第七十話「口論」
「カイトッ!!」
目を覚ましたトパーズが、エメルの説得を無視し半ば強引にエメルを連れて屋上へ駆け付けると、地面にうつ伏せの状態で倒れている壊斗を見つけた。遠くから微かに聞こえてくる悲鳴と、周辺に錯乱する数台の車が目に入り、ここで何が起こったのか、軽く想像がついた。
エメルはすぐに壊斗の元へ駆け寄り、壊斗を回復させた。暫くすると、壊斗はゆっくり目を開き、のそのそと体を起こした。
「……トパーズ」
壊斗は目を覚ますと、トパーズに近づき、存在を確認するかのように抱きしめた。
「お、おい。何だよ」
今までの壊斗らしからぬ行動に、トパーズは、少し照れながら壊斗の肩を押して体から離した。
「円香達は……?」
少し冷静さを取り戻した壊斗は、二人にそう尋ねた。
「知らねぇな。気づいたら居なくなってたぜ」
「私、心当たりあるかも……」
恐る恐るな感じでエメルがそう言い出した。それは、心当たりであると共に、エメルはその心当たりが外れていることを祈っていた。
三人は、エメルの心当たりである場所に向かった。
「ここだよ……」
エメルは、駐車場の男子トイレを指差した。
壊斗たちは、一つづつ個室を開けていった。そして、一番嫌な予感のする掃除用具入れを最後に開けると、三人は言葉を失った。それは、悪い方のエメルの予想が当たってしまったのだ。
先に体が動いたのはエメルだった。エメルは泣きながら皆の回復を試みた。トパーズは皆の体を揺すって反応を確かめた。そんな二人とは別に、壊斗は俯いていた。目には覇気が無く、虚ろで、虚無感に溢れていた。
「ん……頭、痛ぇ」
一番初めに目を覚ましたのは乱子だった。
「ランコちゃんッ!」
エメルの表情が一瞬緩んで明るくなったが、すぐに真剣な顔つきに変わった。回復の手を休めてはいけない。エメルは、自分の役割である"回復"を全うした。全員が目を覚ますまで。
それから、徐々に他の皆も目を覚ましていった。が、結輝だけは中々目を覚まさなかった。
「ユウキッ! 起きろッ!!」
トパーズは、結輝を強めに揺する。
「……眩しい」
皆に見守られながら、結輝は静かに目を覚ました。
「結輝……」
壊斗は腰が抜けたようにヘナヘナと地面に尻をつけた。
暫くの間、男子トイレの中で歓喜の声が鳴り響いた。
…
その後、エメルは破壊された車を治し、皆は車に乗り込んだ。集中しっぱなしで疲れたのか、エメルは車に乗るとすぐ眠りに入った。
車が発車すると、暫く沈黙が続いた。
そんな中、壊斗は「大事な話がある」と言い出し、近くのレストランで話すことにした。エメルも眠気まなこで着いて行った。
…
「……円香は東雲家に連れて帰る」
開口一番に、壊斗は皆にそう告げた。
皆は一瞬、壊斗の言葉が理解出来ず、固まってしまった。壊斗は気にせず話を続けた。
「"守る"だなんてデカい口叩いた挙句、あのザマだ。笑っちまうよな。結局俺は皆を守れなかった」
「おい、待てよ」
トパーズは、壊斗の胸ぐらを掴んだ。
「テメェ、何回言わせんだ! 皆覚悟してるっつってるだろッ!!」
「こんなくだらねぇ事で、子供に命捨てさす気かッ!!!」
トパーズと壊斗は、周りの客の事はお構い無しに言い合った。
滅多に聞かない壊斗の怒鳴り声に、トパーズは萎縮した。
「もう少し見つけるのが遅かったら、皆死んでたかもしれねぇんだ。もしエメルが教えてくれなければ、確実に発見が遅れてた」
「だけどよ───」
「一人だった」
壊斗は、トパーズの発言に自分の言葉を被せて黙らせた。
「たった一人相手に、俺とエメル以外全員やられたんだ。たった一人から、皆を守れなかった。能力者(俺ら)は、非能力者(円香たち)を守れるほど強くないんだ」
「一度や二度じゃない。皆を危険に晒したのは。もう嫌なんだよ」
壊斗の言葉に納得のいかないトパーズは、何か反論の言葉を考えていた。
「トパーズ。悪いが、今回は俺も壊斗に同感だ。とっくに成人してる俺や乱子はともかく、円香たちはまだ子供だ。子供が簡単に賭けられるほど、命は軽くない」
「───私はダメで、昌幸は良いの……?」
円香は、泣きそうになるのを堪えながら、言葉を発した。
「昌幸には帰る家がない」
その言葉で、全てを察してしまった円香は、その場から逃げ出した。
「円香……!」
「待てよ円香ッ!!」
「行くな。二人共」
壊斗は追いかけようと立ち上がる昌幸と乱子を止めた。
「円香にとっちゃ、俺たちと居るよりも一人で居る方が安全だ」
「止めんな……アタシは一人でも行く……!!」
振り返った乱子の瞳には、涙が溜まっていた。乱子は、壊斗の制止を振り切って円香を追いかけた。
「おい乱子ッ!!」
「追いかけよう!! 俺も行く……!!」
悟は、結輝にそう持ち出した。
「乱子と円香を連れ戻すッ 見つけたら連絡するッ!! あと───」
結輝は呼吸を整えた。
「最後に一言言わせろ。壊斗、何か別の言い方があったんじゃないのか?」
そう吐き捨てると、結輝と悟は乱子の後を追うように駆け出した。




