第四十六話「僅かな合図」
「ま、待って! 俺もその人も襲われたんだ!」
「…何?」
トパーズは振り下ろしかけた拳を止めた。
「じゃあそのナイフは何だってんだ」
トパーズは少年が手に持っていたナイフについて指摘した。
「こ、これは…俺たちを襲ってきたヤツが落として行ったんだ! それを拾っただけで…」
「サトルは? ソイツに襲われたって言いてぇのか?」
「…ッそうなんだ! 俺を襲ってきたヤツからその悟って人が身を呈して守ってくれたんだ!」
桃色の少年は身体を震わせながら、スっと悟を指した。
「あぁ、そうか」
「そ、そうだよ!」
「ンなハッタリが通じると思っちまったのか」
トパーズは笑顔を取り繕っていたが、内心、腸が煮えくり返りそうな思いでいっぱいだった。
「───!?」
少年は、ナイフを首に突き立てられたかのように、ギョッとした顔つきに変わった。トパーズから出ている殺気を感じ取ったからだ。
「テメェの能力。見破るにはちと時間がかかったが、よく考えてみりゃあ案外単純な事だった」
「の、のうりょく? はて、なんの事やら…」
とぼける少年を無視し、話を続けた。
「最初は相手を動けなくする能力だと思ってた。だけど、お前の能力がヒントをくれたよ」
「ひ、ひんと…?」
「"そういえば、瞬き(まばたき)をしてなかった"ってな」
「…」
自分の能力を呆気なく見破られ、少年は酷く自信を無くしていた。
「お前の能力は"動かさなかった時間が長い部分を固める"っつう力だろ? なァ、当たってっか?」
少年は無言のままであったが、体中から冷や汗が吹き出ており、それがもう答えを言っているようなものだった。
「そして、ある程度固まっちまった所を無理に動かすとダメージを受ける」
トパーズは、ポケットから亀裂の入ったまま固まっている瞼を取り出し、少年に見せびらかした。
「お前の能力、原理が分かってりゃあ、目と口と関節にさえ気ィ配っときゃ何とかなる」
「もう全部バレちゃったんだね。…このまま君に襲いかかったら、俺は勝てる?」
「100%無理だろうな」
「あぁ……俺の計画が丸潰れだよ」
「計画ゥ?」
トパーズは大袈裟に首を傾げた。
「ガーネットを殺すことさ。ガーネットを殺せば首領がご褒美をくれんだ。俺は自分の事をちゃんと男として見てくれる心が綺麗な嫁さんを貰うんだぁ。そして組織を辞め、家族皆で幸せに暮らすんの。俺は血なまぐさい争い事は本来嫌いでね。ここに居る皆を固めて首だけ能力を解除し、ガーネットの頭を痛みを感じないぐらい素早く切り落としてあげようと思ってたんだ。それが計画。だけどお前らは俺の邪魔をした。あの子供達が遊び疲れるまでジッと待っていた俺の努力が水の泡だぁ」
自暴自棄になり、ケタケタと笑いながら自分が考えついた計画を話した。
「ガーネットガーネットって…銀髪の奴もよく言ってたな」
「銀髪…ねぇ。いっぱい居るからわかんないや」
「なぁ。聞きてぇことがあんだけどよ。何でお前らはその"ガーネット"を目の敵にしてんだ? アイツはお前らに何かしたのか?」
前々から疑問に思っていたことについて聞いた。
「ガーネットを恨んでる奴なんて極僅かだよ。さっきも言ったけど、みんなガーネットを殺した時に貰える報酬がお目当てさ。僕もそうだった」
「じゃあそのシュリョウって奴が命令を下してんのか。全くよ…ウチのカイトに何の恨みがあんだか」
その一言に、少年の体がピクリと動いた。
「…君は今、敵に情報を渡してしまった事に気づいてるのかな?」
「名前の事だろ。まぁな」
「もし俺がここから逃げ出したら、ヤバいんじゃない?」
少年は意地汚く笑った。
「大丈夫だ。お前はここで確実に殺す。オレァ、あの野郎の仲間は全員ぶち殺すって決めてんだ」
「じゃあ…俺が殺される前に、少し話に付き合ってよ」
「これ以上時間を稼ごうったって、無駄だ。安心しろ。口さえ動けば、お前を殺せる」
「───やっぱしバレてたか…はは。凄いや。勝ち目ないじゃん」
ピンクの少年は、でもさぁ。と言葉を続けた。
「大丈夫? 俺を殺しちゃっても。君の仲間にかかった能力は永遠に解除されない。俺の《僅かな合図》は、死んだ後も発動し続ける。もう皆は二度と動けないんだよ?」
「死んだら能力も一緒に消えることぐらい、知ってる」
少年は、ダメかァ。と苦笑した。トパーズは少し開いている距離感を保ったまま、最期に一言尋ねた。
「最期に名乗れ。お前は誰だ」
「…上位四讃會、脳術部隊ナンバーファイブ。高柳健翔」
…
「《僅かな合図》。か……それってよ、オメェの死に様の事じゃねぇか…」
少年の左目は完全に閉じているのに対し、右目微かに開いている状態で、静かに息を引き取った。




