第六十二話「昼食」
壊斗は、野次馬達の円を割り裂いて、仲間たちが逃げていった方角にトボトボと歩いて行った。
「───あ、カイト…! こっち…!」
暫く歩き続けていると、長年使われていなさそうな外見の小ビルの中から、うっすらと誰かが手招きしているのが見えた。
「…早く!」
薄暗い中から、急かす声が聞こえてくる。
壊斗は無言のまま、建物の中に入った後、仲間の声が耳に入っていないかの様にふらりと脱力して座り込んだ。
「お、おい。大丈夫かよ……エメラルド、早く回復───」
「なぁ皆…やっぱ俺、ダメかも知んねぇ」
そう言った壊斗の目には、涙が浮かんでいた。
…
ビルの中、階段を少し上がった先にある踊り場で、仲間たちは壊斗の話を聞いてあげていた。
「昌幸が危険な状態になってる時、俺はトパーズや結輝と違って、他の事が頭に過って、何もする事が出来なかった」
「他の事って…?」
エメルは壊斗の背中を優しくさすって、話を聞き返してあげた。
「アイツを攻撃したら、昌幸も巻き込んじまうんじゃないかって事や、…周りの被害の事を」
壊斗は深くため息を吐いて続けた。
「それに、昌幸の為とは言え、無関係の人を死なせた…」
「…泣き言ばっかだなァ。カイトは」
壊斗の煮え切らない態度に、呆れたようにトパーズが口火を切った。
「いい加減、割り切れよ。生半可な気持ちじゃ、この先生きていけねぇぞ」
「そんな言い方…!」
「…シっ」
トパーズの言葉に反論するかの如く声を上げた円香に、結輝がそっと口添えした。
「でも…」
トパーズは、円香を横目に確認した後、話を続けた。
「なぁカイト。オレ達能力者は当然、能力なんて使えねぇコイツらも、死を覚悟してお前についてきてんだ」
「…ん? アタシは死にたくねぇぞ?」
「テメェだけはついてきた動悸が不純じゃねぇか」
その言葉に怒る乱子を結輝が宥めた。結輝は、トパーズに目配せを送って乱子をビル外に連れ出した。
「お前がそんなんじゃ、オレたちだってどうしたら良いか分かんなくなるぜ」
トパーズは「なぁ?」と周囲を煽った。
「…こんな世界に、簡単に慣れるなんて無理だよ。元いた世界に似てるからこそ。俺だって努力はしてるんだ……だけど、いつまで経っても慣れやしない」
「何だ…? 一丁前に"努力"してますってか? それってよォ…努力が足りねぇんじゃねぇのか」
「トパーズ、そんな言い方…良くないよ」
「うん、エメルの言うとおり。流石に言い過ぎ。そんなキツい言い方しなくても良いでしょ?」
壊斗は、こんな子供たちに庇われ、更に自分が惨めで情けなく感じた。
「一番強ぇ奴が、一番のビビりじゃあ話になんねぇな」
いつもなら、何かしらの言葉を発言する昌幸は、何の言葉も発っしなかった。
「…トパーズ」
戻ってきた結輝が、クイクイと指で招いた。
「今は一人にしてやろう」
結輝はトパーズの肩に手を当て、耳元でそう囁いた。
「何でェ?」
トパーズは不満げにそう返した。
「壊斗にも一人で考える時間が必要だろう。…人間だしな」
結輝はそっと壊斗に声をかけた。
「…壊斗。俺たち、そこのハンバーガーショップに居るから、気持ちの整理がついたら来てくれよ」
「分かった。…ありがとう」
壊斗はか細い声で礼を言う。
「トパーズなんかの言葉、鵜呑みにしないで良いよ」
「無理はしないでね…?」
円香、エメルの順で声を掛けていき、最後はトパーズの番だった。
「…何回も言うが、怖がってんのは"お前だけ"だぜ? 皆覚悟してっし割り切ってんだ。それだけ頭に入れとけ」
そう吐き捨て、トパーズたちはハンバーガーショップに入って行った。
…
数十分後、自分の気持ちに整理がついた壊斗は、トパーズたちの居る小洒落たハンバーガーショップの入口に立った。
「あ、壊斗だ!」
円香はいち早く入口に佇む壊斗を見かけると、指差した。皆もそれを確認して微笑んだ。
「…おう。来たか」
いざ入店してみると、入口で腕組みしていたトパーズに声を掛けられた。
