝は、拳を重ねていくうちに、自分と相手との圧倒的な差を感じていた。


結輝は、負けじとバックスピンキックを繰り出すが、女は上体を反らし、攻撃を回避した。間髪入れずに、女は右膝を上げた。

───前蹴りかッ!?

結輝は、右足での前蹴りが来ると察し、手で払い除ける準備をした。

しかし、女は右足を踏みとどめ、即座にジャブを叩き込む。想定外の攻撃に、結輝は一瞬頭が真っ白になった。

「───ゔッ!!」

女は、続けざまにに左ミドルキックを放ち、結輝の脇腹を的確に捉えた。


女は、結輝を一切間合いに入り込ませないよう、常に膝を上げ、構えた。少しでも間合いに入ってこようものなら、飛び前蹴りやジャブで牽制をとった。結輝は、上手く間合いに入り込めず、パンチも躱され、完全にペースを掴まれていた。


結輝は、女のふくらはぎを狙って蹴りを入れた。しかし。

「硬ぇ……本当に女の足がこれッ!?」

「失礼だな君は」

女はビクともせず、逆に軸足を狩られてしまった。

その瞬間、足に激痛が走る。まともに立っていられない程だ。


結輝は、得意技の蹴りを完封され、自己嫌悪に陥りながらも、相手を観察するにつれて、ある抜け穴を見つけた。


───ステップを使わない!?

そう、女はその場での牽制やカット等をを行い、前後左右へのステップをほとんど使わなかった。


結輝はそこから、ステップを使ってのパンチと、フェイントを多用した。

女のフォームでは、顎がガラ空きだ。隙を見つけては拳を振り上げ、アッパーを狙った。しかし、あと一歩のところで躱される。もう蹴りは使えない。結輝は、パンチだけで相手に勝つという無謀さを、重々理解していた。

その直後、つまんなそうな表情を浮かべた女に首を掴まれ、みぞおちに膝蹴りを叩き込まれた。その瞬間、結輝は意識が途絶えた。



神崎結輝(かみさきゆうき)は、とても裕福な家庭に生を受けた。そこは、裕福故に、愛の少ない家庭だった。料理、洗濯、掃除等、家事全般はお手伝いさん、所謂(いわゆる)メイドが全てこなした。結輝は、父とのキャッチボールの楽しさも、母の愛情の籠った料理の味すらも知らなかった。


それどころか、毎日毎日したくもない勉強を強制させられていた。英才教育というやつだ。しかし、結輝はそれを受け入れた。それが当たり前だと思っていたからだ。


そんなある日、結輝の人生を変えてしまう出来事が起こった。

『この子と結婚しなさい』

父親が、結輝の結婚相手を連れてきたのだ。見ず知らずの女性との結婚。どんな事でも受け入れてきた結輝でも、それだけは受け入れることが出来なかった。

『父さん、流石に……生涯を共にする相手は、俺に決めさせてくれよ!』

『……俺?』

結輝は、その冷たい一言に萎縮してしまった。

『直らないな、その癖。言っただろ? 自分の事を呼ぶ時は、"僕"だと何度言えば分かる?』

『……こちら、鞠奈(まりな)ちゃん。才色兼備、容姿端麗。貴方には勿体の無いくらい、凄く優秀なのよ』

『宜しくね。結輝くん』

その子が結輝に向けた笑顔は、どこか歪んでいるようで凄く不気味だった。

───こいつ……父さんと母さんに無理やり結婚させられそうなのに、何とも思わないのかよ!?

結輝は、そこで誰の事も信じられなくなった。


結輝が結婚という行為を重く考えるようになったのは、前に交したメイドとの会話からだった。

『結婚は、生涯一緒に暮らしたいと思える人とするものですよ』

『じゃ、じゃあ僕……文香(ふみか)と結婚する!』

『あら。……では、結輝様がもう少し大人になったら、一度聞かせてくださいね?』


しかしその後、メイドはどこからかその会話を聞かれてしまい、家を追い出されてしまった。


それから結輝は、ずっと文香の事を想っていた。だから、見ず知らずの女との結婚を受け入れることは出来なかった。

『二人で暮らす家も手配した。明日からはそこに住む───』

『いい加減にしてくれよッ! もううんざりなんだよッ!! 父さんも、母さんも!! この家は狂ってるッ!!!』

それが、結輝が初めてした"反抗"だった。結輝は、窓ガラスを蹴破り、近くの木に飛び移った。


家からほとんど出して貰えなかった結輝は、知らない場所をさまよっていると、ある男とぶつかってしまった。

『痛って……って、子供かよ』

結輝はそこでパニックになり、蹴りを繰り出す。が、男はそれを片手で受け止め、笑顔を見せた。

『いい蹴り打つじゃん』


それから、結輝はその男に拾われ、一緒に暮らす事となった。結輝は、その男から全てを教わった。女性の扱い方から、キックボクシングも。結輝は、その男を第二の父として大いに慕った。


