第四十五話「発覚」
小説にここまで頭を悩ませたのは初めてだ
「───どこからか能力で攻撃されているんだ!!!」
二人は顔を見合わせた。額から垂れ流れてくる冷や汗を拭い、トパーズは口を開いた。
「でも何の為に…!?」
「わからない…けど、何らかの能力に巻き込まれているって事は確実だ…」
「で、肝心な敵の能力って何なんだ! …この状況を見るに、"強制催眠"ってところか…!?」
悟は顔の半分を右手で覆い、人差し指で額をトントンと叩いた。悟の考える時の癖だ。
「眠らすっていうのとは少し違うだろう…結輝くんも壊斗も、突然喋りだし、すぐに固まったように動かなくなったんだ。恐らく、"相手の動きを封じる力"ってところだろうね」
「そ、そうか…ちくしょうッ どうすりゃ良いんだ…!」
トパーズは頭を抱えた。トパーズは地頭は良いが肝心な所が抜けている。この様な状況でも的外れなことを言ってしまう。下手なことを言うまいと口を閉じた。
「…でも、この能力には何らかの発動条件のようなものがあると思うんだ。能力が発現していない俺たちにはその条件ってのを満たしてないって事だ。正確には、俺たちの足以外だけどね」
悟は自身の足首をツンと指さした。
「条件がわからねぇ今、下手に動かねぇ方が良さそうだな…」
「うん…そうだね」
二人は足首に注意しながら、もどかしい時間を過ごした。
数十秒経った後、沈黙を打ち破るかのようにトパーズが口を開く。
「一応、思い当たる節があるにはあるんだけどな…オレの予感は大抵外れっから…自信ねぇぜ」
再び固まりつつある足首を解しながらそう呟いた。
「何? 何でもいいよ。言ってみて」
自己嫌悪に陥っているトパーズに悟は優しく声をかける。
「条件ってのは、目をつぶること。だと思ったんだけどよォ…それとオレらの足だけに能力が発現したこととじゃ全く結びつかねぇ。悪ぃ、忘れてくれ」
「瞬き…が関係あるとも考えにくいね…うん、大丈夫。きっと手がかりにはなるはずだ」
悟はトパーズの心のケアをするように優しく励ました。
「…このままじゃ埒が明かねぇ」
「え?」
唐突に吹っ切れたかのように呟いたトパーズに、悟は反射的に聞き返してしまった。
「オレァ、探すぜ。このクソみてぇな能力を使ってる奴をよォ…」
「…確かに、そうするしか無さそうだ。俺もついて行くよ」
「いやサトル、お前はここに居ろ」
悟の賛同を突っぱねた。
「な、何で…?」
悟は不思議そうに聞き返す。
「もし、オレらまでカイト達みてぇに動けなくなったら、もう終わりだ。共倒れになるのだけは避けてぇ」
「確かにそうだけど…」
「もし、オレになんかあった時は、お前に頼ることになんだ」
「あ…うぅ…」
悟は何か言いたげだったが、トパーズはそれを無視し、言葉を続けた。
「お前は頭がいい。時間さえありゃあ、きっと打開策を思いつくはずだ。…頼めるか?」
本人にその意図が無くとも、トパーズは自然と断れない聞き方をしていた。
「…わかったよ」
悟は沢山の不安があったが、渋々了承した。トパーズの意見に思うところがあっての了承だ。
「トパーズ」
トパーズが立ち去ろうとした時、悟が呼び止めた。
「…何だ」
「絶対に無事で帰ってきてくれ」
悟は潤んだ瞳で拳を前に突き出した。
トパーズは、ああ。と返答し、悟と拳を重ねた。
「うらァァァァァァ!!!」
雄叫びを上げながら、トパーズは広場中を駆け巡った。
まず、広場内に少しだけある遊具付近に居た子供の方へ行った。
「おにいちゃん…さっきからずっとさけんでたけど…けんかでもしちゃったの?」