「あぁ。もう大丈夫だ」
トパーズは気まずそうにモジモジした。
「…フレンチフライってのでも頼むか? 美味いらしいぞ」
トパーズは、「金は持ってっから」と手の中でジャラジャラして見せた。
「…トパーズの奴、何澄ましてんだ。頼んだもん一口も手ぇ付けないでずっと壊斗のこと待ってた癖に」
壊斗たちの会話を聞こえた結輝は、冷めきったバーガーを見ながら無満げにそう言ったものの、口角は上がっていた。
数分後、トレーを持った壊斗とその横を歩くトパーズが皆の居る席に着いた。
「…お待たせ」
若干小っ恥ずかしいそうに壊斗が皆にそう言った。
「まずは食おうぜ」
結輝は壊斗の背中を優しく叩いた。
「あ、そういえばトパーズの分、悟が勝手に食っちまったぞ。一応止めたんだけどな」
「あ!? テメ……ざけんな!」
「だってあのままじゃ冷めちゃうんだもん。俺にしては我慢した方だよ」
「ちっ…じゃあ、買ってくるわ」
「俺のもよろしく〜」
悟はフレンチフライを口に詰め込んで手を振った。
「テメェは自分で買え!」
文句を言いながらも自分で買いに行った。
「アイツ…変わったよな」
壊斗はそうボソッと呟いた。
「トパーズもトパーズなりにここに適応してんだよな。なのに俺はいつまで経っても…」
「…しんみりと飯食っても美味く感じないぞ。楽しく食べようぜ」
「うん…そうだな」
壊斗は結輝にそう諭され、苦笑いしながらフレンチフライを口に入れた。
「───不味ッ!!!」
壊斗はあまりの不味さに口を手で抑えた。
「ティッシュ…ナフキンはッ!?」
「ほら」
手渡された瞬間奪い取るかのように受け取り、後ろを向いて屈んだ。
「もう二、三枚くれない…?」
壊斗は、涙目になりながら後ろを振り返った。
───最悪だ…やけに太くてゴツいと思ってたんだ
壊斗は、パサパサでスポンジのような味のモノをナフキンで包んでゴミ箱に捨てた。
あまりのリアクションに、地元民らしき人が笑いながら声を掛けてきた。
「Hey bro. What's going on? You look so weird(ヘイ、兄ちゃん。どうしたんだ? そんな変な顔して)」
「Are these fries dry and tasteless…?(このポテト、パサついてて不味くないですか…?)」
小太りの男は高笑いしてこう答えた。
「そりゃそうだ。ここのフレンチフライの不味さは評判でな! 旅行客以外は誰も頼まないのさ! その代わり、ハンバーガーの方は絶品だぞ!?」
そう言われ、壊斗はチーズバーガーを一口齧ってみた。
「…美味」
「だろ? さっきからそこの彼が美味そうに頬張っているのが不思議で仕方なかったんだ」
「ハハッ。こいつ食いしん坊なんで」
「そうかそうか。ま、上手いならそれで良いんだ」
男は笑いながら席を後にした。
「にしてもさっきのポテト、不味かったな…」
「壊斗! いつこの国の言語をマスターしまんだよ!?」
「驚いた。俺なんかよりも全然上手いな」
悟と結輝は尊敬の眼差しで壊斗を見た。
「いや、そんな…」
壊斗は、さっきから昌幸が何も口にしていない事に気づき、気に掛けた。
「昌幸。食欲無いか…?」
「…うん。大丈夫です」
「食欲が湧かなくても、何か食べといた方がいいよ」
壊斗は、心配そうにそう言った。
「安心しろ。さっきサラダはちゃんと食べてたから」
「…そっか。良かった」
そして壊斗はもう一つ、あることに気づく。
「…って言うか、乱子と円香は? さっきから見当たらないけど…」
「あぁ。円香が急に腹が痛いって。乱子はそれの付き添いだな」
「どうしたんだろ…」
「もしかしたら、始まったのかもな。…乱子も最近までしょっちゅう痛がってたし」
結輝は小声で心配そうに呟いた。
「ん、あ……そうかもな」
壊斗は一瞬なんの事か分からなかったが、何となく察した。
『女神の教室』ってドラマ、めちゃくちゃ面白かったんでおすすめ