そして、月日は流れ。神崎結輝、二十歳。様々な事業を試し、"惚れさせ屋"に落ち着いた頃。

その男から一通の手紙が届いた。そこには、金が底を尽きたから、少しばかり貸してほしいとの事だった。

「……ったく。久々に手紙寄こしたと思ったら、金の事ばっかだな。風雅さんは」

そうやって、結輝は来客を待つ日々を送っていた。



「あ……動かなくなった」

女は、結輝の脈拍が完全に無くなった事を確認し、結輝の髪を掴んだまま携帯を開いた。

「あー、もしもし? レオ? 捕まえたよ。神崎結輝くん」


一方結輝は、真っ暗な空間の中で、足を屈め、跪いていた。

「どこだよここ……死んだのか……?」

だが、暫くすると、文字通り一筋の光が差した。結輝はゆっくりと顔を上げ、その正体を確認してみると、そこには神々しく光る"手"らしきものだった。それは、掴め。と言わんばかりに広げていた。結輝は何故かそれに惹かれ、手を強く握ると、強くなる光と共に、強制的に脳に情報がインプットされ、元の世界へと引き戻された。


結輝は、自分の足でゆっくりと立ち上がった。

「まだ立てるの……?」

その瞬間、結輝から繰り出された蹴りが、咄嗟にガードした上から、女にダメージを与えた。女は、思わぬ威力で後ろに退けられ、ハッとした顔で結輝を見た。

「……第2ラウンドだ」


抗力。それは、迫り来る運命に抗う力。その力は、結輝の体を起き上がらせた。

「……抗力? 君、能力者だったの……?」

結輝は、体から滲み出る緑色のオーラを抑えることが出来なかった。

「あぁ、たった今そうなった」

「だったら、私も……!」

女は、負けじとオーラを全開にした。

───見える、紫色の……オーラがッ!


結輝は、何とか抗力の制御に成功した。女は物凄い速さで結輝に襲い掛かる。


結輝は、次々と繰り出される女の攻撃を、片手であしらうように防いだ。

時には足を出し、そこに抗力を集中させる事でダメージを最小限に留め、下半身への攻撃を防ぐ。腹部への攻撃は、膝を立てて防いだ。

攻撃される箇所に抗力を集中させることで、ダメージを防ぎつつ、ダメージを稼ぐ事が出来る。


女は、肘打ちを繰り出したが、結輝は身を翻して顎を蹴り飛ばした。

「ほら、どうした? そんなもんか?」

結輝はニヤつきながら女を煽った。


「この……!」

女は、煽られた事と、手加減をされている事の両方に腹を立て、一心不乱に技を振りまくった。

だがしかし。女の攻撃は、ダメージとして結輝に稼がれてゆく。

女は、どんどん体力を消耗していくのに対し、結輝は余裕綽々だと言わんばかりの表情を浮かべている。

一心不乱に技を振るに連れ、女の隙が大きく出る場面があった。結輝はそれを見逃さなかった。

その瞬間、結輝の右手は神々しく光った。

「悪いな。手加減してやる余裕が無くて」

結輝は、右手を大きく広げ、女の腹部に突きを食らわせた。抵抗することも出来ず、女の体は強く吹き飛び、ビルを突き破った。

「……《反抗(リベリオン)》。それが俺の能力だ。ダメージを受ければ受けるほど、それを蓄積させていき、強い一撃を与えることが出来る。って、もう聞こえてないか」

結輝は、壁にもたれ掛かり、白目を剥いて動かなくなった女の前に立った。

「流石に、能力を使って女は蹴れねぇよ。けど……」

「代わりは貰ってくからな」

結輝は、女の前歯を引き抜いた。

「……後でエメルにくっつけて貰わなきゃな」

そう呟き、結輝は前歯をポケットにしまってその場を後にした。

女の戦術は、ブアカーオをモチーフにしました。ちなみに、女の能力は、紹介するに値しないほど弱いものなので、彼女はそれを使わなかったのです。

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