第四十三話「外食」
ジャーバルのファミレスは、少し古めかしさを感じる。ファミレスには似つかわしくない高級感のある造りもそうだが、喫煙席など無く、かといって全席禁煙なのかと言えばそうでもなく、人々は皆どこの席でも自由にタバコをバカスカと吸っている。勿論喫煙ルームなんてありやしない。
壊斗達の中には、子供が3人居る。壊斗は子供の体に悪影響だとは思うものの、3人とも口を揃えて『大丈夫』というので、いつも仕方なく入店する。
壊斗が代表で皆の分も注文した。店員は快く承諾し、しばらくすると、まず初めに飲み物類が運ばれてきた。
「お待たせしましたー こちら烏龍茶と…」
店員は次々とテーブルに飲み物を並べていく。
「───バナナジュースになります! それではごゆっくりどうぞ!」
そう言うと、店員はバックヤード、厨房に戻っていった。
「…ちょっと待て、皆飲み物に口をつけるな」
結輝はそう言うと、バナナジュースに顔を近ずけ、匂いを嗅ぐ。すると顔つきが豹変し、再度店員を呼びつけた。
「どうかなさいましたか?」
そう白々しく答える店員に苛立ち、結輝は思い切りドリンクをぶっかけた。
「…帰るぞ」
衝撃的な光景に、一同唖然としていた。
「おい…いきなり何すんだよ」
店員は顔を拭い、結輝の胸ぐらを掴んだ。
「お前、この店の店員じゃねぇだろ」
結輝はそう言うと思い切り店員を突き飛ばし、軽く仰け反った店員に向かって後ろ蹴りを繰り出した。
「───うげぇッ!?」
蹴りが胸に命中し、店員の体は奥へ吹き飛ばされた。
「退け、クソ野郎」
結輝は地面に蹲る店員の髪の毛を掴み、通り道から退かした。
「お、おい…いきなりどうした…?」
状況が理解できてない壊斗は内心ビビりながら結輝の肩を掴んだ。
「とりあえず店を出るぞ。話はそれからだ」
結輝は皆を店から出し、1番最後まで残った。
「おい、出ないのか?」
「皆は先に店の外で待っていろ。俺は確認したいことがある」
「…店を出たら訳を話してくれるんじゃないのか? 悪いけど、少し様子が変だぞ?」
結輝を疑る壊斗を、昌幸は「待ってください」と静止した。
「"何か"思い当たる節があるんですね…? でも1人じゃ危険ですよ…せめてもう1人ぐらい…」
「いや、大丈夫だ。俺の予想通りならな」
「予想通りって…」
壊斗は呆れたように結輝の方を見た。
「で、ですが…」
「大丈夫。俺だけでいい。何かあれば悲鳴をあげる」
そう言い残し、結輝は1人店の中に戻った。
数分後、結輝は少し青ざめた顔で店を出てきた。
「で、何で店員にジュースをぶっかけたんだ? 虫でも浮いてたのか?」
トパーズは能天気にそう尋ねた。
「今はそんな事気にしている場合じゃないですよ…神崎さん、中に何があったんですか?」
昌幸に尋ねられた結輝は、虚ろな目で口を開いた。
「…予想通りだった…俺の感じた"違和感"は正しかった…」
「お、おい。大丈夫か? さっきから様子が変だぞ…? 一体何があったって───」
「壊斗さん…動揺する気持ちもわかりますが、ひとまず神崎さんの話を聞きましょうよ」
皆が結輝に対して不信感を覚えている中、昌幸だけは冷静だった。
「…死んでたんだよ。厨房に三人」
『!?』
一同、驚きが隠せなかった。結輝の発言もそうだが、いきなりそんなことを口走る結輝自身にもだ。
「だから言ったんだ…俺だけでいいって…」
「ちょと待って、冗談にしてはやりすぎ…ですよ。ね、ねぇ?」
悟は引きつった笑顔を向けた。が、結輝関しては至って真面目だ。
「無理もない。新入りが訳の分からないことをほざき散らしているんだ。疑いたくもなるだろう…でも、俺を疑るってんのなら、誰か1人、現場を確認しに行ってきてくれて構わない。ただし、確認しに行くのは男だ。女子にはキツいものがある」
「じゃ、じゃあ、お、おれ…俺が…」
