第三十七話「戦いの末」
あれからかれこれもう一時間は歩きっぱなしだ。トパーズは大分回復し、「もう自分で歩ける」と言うと壊斗の背中から飛び降りた。手が空いた壊斗は昌幸に変わってエメルを背負うことになった。疲労が蓄積されていく。今はエメルも眠っているから体力回復の術がない。
「少しここでお話しませんか? 話したい事があるんです」
円香は額の汗を手の甲で拭いながらそう言った。
「円香、君は仮にもお姫様なんだから。ほら、これ使って」
昌幸は「はい」とポケットからハンカチを取り出し、円香に手渡した。
「…お前あんな汚ぇとこに住んでた割に清潔感あるんだな」
「ム……僕だって好き好んであんな所に居た訳じゃ…」
「あんな所に……」
昌幸は未だにあそこで暮らしている"家族"の事を思い出した。ハッと我に返り、失言を取り消した。
壊斗達は人っ子一人居ない更地の広場に円を描くように座った。
「そう言えばトパーズ! お前やっと俺の本当の名前呼んでくれたな!?」
「今更かよ…」
唐突に発言をした壊斗に、トパーズは目を丸くして驚いた。
「いいですか? 早速ですか、工ざ……いや、壊斗さん」
「お、何だ?」
「先程、『力と守りが桁外れに強化された』と仰ってましたよね?」
「あぁ、瓦礫の下敷きになってる人が居ないか確認してた時?」
「はい、『滅多な事じゃない限りかすり傷一つ付かない』と」
「うん、言った」
「では、何故先程首に傷があったのですか?」
『!?』
「傷!? オレの斬撃を食らっても無傷だったカイトが!? そんな訳あるか!」
一番初めに意義を為したのはトパーズだった。経験則に基づき、円香に反論をした。
エメルは「あの、えっと」と小さく手を挙げた。
「私も、カイトの首元に切り傷みたいなのが見えたんだけど……見間違えかと思って よく見てなかった…」
「いえ、私も確かに見ました。あれは確実に傷跡でしたよ。切り口から血こそ流れていませんでしたが、恐らく今日どこかで負った傷に間違いありません。昨日はそんな傷、ありませんでしたし」
「へぇ。お前、随分と良くカイトの事見てんだなァ」
円香はムッとした。昌幸と似ている。
「で、それがなんだって言うんだオメェは」
「分かりませんか? カイトさんは『絶対に傷が付かない』と豪語していたのに、壊斗さんには、傷が付いていたんですよ?」
「分かんねぇから早く言えって!」
「つまり、"壊斗さんの防御力を超える力を持った者に付けられた"のか、それとも"壊斗さんの防御力が落ちてしまったのか"の二つです」
円香は続けて壊斗に質問をした。
「壊斗さん。何か心当たりはありませんか?」
「実は…」
壊斗は叢雲との会話を皆に説明した。一番大事そうな『抗力』についても。
「抗力! さっきのシュウジとか言った奴も同じようなこと言ってたぞ!?」
「…えっと、悟…だっけ。君は何か知らない?」
壊斗は完全に置いてけぼりだった悟を会話に入れ込んだ。
「わ、分からないよ…抗力なんて聞いたことも無いし」
「でもよ、抗力とかいうのも能力って訳じゃさそうじゃねぇか? ムラクモとかいう奴も話してたんだろ?」
「実は俺、さっき話したが抗力について知ってること全てだったんだ。だから名前や刀に込められるって事しか知らないんだ」
「じゃあオレも知ってる事全部話すぜ」
『教えて!』
皆興味津々だった。
「ソイツさ、抗力がうんたらかんたら言っててよ、オレの新技《縄盾》を食らっても大した傷を負ってなかったんだ! おかしいと思わねぇか? 試しに木に向けて打って見た時にはへし折れのにだぞ!?」
「つまり、"抗力"というものは『自分の防御力を上げられる』という事でしょうか」
昌幸は真剣そうな顔つきでそう言った。
「いや、それだけじゃねぇ。サトルは俺を助けてくれた時見たと思うが、アイツ、どデカい穴ぼこを素手で空けやがった。アイツの手で腕もへし折られ顔面も粉砕させられた。滅茶苦茶厄介な能力を持ってたが、その力も抗力ってヤツの力で間違いねぇと思う」
「そうか…他には無いよな」
「あぁ、今のところはそれしか知らねぇ」
「…もしかしたら、俺やトパーズ、エメルが気づいてないだけで本当は使えるんじゃないか? "抗力"」
「それならエメラルドも自分の力だけで危険を回避出来んじゃねぇか!?」
「これは高望みし過ぎかも知れませんが、私達も使えるかも知れませんね。抗力」
「そ、そんな事…」
「使えたらいいねってだけよ」
