第五十二話「何でも屋…?」
大変長らくお待たせしました。一応本命の大学の入試が終わったので、新しい話を書き上げました。
壊斗ら一行は、既に北端に近しい場所に居たらしく、半日程で北端に辿り着いた。
「ハァ…ハァ…こんな歩くのかよォ。結輝ィ…」
乱子はすっかりバテてしまい、結輝に何度もおんぶをせがんでいたが、その要望が聞き入れられることは無かった。その代わりに、エメルは乱子が泣き言を言う度に能力で疲労を取ってあげていた。
「結局、ここにも無かったか…」
そう言ってため息を吐くトパーズ。心身の疲労も相まって、皆揃って口数が減っていった。
「しっかし、暑ぃな…」
空は濃い青緑と淡いオレンジで分かれ、既に薄暮になっていると言うのに、皆の額からは未だに汗が止めどなくふき出す。
トパーズは《黄盾》から邪魔なアタッシュケースを抜き出し、《黄盾》をうちわに変え、バタバタと自分を扇いだ。
「良いもん持ってんじゃねぇかよォ…貸せよォ」
「…あ? ふざけんじゃねぇぞ。これはオレんだ。テメェに貸すぐれぇなら、オレァ今すぐこれを叩き割るぜ」
そう言ってパンパンと手にうちわを打ち付けたトパーズに、乱子は「あぁん!?」と今にも殴り出しそうな勢いで飛びかかろうとした。
「…私のポジション、取られた」
円香はボソッと呟く。
「乱子、喧嘩は辞めよう。俺が仰いであげるから」
結輝は羽織っていたジャンパーを脱ぎ、バサバサと乱子を仰いであげた。
「ふい〜 涼しい〜」
乱子の顔からは笑顔が漏れだした。
「カイトは暑くねぇのかよ」
「…うん。平気」
壊斗はあの一件以来、外では常にパーカーのフードを深々く被る事にしていた。敵に顔が割れてる可能性のある以上、再び仲間がトラブルに巻き込まれる確率を減らすために。
「じゃあやっぱ"エマルカ"ってのに行くしかねぇのかァ…」
「て言うか、まず先に…どうやって行くんだ? 船? それとも飛行機?」
「ジャーバルを出たことが無いから何とも…」
「エマルカ…前から気になってました」
「俺も行ったことないな…」
「その前にお前ら、パスポートは持ってるのか?」
各々が喋り始めたが、結輝の一言によりピタッと静まり返った。
『パスポート?』
「あぁ、まだ結輝には話してなかったな。俺たちは───」
「やぁ。旅の人。何かお困りかな?」
壊斗が話しを始めた時、建物の隙間から怪しげな男がこちらへ歩み寄ってくる。
「…誰だァ? テメェ」
警戒モードに入っていたトパーズは、咄嗟に《黄盾》を構えた。壊斗と結輝も、エメルたちを後ろへ隠した。
「そんな身構えなくても。怪しい者じゃ無いよ。…ったく、近頃のガキは随分と好戦的だな?」
男は警戒を解く為、ロングパーカーのフードを脱いで顔を晒した。
「顔を晒したところでよォ、怪しい事には変わりはねェんだぜ?」
「じゃあ何だ? 手を上にあげろとでも言うのか? それとも今ここで素っ裸になれとでも?」
男は不服そうに言いのけた。
「…困り事なんてないですよ。じゃ、俺たちはこれで」
「…そんなに先を急いで…何か急用でもあるのかな? 工崎壊斗くん」
「───何で俺の名前を…ッ」
壊斗は、トパーズに続くように構えを取った。
「そりゃ、お前…色んな旅館で自分の名前書きまくってるだろ? 情報ってのはな、簡単に出回っちまうモンなんだ」
結輝は、男の発言の中に引っかかる言葉があり、二人の会話に口を挟んだ。
「待てよおじさん。その口ぶりからして、旅館関係者じゃ無いようだな。…まさか、俺たちをつけてきたのか?」
「いや? わざわざそんな事はしない。俺は通りすがりの何でも屋さ」
【何でも屋『???』】
「何でも屋? それと壊斗の名前を知っている事の何の関係があるんだ」
「おっと、俺とした事が。下手な嘘だったか」
「おい。さっさと本当の事を吐けよ。じゃねぇと話が進まねぇだろ」
痺れを切らしたトパーズが横槍を入れてきた。その反応に、男は不貞腐れたように言葉を吐き捨てた。
「別に。職業柄、情報が入ってきただけだ」
「商業柄ァ? 何の職業か、言えねぇって事か?」
「…今の言葉から察せられない馬鹿に用はない」
男は頻りにトパーズの方を見ないようにして、そう言い放った。
「何だって…?」
「お前が話を止めてるって事に気づけよ」
結輝はキレかけたトパーズをたった一言で意図も容易く黙らせた。
「声を大にして言える職業じゃねぇんだ。俺以外にも迷惑が及ぶ」
「で、話を戻す。結局のところ…アンタは何が目的なんだ」
結輝は男に冷たい目線を送りながらそう尋ねる。
「…あぁ、そうだ。お前らに接近したのは探りを入れる為だ。俺はお前らが"向こう"から来たんじゃないかって踏んでいる」
「向こう? 何の話っすか」
壊斗は口を濁した。
「とぼけるな。東雲円香、七海昌幸、近藤悟、神崎結輝、それと途中から何処かに消えた赤石乱子。お前ら以外の三人は、海の向こうから来たんだろ?」
『───ッ』
壊斗たち三人は、仲間の名前や海の向こうから来たことまで知っているこの男に、恐怖に近い何かを感じた。
「好き勝手に喋らしときゃあ、あることねぇことベラベラと言い出しやがって…」
トパーズの《黄盾》は、既に男の左腕を切り落としていた。
「───ゔッ!?」
男は、あまりの激痛に尻もちをついて倒れた。
「吐け。テメェの職業、名前、オレ達に接触した理由。洗いざらい全部」
トパーズは、男を見下ろしながらまくし立てた。
先々週くらいに、『花束みたいな恋をした』をレンタルして見たんすけど、見た直後、余韻が凄かった。
悲しい別れじゃなかったんで、そこは良かったんすんけど、二回目見たら多分序盤で泣く。火垂るの墓と一緒。