首を傾げながら、子供はトパーズよりも先にそう声をかけた。
「おいガキ! テメェ、能力者じゃねぇだろうな!?」
トパーズは子供の肩に手を置き、そう叫んだ。
「のうりょく? よくわかんない…」
トパーズのあまりにも無頓着な聞き方に、子供は半泣きになってしまった。
「チッ…そうか、じゃあ次の質問だ。そのブランコに座ってやがるのは、親か…?」
「うん…ぼくのママ…ブランコにすわったままうごかなくなっちゃったの…」
子供は急に目を抑え、鼻水を垂らして泣き出した。
「既に能力にかかっちまったって訳か…おいお前! …テメェのママはオレがきちんと元に戻してやっから、もう泣くな!」
トパーズは子供の頭を乱雑に撫で、その場から走り去った。
悟はトパーズの安否を心配しながら、自分に課された使命をこなくべく、辺りを見渡した。が、悟の周りには動いている者が人っ子一人居らず、焦りと不安であがった息を整える為に必死に頭を働かせていた。
悟はまず、これ以上壊斗たちに被害が及ばないよう、近くにあった草むらの奥に壊斗たちを隠すことにした。そしてその場所から少し距離をとった。敵に自分の居場所を気づかれたくなかったからだ。
近すぎず、遠すぎず。壊斗たちに何か起きても一分程度で駆けつけられるくらいの絶妙な距離を保った。
ここで、ある疑問が悟の脳内に浮かぶ。
───おかしい…ここは広場だぞ? こんなに大勢が寝てるはずが…。
トパーズの推理が正しかったのか。と一瞬思った。
「いや…眠る、もしくは目を瞑ることが発動条件だとしたら、昌幸はどういう理屈になるんだ。昌幸は本を読んでいたんだぞ? 見た感じ、目を開けたままだった。目を開けたまま眠るなんて、おかしな話だ…」
ここで一つ、おかしな事に気づく。昌幸は目を開けっぱなしだった。まるで突然固まってしまったと言うような…。
「固まっ…た? 動けなくなった訳じゃなく…?」
昌幸は横に倒れた時、手を不自然な形のまま変えなかったのを思い出した。
「相手を動かなくするものじゃなく、"固まらせる"能力であると仮定して。条件は何だ…?」
過去の記憶を巡らせている中、一つ、不可解な出来事を思い出した。
「単なる寝言だと思ってた。でももしかして、あれは…」
「クソッ! おい起きろ!」
トパーズは動かなくなっている人間を、一人一人叩き起す事にした。そうすることで、動けなくなったと演技している者が紛れ込んでいたとしても、ぶっ叩くことによって少しでも体が動くと思ったからだ。
「にしっても、コイツら…石で出来てんのか? 人とは思えねぇ位硬ぇぞ?」
トパーズは、筋肉質な者を試しに蹴飛ばしても見ても、全く微動だにしないことに不信感を覚えた。
「───"人を石に変える能力"…って、ンな訳ねぇか」
「"体を動かせ"。つまり、体の動きを止めるって事が、発動条件何じゃないか!? どうやってわかったかはわからないけど、やっぱり結輝くんは俺なんかより…」
センチメンタルになった気分に喝を入れるかの如く、両頬を叩いた。
「これで一番の不安の種が無くなった! トパーズに伝えに行かなくちゃ───」
「き…きみ…」
突然の声に驚き、バッと後ろを振り向いたが、誰も居なかった。
「き、気のせいか…?」
ふと地面に視線を送ってみると、少年が自分の足にしがみついていた。
「う、うわぁ!」
びっくりしてその場で尻もちをついた。
「助けて…腰から下が全く動かないんだ…」
少年は力なき声でそう訴えた。
───何でこいつ、俺の足にしがみついているんだッ! 触られた感覚なんてなかったぞ!?
