第七十話「遭遇」
「1つ聞かせてくれ。お前らは何が狙いだ? 壊斗に何するつもりだ?」
「別に? 私は手の届かないものなんて興味無いよ」
女は、シルクのようなボブヘアーをたなびかせ、そう答えた。
「……じゃあ、何故俺の邪魔をする? 足止めのつもりか?」
結輝は、冷静にそう問いただす。
「1つって言ったのに……まぁいいや。足止めなんかじゃないよ。どっちみち、"クザキカイト"は手に入らないだろうから、私はその"おこぼれ"を頂こうかなって」
「へぇ? ……俺がおこぼれだって?」
結輝は、警戒を怠らずに、構えをとった。
「あ、立ち技の構えだね。……ねぇ、そんな武器置いてさ。正々堂々と丸腰で戦おうよ」
「……そんな言葉、信用出来るわけねぇだろ」
結輝は、「馬鹿か?」と言わんばかりに目をかっぴらき、額の血管を浮き上がらせた。
「……まぁいいや。そんな武器、私が落とさせてあげるからッ」
そう叫ぶと、女は結輝の方へ突っ込んで来る。一方結輝は、繰り出されるであろう攻撃に対抗すべく、手に持った骨組みを振り下ろす。
───ローキックか
蹴りの軌道が太ももに向かっていることを目視し、結輝は骨組みをクロスさせ、太ももをガードした。
しかし、女の蹴りは腕に直撃した。太ももと腕には多少の距離が存在し、蹴りがズレたとは考えられなかった。
腕が痺れ、骨組みを地面に落としてしまった。
───蹴りの軌道を変えた!?
「───クソッ」
骨組みを拾おうにも、手に力が入らない。その隙に、女は骨組みを遠くへ投げ捨ててしまった。
「ほら、言った通りになった」
───やるしか、無いのか。素手でッ!!
自分が生身なのに対し、得体の知れない相手、その相手が女。積み重なる不安要素が、結輝の思考を鈍らせた。
女は、そんな事お構い無しに右膝を曲げ、結輝の顎を蹴り抜いた。
結輝の唇は切れ、血が滲み出た。
続けざまに、ガードの下がった結輝の顔にスナップの効いたノーモーションのジャブを叩き込んだ。パンチは口に命中し、結輝の前歯はへし折れ、女の拳に突き刺さった。
結輝の口からは血が流れ出した。口いっぱいに広がる血の味で、一気に現実へと引き戻される。それと同時に、頭が冴えるようになった。
「今、こんな事言うのも何だけど……俺は女を傷つけたくない」
「へぇ。紳士なんだ」
「……でもな、その紳士さを捨てなきゃ、俺は仲間を守れねぇ」
結輝は大きく深呼吸をする。
「本気で相手してやるよ。人殺し共が」
…
トパーズは、壊斗達を探すために、辺り一帯を走り回っていた。すると、新たな男に遭遇した。
「テメェ……トパーズだろ?」
「……次々と。オレはスターか何かか?」
「あぁ、有名だぜ? 工崎の次に懸賞金が高ぇからな」
「懸賞金?」
「そうだ。テメェらの首には、懸賞金が掛かってんだ。工崎以外にも厄介な奴らが居るからって、つい最近な」
男はそう息巻き、懐からペットボトルを取り出した。
「今まで飲むのを躊躇ってきたッ! 能力者から採取した特製唾液ジュースをッ!! 遂に飲まなければならない日が来たッ!!!」
「……何言ってんだお前」
トパーズは、柄にもなくマジ引きをした。
「後回し後回しにしてきたツケが今、回ってきたって訳だッ! ……俺はやるぞ……やるぞーッ!」
「何言ってんのかわかんねぇよ。気持ち悪ぃな」
「……俺がどんな思いでこれを集め回ったか……お前に分かるかッ!?」
遡ること、1年とちょっと前。
男は朝目覚めると、能力が開花していた。何の前触れも無く、さと当たり前かのように。
目覚めた時には、自身の能力の概要が、インプットされていた。『能力者の唾を取り込む事で、その者の能力を使えるようになる』という、クソのような能力が。
それからと言うもの、男はひたすら唾集めに励んだ。
『お前、能力者だろ?』
『……何で、それを』
『前に物を浮かしてるとこを見たんだよ。そんな事いいから、何も聞かずにこのボトルに唾を入れてくれ!』
『え……アンタ、何言ってんの』
『いいから早くしろ!』
『……あっち向いててよ』
男は言われた通り、向こう向いた。
『はい。これでいい?』
金髪の女は、本当は水だけど。と呟いた。
『おえ……あ、ありがとう……ゔぇッ!!』
自分から要求しておいて、失礼な男の態度に、女はカチンと来た。
『……貸して』
『え? もう入れたんじゃ……』
『良いからッ!』
女は強引に奪い取ると、キャップを開けて唾を垂らした。
『……これで満足!?』
『カーッペッ! これで良いのか!?』
『あぁ、ありがとな』
そこからは、数打てば当たると考え、手当たり次第に唾を集めまくった。
そして、時は現在に。
男は目一杯に息を吸い込み、息を止めて、嗚咽しながらペットボトルを口に運び、吐きそうになりながらも一気に飲み干した。
「よ……よ゙じ……飲み゙干し……ふべぇ!?」
男は、体中の血管から血を吹き出し、地面に倒れた。あまりの酷使に体が耐えきれなかったようだ。
「……何だったんだアイツ。少しでも警戒したのが馬鹿らしい」
トパーズは、背を向けて歩き出した。
「……貴方が、トパーズ」
「あぁ?」
どこからか聞こえて来る声に、トパーズが反応した時、ポケットからメールの受信音がした。トパーズは、その声の元の女が遠くにいる事を確認し、携帯を開くと、リアムからだった。
『その女から逃げろ!』
それだけが記されていた。すると、女の足に噛み付こうとしている青い犬が見えた。
ルーシィは、凄まじい速さで女に噛み付こうとした。しかし、女はゆっくりと高貴な赤い鞘かは抜刀し、刃を顕にした。女は、流れるように刀を一振すると、後ろのビルごとルーシィを真っ二つにした。ルーシィの体は、その後すぐに結晶となって散った。
「まずいッ! 落ちるッ!?」
ビルが斜めに切り捨てられたことにより、必然とリアムも落下した。
「悪い……ロッキーッ!!!」
ロッキーは、現れたと同時に、リアムの着地の手助けをし、潰れて散った。
「くそ……命は助かったが、暫く二匹とも出せないし、足もダメになっちまった……」
ロッキーのおかげで、ダメージは多少緩和出来たが、リアムの足は潰れてしまって動けない状態になっていた。
女は、振り返ってその光景を見ることことなく、ただ一点、トパーズを見つめながら歩み寄ってくる。
「何……だ、お前……」
「さぁ、始めましょうか」
【上位四讃會 剣術部隊No.1 刀使い 『久藤綾乃』】