壊斗は先陣切って自分が見に行くと言い出そうとしたが、口が上手く回らなかった。それもそうだ。もし本当に死体があったとしたら。間近で見る現実な死体だ。死体と触れ合う機会の無い、現世界人ならビビって当然だろう。
「オレが行く。死体にはなれてっからな」
壊斗は自分の情けなさを感じつつも、内心ほっとし、トパーズに頼もしさを感じていた。
確認に行ったトパーズは、一分と経たずして皆のもとへ戻ってきた。
「ユウキの言う通り、確実にぶち殺されてたぜ。恐らくナイフみてぇなもんで腹を一突きされたんだろうな」
トパーズは話を続けた。
「1人目はいきなり刺されたもんだから、心臓以外に刺し傷はなかった。二、三人目は抵抗したんだろうな。手とか腕に切り傷があったぜ。で、こんな事をしでかした犯人ってのは…」
「さっきの店員って訳だ」
結輝はトパーズの名推理を横取りした。トパーズは少し悲しそうに見える。
「奴は死体が転がっている厨房で俺たちに平然と飲み物を提供したって訳だな」
「でも何でそんなことわかったんだ…? 直接確認したってわけでもないのに…」
「だからそれがジュースだろ。お前って意外と馬鹿なんだな」
トパーズは勝ち誇ったような顔で壊斗を嘲笑った。
「…じゃあ、当ててみろよ」
ムッとした壊斗は、そうトパーズに振った。
「だから、ジュースにアイツらの血が入ってたって事だろ?」
「違ぇ」
結輝は即答した。
「違うのかよ!」
「お前って意外と馬鹿なんだな〜」
壊斗はトパーズにオウム返ししてみせた。トパーズの悔しそうな顔を見て、壊斗は勝ったな。と心で思った。
「じゃ、じゃあ何でわかったんだよ!?」
結輝はさっきから一言も喋っていない女性陣に、「聞かない方がいいよ」と優しくアドバイスした。
「あの店には"二つ"不可解な点があった。まず、厨房から音が全く聞こえなかった。話し声はしなくとも、何かを作ってる音くらいは聞こえるだろ? 厨房に近い席だったしな」
結輝は話を続ける。
「で、中で人が死んでいると決定付ける要因となった二つ目だ、厨房からは特有の血なまぐさい匂いがしたんだ。スパイスの匂いとかでカモフラージュしていたが、あれは確かに人の血の匂いだ。それも指を切ったとかじゃねぇ。そんな程度じゃ臭わないほど、強烈で、キツい臭いだった」
「す、すげぇ。コナンかよ…」
壊斗は結輝の事を深く感心していた。
「じゃあジュースは何なんだよ…?」
「ああ、あの飲み物には"毒"が仕込まれてた」
周囲は再び驚きに包まれた。
「恐らく皆の分にも入っていただろう」
「…で、でもよ。それじゃあ説明がつかねぇぜ。死体と毒は関係ねぇだろ?」
「まあまず結輝の話を聞こうぜ。結輝、何でそんなことがわかったんだ?」
「匂いでわかった。毒の匂いでな」
「え、匂いなんてしなかったけど…」
悟は不思議そうにそう答えた。
「前に一度だけ毒を盛られたことがあってな。その時の影響で毒の味と匂いを覚えたんだ」
「さらっとすげぇこと言ってんな」
結輝のトンデモ発言に、壊斗はそう言って笑った。
「…へぇ、すげぇな。匂いでわかんのか。オレは全くわかんなかったぜ」
「何だ。トパーズも匂いを嗅いだのか?」
「いや、実はオレ、気にせずに一口飲んじまったんだ」
「───何だって!? 血清は!? 近くに病院はあるか!?」
トパーズは焦る結輝を引き止めた。
「落ち着けって。安心しろ。オレ達ジュエラード家に毒なんか効かねぇよ。遺伝子だけは良いからな。そこんとこはあのクソ親父に感謝だぜ」
トパーズはそう言うと誇らしげに鼻を擦った。
「でも最後に聞きたいんだけど、良いか?」
「ああ、良いぞ?」
「何でそんな事がわかったんだ?」
「…俺は鼻と耳、両方良いからな」
結輝は顎をクイっと軽く前に突き出して、そう言った。




