第六十五話「ガソリンスタンド」
壊斗たちは、辺りがすっかり暗くなっていた為、近くのホテルで一泊した。都心からだいぶ離れて居た事もあり、部屋の空きも多く、すんなり泊まることが出来た。
翌朝、車を発進させた壊斗たちだったが、ガソリンが底を尽きそうであった為、ガソリンスタンドに寄ることにした。
給油口の近くに車を停車させた。
「ん……疲れたァ……」
車のおかげで足腰が疲れない分、座りっぱなしで凝った体をほぐすため、各自で背伸びやストレッチをした。
「じゃ、ガソリン入れてくる」
そう言うと結輝は車を降りた。
「お願い〜」
…
「なんか地面濡れてんな」
足を動かす度にピチャピチャという音が鳴り響き、結輝は地面に目をやった。すると、そこには微かながら水のようなものが溜まっていた。
「まさかガソリンじゃないだろうな……いや、そんな訳ないか」
結輝は、勘ぐり過ぎたか。と苦笑した。
「勘がいいね」
空耳か。そう思ったが、結輝は一応辺りを見渡す。すると、計量機を一つ跨いだ先に、グレーの中折れ帽を被った男がこちらに向かって話しかけていた。
「……何ですか」
「"勘がいいね"って言ったの。聞こえなかった?」
男は、煽るような口調で返事をした。
「アンタ……この水溜まりが、ガソリンだって言いたいのか?」
「ま、そゆこと」
軽口を叩いた男の手の中に、オイルライターを隠し持っているのが結輝の目に映った。
「───お前らッ! 誰でもいいからアクセルを踏め!! ここから逃げろッ!!!」
結輝は、車の窓を叩いてそう叫んだ。
「あぁ、無駄無駄。もうその車のタイヤにはビッチャリとガソリンが付着してるから。いつでも点火できる」
「……」
結輝は目を瞑り、歯を食いしばった。
「大人しく全員降りてきな」
…
男は、車に乗っていた全員に下りるよう命じた。
「……テメェ、またアイツらの仲間か?」
「アイツらって、誰の事を指しているのか知らないけど、多分君の思ってる通りだよ。まぁ俺は金で雇われただけだけどね」
トパーズの言葉に、男はオイルライターをこれ見よがしに見せつけながら余裕そうに答えた。
───このガソスタは計量機が二つしかない。予めその内の一つを埋めて、強制的にここに停車させたのか……嵌められたな
壊斗は焦りつつも冷静に状況を把握していた。それと同時に、また皆を巻き込んでしまったという罪悪感も生まれていた。
「君の読み通り、予め地面にガソリンを撒いておいた。このライターで簡単に引火させられるようにね」
「……また俺か?」
「え?」
「また俺が狙いなのか」
俯きながらそう尋ねる壊斗に、男はため息をついた。
「そうだよ、当たり前でしょ。……君たち。早くソイツをこっちに寄越してよ。そしたら、君たちの命だけは保証したげるから」
「寄越せだ? カイトをモノ扱いしてんしゃねぇよ」
トパーズは、今すぐにでも殴り掛かりそうな勢いで言葉を発した。
「あ〜はいはい。ごめんね? 言い直すよ。さっさと彼をこっちに来させてくれる?」
男は小さく「面倒くさ」と呟いた。
「バーカ。そう易々と渡すかよ」
結輝は表情を変えずにそう口にした。
「それは、"断られた"って解釈で良い?」
「あぁ。それでいいぜ」
トパーズは小馬鹿にするように舌を出して中指を立てた。
「はぁ……一応さ、チャンスをあげたつもりなんだけどな。伝わらなかったかな」
男は再びため息をつきながら首を搔いた。
「まぁいいや。そんなに死にたいなら死になよ」
男はそう呟くと、ライターを放るように軽く下投げした。
「───逃げるぞッ!!!」
壊斗たちは急いでその場から離れるべく、一心不乱に駆け出した。だが、その中で一人、その場から微動だにしなかった者がいた。