柄にも無くタラレバを言った円香を疑うように昌幸が否定しようとしたが、円香は核心を捉えた答えを出し、話を終わらした。
「次に抗力持ちに会った時使い方聞こうぜ」
トパーズはワクワクとしている。
「なら、注射針で付いた傷って訳では無かったのですね」
円香は一人で考えていた事を口に出した。
「あ? 何だ急に」
トパーズは"また訳の分からない事を言い出しやがった"と思った。
「何故ただの針が壊斗さんに刺さったのか。分かる人は居ますか?」
いち早く悟が「はい!」と挙手した。
「"偶然傷がついていた場所に針が刺さった"とか…?」
悟は「そ、そんな訳ないよね〜」と頭を掻いた。
「いえ、その通りです。傷がついていた場所と偶然同じ場所に針が刺さったのでしょう。そうとしか考えられません」
「そんな奇跡が起こるってのか!?」
「てかさ! そんなんお前がさっき言ってた"カイトの防御力が落ちた"って事だろ!?」
「いえ、私もさっき気づきましたがそんな事はありえません。私と壊斗さんの出会いをお忘れですか?」
その場に居なかった悟と少し遅れて登場した昌幸以外はその時の情景を頭に浮かべた。
「…確かお前が向けたナイフをカイトが壊したんだったよな?」
一番初めにトパーズが答えた。
「はい、お恥ずかしい限りですが、その通りです。…これでもうお分かりでしょう?」
「ナイフを素手で折り曲げたカイトに針が刺さるわけない! ってことだよね?」
「はい、エメル正解! …あのナイフも先端が鋭く尖っていましたからね。針と大差ないです」
「…ついでに聞きたいのですが、エメルが人を治癒している時ってどんな感じでですか? 感覚とか」
円香の興味がエメルに移った。ポーカーフェイスを気取っているが、内心凄くワクワクしている。
「う〜ん。いつもは『治れ〜治れ〜』って思ってるけど…イメージを沸かせた方が短時間で負担なく治せるよ!」
「初耳だな」
「例えばさっきみたいに腕をくっつけようとする時、イメージを沸かさないで能力を使うと体全体まで治しちゃってかえって時間がかかっちゃうんだけど、腕をくっつけようと頭の中でイメージすると腕だけを短時間で治せるの! より濃いイメージをすればする程ね! あんまり詳しくイメージすると…ちょっと気持ち悪くなっちゃうけど」
「そうだったんですね…大分色々なことを話し合えましたし、そろそろ行きましょうか」
「もう皆クタクタだろうからどっか泊まれそうな宿見つけたらそこにすぐ寄ろっか」
「私が治すよ!」
「気持ちまでは治せねぇだろ」
トパーズはエメルの頭を軽くチョップした。
宿に着き、受付を済ませた。今までは全員何とか一部屋に収まっていたが、それでも人数が多すぎた。今夜は男女別々の部屋に分けて泊まる事になった。
皆が寝静まった後、トパーズは思い悩んでいた。
「盾が壊れちまった場合、俺に体術のセンスはねぇ。ただやられるのを呆然と待つだけだ」
そう独り言を呟くとふいに父の言葉を思い出した。トパーズがまだ七つの時の事だ。
『トパーズ、体術は苦手か?』
ダイヤモンドはアメシストとの模擬戦でボロボロに打ち負かされ、落ち込んでいたトパーズに優しく声をかけた。
『はい……申し訳ありません…』
『謝る必要は無い。幸いな事にお前の能力は体術を必要としない。盾を強化する事だけに徹しろ』
『え…でも…』
『"盾を使用した体術"をやってみたいんだな? 焦らなくても良い。実戦を重ねていくうちに習得出来るだろう』
トパーズはその事を一晩中考えた。
「皆悪ぃ。言いてぇ事がある」
皆が眠い目をこすりながらロビーに集合した際、トパーズがそんなことを言い出した。
『盾を使わない事にしたッ!?』
その場に居た全員が驚いた。トパーズの一言でパッチリと目が覚めた。
「あぁ。…もう盾はここぞという時以外使わねぇ」
「何で!?」
「サトルは見ただろ? オレの無様な姿」
「無様だなんて、そんな…」
「…全部オレが弱ぇからだ。盾に頼りっぱなしでよォ。だから決めた。オレはこれから盾に頼らない戦い方を学ぶ」
「で、でも…」
壊斗はトパーズを不安そうな目で見た。
「…心配すんな。お前らに危険が及びそうな時は迷わず使うさ。ただ、自分に甘くなりたくねぇんだ」
トパーズの決意は固いものだった。簡単には曲がらない程に。
うーん。タイトル変えようか迷うけど良いの無いなぁ。一つ案があったんだけどそれ相当先に登場する言葉だからなぁって…やっぱり長いタイトル嫌いだわ。成り行きって言葉に運命感じたからあんまり変えたくねぇけど。




