第五十三話「和解」
「な、何が起きたんだァ…!?」
男は状況を理解出来ず、ただ腕から絶え間なく流れる血液を止めようと、必死に傷口を押さえ付けた。
「安心しろよ。テメェがさっさと情報を吐きゃ、すぐにでも治してやる」
刻々と過ぎる時間と共に、体内の血液が流れ出し、後に出血多量を引き起こす。故に生きるためには情報を言わざるを得ない。そう考え、トパーズは男の左腕を切り落としたのだ。
「…能力者って訳かッ」
「…能力の事も知ってんのか」
トパーズは、この男に更に不信感を覚えた。他の仲間も同じく。
「さぁ吐け」
男はトパーズの言葉に黙りを決め込んだ。
「いや…もういいよトパーズ」
10秒程、沈黙が続いた後、壊斗がそう言い出すと、エメルに男の腕を直してもらうように頼んだ。
「…あ? それじゃコイツの思う壷じゃねぇかッ!」
「さっきのでもう十分だろ。あんな脅しをしても、きっとこの人は情報を吐かない。それよりも先に出血多量で死んでしまうかも知れない」
エメルは男の左腕をくっつけ、体外に出てしまった血を補充した。
男は、くっついた腕を確かめるかのようにぐるぐると回してみた。
「…礼は言わないぞ」
「はい。すみませんでした」
「治癒系の能力…嬢ちゃんの能力だったのか」
男はエメルに目線を向け、じっと見つめながらそう呟く。
「う、うん…」
「お前ら三人だけ情報が無かったんだ。その他は悪い奴じゃないって知ってたけどな」
『え…?』
唐突にそんな事を言い出す男に、皆困惑した。
「だが、目を見たら分かったよ。お前らが仲間思いの良い奴らだってな」
壊斗たちは黙って男の話を聞いた。
「怖がらせちまった贖罪っつうか、まぁ…職業と名前、後お前らに話しかけた理由ぐらいなら話してやるよ。先に言っとくが、他言厳禁だ」
男はそう言うと、深くため息を吐き、話を続けた。
「俺の名前は…本名は、芹沢貴博だ。信頼のおける仕事仲間にさえ本名を名乗ったことは無い」
「芹沢…さん…」
「職業は、情報屋をやってる。仕事柄、素性がバレたらまずい。あんま詳しくは言えないが、答えられる範疇の質問には答える」
「じゃあ、いいっすか」
一番早く、壊斗が軽く手を挙げた。
「俺たちが海の向こうから来たって言ってたじゃないすか。その根拠は何ですか」
「お前ら三人の情報だけが全く入ってこなかったからだ。例え戸籍を持たない者ですら多少の情報は入ってくるもんだ」
「つまり、コイツら以外の、俺たちの情報は既に知っているって事か?」
「あぁそうさ。お前が12歳の頃に家を飛び出したこともな」
あまり触れられたくない事に触れられた結輝は、顔をしかめた。
「おうおう。もう話し合いは済んだか〜?」
今まで姿をくらましていた乱子が戻ってきた。
「おい。お前どこ行ってたんだ」
トパーズは、無断で何処かに行っていた乱子にイラつきながら尋ねる。
「…別に」
「怪しいなァ…一体何してたんだ?」
「…ッただトイレ行ってただけだろ!? いちいち言わせんなッ!」
「糞にしちゃ長ぇから聞いてんだ! どうせ長話に付き合わされるのが嫌だからどっかでサボってたんだろッ!!!」
「ちょっと、静かにして」
壊斗はそう言うと、考え事を再開させた。その数秒後、壊斗は何かを閃いたように顔を上げた。
「情報屋って事は、色んな情報を知ってるってことですよね」
「まぁ、そうだな」
「で、俺たちの情報が無いって事は、当然、海の向こうの情報も無いって事ですよね?」
「数十年前以降の事は…な」
「情報屋の立場として、知りたいですよね。向こうの事」
「う…」
芹沢は壊斗が言おうとしているであろう事がある程度の予測がついてしまい、声を漏らした。
「───なら、俺たちと取引しましょう。向こうでの事を教える代わりに、俺たちに情報を教えて下さい」




