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成り行きで異世界転生 〜チート能力、期限付き〜  作者: 乙坂創一
第一章『ありふれた異世界』

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第六話「齟齬」

あれから一ヶ月という月日が流れた。メリュドルスに家を建てることをお婆さんに話したら。


『なら家が建つまでここに住みなさい』と言ってくれた。


俺たちはあの後、朝早くに家を出てメリュドルスに偵察に向かった。内見という方が正しいか。近くの森は蝿が出るらしいが、蝿なんて何処にでも居るだろう。虫が家に入って来るのは嫌だが安全には代えられない。それに草原が広がる素晴らしい土地だった。ここに住もうと決めた。


この世界には"建築屋"というものがあり、そこに頼むと家を建ててくれるシステムだった。複雑な手続きも無く、お金を払えば直ぐに準備に取り掛かってくれた。黒玉を五個かけて大豪邸を建てた。敷地は有り余っているからな。


一階を俺、二階をエメルが使う事にした。風呂やリビングまで別々だ。


建築屋はとても優秀で、一ヶ月で家が建ってしまった。


お婆さんは『ずっとここにいていいのに』と言ってくれたが、お婆さんに迷惑をかけたくはない為、丁重に断った。


俺たちは新しい家での生活をスタートさせた。


「よし 家具も一通り揃った事だし休憩にするか」


「お腹空いたよカイト〜ご飯作って〜」


「八百屋でちょっくら買ってくるわ 留守番頼んだぞ」


「は〜い」


幸いなことに食べ物はお婆さん達が暮らしている村で作っているものを買うことが出来た。食べ物を買う度にあの国に戻ると見つかる可能性があるし、助かった。


「ただいま 飯買ってきたぞ 昼食にしよう 今日はカレーだ」


「やった〜!人参は私が切る!」


「おう 任せた」


『いただきます!』


このような日常が続いたのは初めの一週間程度だった。エメルとは少しずつ交流が無くなり、会話が減っていった。


それからは外に出ず家に籠る生活が続いた。理由は、この危険な力を迂闊に外で振りまく訳にはいかないからだ。家で静かに過ごしていれば、力を暴発させることもない。元はと言えば、家を建てたのだって半永久的にここに住むと決めたからだ。窮屈な生活になるだろうが、捕まって死刑になるよりはマシだ。


唯一会話をするのは飯時。それでさえ何かを取って欲しい時に話しかける程度。飯は当番制にし、一日交代で作る人を変えていくといった形にした。


同居を始めて分かったことがあった。それはプライベートな空間を求めるようになっていったということだ。家族以外の他人と同居なんて生まれて初めてのことだった。泊まりは何度か経験している。泊まりも数日程度なら楽しい。実際、数日の間は新鮮で楽しかった。だがそれが日常生活になっていくと話は別だ。自分だけの空間を欲するようになり、自室に籠るようになってしまった。


この世界に転移させられて… いや待て、中身だけ入れ替わったとか…? それとも俺が忘れているだけでこの世界で生まれてから長い年月が経ったとか? 記憶喪失ってやつ? …もう面倒だ。ひとまず全て引っ括めて転生したということにしよう。


この世界に転生して一週間も経たずして壊斗のメンタルはボロボロだった。当の本人は気づいてはいないだろうが。




これは壊斗がお婆さんの家に滞在して三日目のこと。


「カイトどうしたの?寝ないの?」


「あぁ 夜風に当たりに行く 先に寝ててくれ」


「私も行く…」


「いや 一人になりたいんだ ごめんな」


「…分かった おやすみ…」


「おやすみ」


家から出て、玄関先に出て、ドアに寄りかかり、力が抜けたように腰を下ろす。


「…っく…母さん…父さん…っ…みんな……うっ………結花(ゆいか)…」


片手で顔を支え、声を押し殺し、一人静かに泣いた。大好きで大切な人達に、もう二度と会えないという現実に押しつぶされ、自然に涙が零れる。




新居に引っ越してから二週間の月日が流れた。その日の昼食の時間に。


「…ねぇカイト 最近どうしたの?元気ないけど…」


「いつも通りだろ」


「何かあったなら話してよ カイトにはしてもらってばっかりだし…」


「話した所で理解して貰えないから ほら 飯が冷めるぞ 早く食べな」


「…寂しいよ…もっと私とお話してよ…何でもいいから…」


エメルの泣きそうな顔で俯く。


「…俺は本来、この世界に居るべき人間じゃないんだ 本当はこの世界とは別の世界の住人だ 俺さ ある日、突然電車に轢かれて死んだんだ 信じられない痛さだった 確実に死んだはずなのに気づいたら白い部屋に居た そこに三日間閉じ込められた 何も無いんだ ただただ退屈で仕方なかった… 苦しくて、悲しくて、訳わかんねぇ感情だ そこで自称神が現れてさ そこから出るためには"異世界に転生しろ"だってよ それ以外にその部屋から出る方法は無いんだってさ だから俺は仕方なく転生する事にした で、この世界に来たって訳だ 俺はただ普通に生活してただけなのに… 家族や友達にも二度と会えないんだぞ! もう嫌だよ…寂しいよ!会いたいよ! こんな訳分かんねぇ能力のせいで訳分かんねぇ連中に命狙われて… 俺が何したって言うんだよ…こんな目に合う程の事をしたかよ! …いや 心当たりはある 中2の時のあれのせいだろうな 天罰が下ったんだろ」


エメルはうん、うんと頷きながら静かに話を聞いてくれる。


「しかもさぁ この世界で死ぬともう二度と生き返られないみてぇなんだよ ずっと暗い空間に居させられるらしいんだ 何も出来ねぇみたいだ 喋ることも聞く事も動くことも見ることも…だからここに家を建てた 死ぬ訳にはいかないからな くそがよ…この力がもっと扱いやすけりゃとっくに王国をぶち壊して死ぬ危険性の無い世界にしてるわ…」


「…何子供相手に熱くなってんだか…だせぇな俺…悪いな八つ当たりして…お前には関係ないことなのに」


「ごめん 私にはカイトの気持ちや辛さはよく分からない…」


「やっぱそうだろ? 早く食っちまえよ すっかり冷めちまったけどな」


「でもカイトが苦しんでるのは分かる…! 辛い経験をしたことも… 私にはカイトの苦しみを全て理解することは出来ないけど… カイトの力になりたい 支えたい あの時カイトが私を助けてくれたみたいに」


「良いんだ もう良い 踏ん切りがついた 悪かったな もっと一緒にいる時間を増やす もっと会話を増やすよ 飯時以外にも 機会を作る 何気ない会話でも」


今までの家族や友達と決別し、前を向く決意をした。


…この日以降、平和な日常が訪れる事は無かった。

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