第四十話「担いできた」
目が覚めたら河川敷で寝転んでいた。
「目、覚めたか?」
結輝の太ももの上で。
「───うわァッ!!!」
トパーズは驚きのあまり寝起きにも関わらず打ち上げられた魚のように飛び起きた。
「お前...誰だッ!?」
「覚えてないのか...? さっき、お前の事を蹴った奴だよ」
トパーズはこんがらがっていた記憶を紐解き、呼び起こした。
「アイツか!!」
「...悪かった。あの時は悠長に話し合いをしている余裕が無かったんだ。蹴り返したきゃ蹴ってくれて良い。いきなり蹴られたんだ。お前にはその権利がある」
「...」
トパーズは少しの間悩んだ末、すぐに結論を出した。
「いや、辞めとく」
「どうして? 俺はやり返さないぞ?」
「オレだってお前に謝らなきゃいけねぇ立場だぞ。引き止めちまったオレが悪ぃしな」
「いや、俺が悪いんだ。武力行使しか思いつかなかったアホな俺が」
「辞めてくれ。恥ずい」
トパーズ顔を赤らめ、額に手を当てた。
「あ、悪い...」
少しばかり沈黙が続いた。トパーズは流れるように話を始めた。二人で水切りをしながら。
「あん時、色々あってイラついてたんだ。オレって性格悪ぃよな。お前が急いでんの分かっててわざと引き止めたんだしな」
「そうなのか?」
「あぁ。腹いせにな」
「...それで、あん時何があったんだよ」
ズッケンドンな事を聞いたトパーズに、結輝は手が止まり、少し嫌な顔をした。しかし、そんな顔をしながらも過去を話してくれた。
「実は...」
結輝は元凶の女の話を短くまとめ、トパーズに話した。
「何だよそれ...ヤバすぎんだろ...」
「まぁ誰彼構わず落とそうとした俺も悪いんだけどな」
結輝はほっと一息ついて話を続けた。
「とりあえずお前のおかげで無事に逃げきれたよ。ありがとな」
「お、おう...あれ...?」
「ソイツに追いかけられてたんだよな...? どうやって撒いたんだよ...?」
結輝は「あぁ...」と声を漏らした。
「倒れ込んだお前をここまで担いで来たんだ」
「オレを担いだままソイツから逃げきれたのかよ...特別体鍛えてるわけでもねぇだろうに...」
「あのままお前と話し合いを続けるよりは早いさ」
「でもよ、気絶してたオレを見捨てればもっと早く撒けただろ? なのに何で...」
結輝は持っていた石を川に投げ捨て、地面に座り込んだ。
「キチンと謝罪しなきゃって思ったんだ。そういえばまだちゃんとしたのはしてなかったよな。本当にごめん」
結輝はトパーズに頭を下げた。
「いいぜもう。お前、謝ってばっかだな」
トパーズはニシシとほくそ笑んだ。
「そーいえば、何でこんなとこに逃げ込んだんだ? こんなとこ居たらすぐ見つかりそうなのによ」
結輝は一泊置いてからこう述べた。
「...昔から俺が好きな場所だったんだ。もう二度と戻れないだろうからな。最後に一度だけここに来たかった」
「二度と戻れねぇって、どういうこった?」
「っはは。お前も質問ばっかだな」
結輝は爽やかに笑った。
「さっき話した通りだよ。こんな直ぐに見つかっちゃ引っ越した意味が無ぇからな。次はエマルカに移住しようと思ってる」
「エマルカな...何回か聞いたけどイマイチよく知らねぇ」
「ジャーバルなんかより数倍凄ぇとこだ。何もかもがアッチの方が上だしな」
「へぇ。そうか。行くのが楽しみだ」
トパーズはにやけた。
「帰省でもすんのか? 確かにお前、ジャーバル人って顔じゃないもんな」
「違う違う。オレは...」
トパーズは本当の事を言いかけ、直前で踏みとどまった。
「俺は...?」
「いやなんでもねぇ! そう! 帰省すんだよ...しばらく帰ってなかったし...」
結輝は「そうか...」と呟いた。
「じゃあ、一緒に行くか?」
結輝は好意的にそう提案した。
「悪い。オレ、仲間が居るんだ」
トパーズは結輝の提案をやんわりと断った。
「仲間...仲間...か」
感慨深くそう呟いた。
「ムカつく奴も居るんだけどよ、切っても切れねぇっつうか、見捨てらんねぇんだ」
「信頼、し合ってんだな」
結輝は微笑んだ。
「じゃ、そろそろ行くとするかな」
「...待てよ」
トパーズはその場から立ち去ろうとする結輝を引き止めた。
「...何だ?」
「お前も...仲間に入んねぇか?」
「...え」
「オレ、お前のこと気に入った。素手だけでオレに勝つんだから、相当強ぇし」
「いい...のか?」
「当たり前だろ? 変な奴が入ってくるより全然良い。なんなら、オレが皆んなに紹介してやる」
「でも...」
「?」
「エマルカに行くのは、まだ先になるかも知んねぇ。もし急ぎてぇなら、仕方ねぇけど...」
「願ったり叶ったりだ。こっちから宜しく頼むぜ」
結輝はスっとトパーズに手を差し出した。
「...あぁ、ヨロシクな!」
トパーズは結輝の手を強く握った。