悟は突然の事で軽いパニックを起こして、足をばたつかせたて抵抗した。
しかし、悟の両足首に少年の手ががっしりとホールドされており、どんなに振り払おうとしてもそれは無意味に終わった。
次に悟は、少年の手を無理やり剥がそうと試みたが、一体化してしまったかの如く少年の手が離れることは無かった。
「お、おい! 君は誰なんだ! さっさと手を離してくれよッ!」
悟の呼び掛けに返答は無かった。
少年は悟の足に縋りついたまま動かなくなった。
「くそったれ。どうすりゃいいんだよ…これじゃあトパーズに伝えに行けないよ…」
その数秒後、悟は気づいた。自分が犯したとある失態について。
つい考え込んでいたせいで、足首の動きを止めてしまっていたのだ。ついに、膝から下までもが動かなくなってしまった。
「うわぁぁぁぁマジかぁぁぁぁぁッ!! 俺の膝が…動かなくなったッ!!!」
悟は膝に手を当て、反対の手でふくらはぎを持って、力ずくで動かした。
「───痛ッ!!」
無理やり動かしたことによって、足に亀裂が入り、血が軽く吹き出した。
唇を噛み締め、痛みに耐えながら必死に膝を動かし、何とか元の可動域まで戻すことが出来た。が、立ち上がろうとすると激痛が走る。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」
息も止まる程の激痛に耐え、生まれたばっかりの小鹿のように、プルプル震えながら立ち上がることに成功した。
「ハァ…ハァ…ハァ……くッ…」
立ち上がることですら相当な労力を使うのに、"立ち続ける"。ということは常人には不可能だった。
「うぅ…ッ」
決死の覚悟で何とか手を伸ばし、近くにあった木に触れることに成功した。
「《接着》」
そう心で唱え、能力を発動させた。
「…ここら辺の奴らは一通りぶっ叩いたけんど、こんちくしょう。何の変化もねぇ」
トパーズは、悟のことが全く見えなくなる所まで来た。それほどまでに、この広場は広いのだ。
トパーズは、能力者を探すのに夢中で、一切瞬き(まばたき)をしていないことに気が付いた。
「あ、何か目が乾くと思ったら、瞬きを忘れてたぜ」
日常の中で無意識に行っている行為、瞬き。その"当たり前"が今、当たり前では無くなろうとしていた。
「目が…瞼が…閉まらねぇ…ッ!?」
瞬きが出来ないのだ。自分でわかる程、目が乾ききっている。
「───涙で前が見えねぇッ!!」
人体は瞬きを辞めると、乾きから目を守ろうとし、涙を出して潤そうとする。トパーズも例外じゃなかった。
「くッッッそぉぉぉぉッ!!!」
トパーズは固まっていた瞼を無理やりひっぺがし、瞼の動きを再開させた。
「うぅ! 痛てぇ! 瞬きが痛てぇぞ!!」
しかし、ひょんな事にトパーズが瞬きをする度に激痛が走った。
「───《黄盾》ッ!!!」
トパーズは黄盾を取り出し、金が入った黒いバックを地面に置いて自分の瞼を切り落とした。
流血が目に入り、視界を封じられてしまった。
「……《皮膚盾》」
盾を皮に変え、皮膚を形成した。黄盾によって作り出された皮膚は、貼り付けた場所に沿った形へと変わり、擬似瞼を作り出すことに成功した。
いくら瞼を作り出せても、まだ視界を奪われたままなので、手探りで水筒を探し当て、それで目ん玉を洗った。
「はぁ…危なかった」
目の前を確認すると、この水筒は平凡な家族のものだったようだ。
目を洗った液体が垂れてきて口の中に入り、血と麦茶が混ざった味がした。
「切り落とした瞼はポッケにしまっとかなきゃな…」
トパーズはベロベロになった瞼をしっかりとポケットにしまった。
悟は今、木をよじ登っていた。手と木をしっかりとくっつけ、確実に、時間をかけて登った。
気のてっぺんまで登り終えた後、悟は息を深々く吸い込み、渾身の一声を出した。
「トパーズゥゥゥッ!!! 戻ってきてくれェェェェッ!!!!」
「───チッ。《僅かな合図》。手の固定を一旦解除しろ」
その声と共に、足にしがみついていた奴が、地面へと落下した。
「ぐ…再度手を固定しろ…仲間を呼ばれたらたまったもんじゃない。俺は逃げさせてもらう」
少年は桃色の髪をかき上げ、悟と目を合わせた。
「お前が…お…ま…えが…」
そう言いかけ、悟は痛みのせいでふらっと意識を失い、地面に落下した。幸いなことに、ケツから地面に着地した為、大事にはいたらなかった。
「…殺れそうだな。ここで殺しとくか」
懐から首をかっ切れそうなナイフを取り出した。
「おい」
怒気に満ちた呼び掛けに、桃色の少年は身震いをした。
「お前…だったのか。こんなクソみてぇなことをしでかしてくれたのは」
そう言うとトパーズは少年目掛けて襲いかかった。
面白いと感じていただけたら、ぜひ感想、ブックマーク登録お願いします! 今回はマジで苦労しました!