悟はポケットから携帯電話を取りだし、男を目掛けて投げつけた。
「おいサトル!! 何してんだ!? 早く逃げるぞッ!」
トパーズは悟の手を引いて走り出した。
「は? 馬鹿でしょ……そんなので弾こうとしてんの!?」
男は高らかに笑った。勝ちを確信しているようだ。
悟の決死の行動も虚しく、携帯は一歩手前でライターから少しズレた方へ落ちていった。
「バイバイ」
男が別れの言葉を口にした次の瞬間、悟の体は石の方へ、トパーズに握られていた手が振り解ける程のスピードで引き寄せられた。
「何ッ!?」
悟は、地面に落ちる寸前のライターをギリギリで掴む事に成功し、そのまま身体が地面に叩きつけられた。
「何が起こったんだ!?」
状況が掴めず動転する男を無視し、悟は身体を起こして、ライターを反対側に思い切り投げ捨てた。
「ねぇ。執拗いよ君たち。いい加減にしてくれないかな」
悟は男を蹴りつけ、給油ノズルを男の口に突っ込み、レバーを引いた。
「や……やめッ」
男はその場で暴れだし、ノズルを地面に落としてしまった。
「あ、そうだ」
悟は再びノズルを拾い、男にガソリンをぶっかけた。
「これでもしライターを隠し持ってても、点火出来ないよね?」
男は腰を抜かしたのか、必死に立とうと試みていた。
「ねぇ皆! こいつに情報を聞き出そうよ! 例えば、雇い主の───」
悟がそう言って振り返ると、皆はポカーンと口を開けて悟を見ていた。
───悟のこと、絶対怒らさんどこ……
壊斗は、心の中でそう決意した。
…
「驚いたぜ。サトルがあんなキレてんの見た事ねぇぞ」
トパーズはホースで男を計量機に縛り付けながら、話しかけた。
「いや、正直こいつらに凄くムカついてたんだ。それに……臆病な自分自身にも」
悟は、どこか悲しそうにそう答えた。
「にしても、よくキャッチ出来たなッ!」
嬉しそうに結輝が悟の背中を叩いた。
「……あれはたまたまだよ。体当たりしてライターを弾ければ良い位に思ってたからね」
「それより、何だよさっきの!? 初めて見たぞッ!!」
「そうですね……! 凄くかっこよかった!!」
「いや、自分でもよく分かんないけど……何故か、ふと思ったんだ。俺がやらなきゃって。そうしたら勝手に体が動いたんだ」
悟は照れくさそうに笑った。
「皆。お喋りは後にして、先にこいつに話を聞かないとな」
「……そうだな。じゃあまず、俺を執拗に付け回す理由を聞こうか」
壊斗の質問に、男はそっぽを向き、答えようとする様子は無かった。
「この野郎……ケツの穴にガソリンぶち込んで、火ィつけてやる…ッ!」
トパーズは煮えたぎる怒りを拳に秘め、悪い笑みを浮かべた。
「辞めとけって。俺たちにまで引火しちまう」
「じゃあどう口を割らせるよ?」
「……もういいよ。行こ? これ以上何かしたら、このお店に迷惑掛かっちゃう」
これ以上トパーズが暴走しないよう、円香が止めた。
「こいつのせいで十分迷惑かかってっけどな」
トパーズは不満げに皮肉を吐いた。
「まぁ……そうだな。円香の言う通りだ。取り敢えず給油したら洗車……しようか」
「……ちょっと待って、このままじゃダメだよ」
「どういう事だ?」
先に行こうとする皆を止めた悟に、結輝は疑問をぶつけた。
悟はおもむろにポケットからメモ用紙とペンを取り出した。
「……何に使うんだ?」
「状況説明」
悟は、『私がやりました』と書いた紙を能力で男に貼り付けた。
「行こう」
そう言い残すと、壊斗たちは車にガソリンを給油し、洗車で車に付着したガソリンを洗い流し、男を放置して出発した。
やっと書きたかった所までもっていけそう




