第三十五話「救世主」
僕には生まれつき変な力があった。『触れた物同士をくっつける事が出来る』っていう。生まれた瞬間から、母と父の顔を初めて見る前から、その能力の詳細を知っていた。言葉なんてまだ覚えていなかったのに、神様の話す言葉の意味が理解できた。とても奇妙で、気味が悪い話だけれど。
近藤悟は三人の行方が気になっていた。そう、修二達三人の。悟は臆病な癖に、正義感だけは誰よりも強かった。物陰に隠れながら、三人の後を追った。
……道に迷った。複雑な道ではなかったはずなのに。辺りをウロウロしていたせいで三人を見つけるまでに時間がかかってしまった。
悟建物が邪魔で見えていなかった光景を目の当たりにした。
「……何だよ…これ…」
悟はその光景見て衝撃を受けた。
殆どの建物が崩れ去っていたのだ。幸いな事に、人々は事情によって別の町に移り住んでいる為、人に被害は無いけれど、それでも昔からあった建造物等が跡形もなく崩れ去っていると、心にくるものがあった。
「あ……」
おぼつかない足取りで歩いていると、大きな穴を見つけた。そこからは人の怒号の様な物が聞こえてくる。
急いで声の元へ急ぐと大きな穴ぼこを見つけた。地面には無数の亀裂が入っており、今にも崩れそうだ。
悟は穴に駆け寄り、そうっと覗き込んだ。
するとそこは、想像の数倍の深さの穴であり、穴底にはバラバラの手足に顔面が砕かれ原型を留めていない人達が二人、片腕を失い、それと全身血にまみれた人が一人。そしてその血まみれの人を殴り続けている人が一人、腕を振りかぶろうとしていた。
「───ッ」
悟はすぐさま穴から顔を背け、口を抑えた。震えが止まらなかった。血溜まりに怯えない者は居ないだろう。
「───何してるんだッ!!!」
数秒の間に、手入れのされていない髪を引っ張り、自身に喝を入れた。息を整え、悟は叫び声を上げた。
「あ? …あぁ…お前、まさかこいつの仲間か? あの場には居なかったよな?」
修二はヘラヘラとトパーズの目玉を潰しながら顔を上げた。
男の顔を見て、悟はある事に気がついた。
───この人、さっきの怖い人じゃないかッ!! ここに居たのか!? でも三人居たような……それよりそっちのボロボロの人ッ! まさかガーネットって人じゃないか!? まずい! 早く助けなきゃッ!!
そう思った悟は急いで地面に触れた。
「あ? 逃げちまったか? 薄情な奴だなァ なァ?」
穴の外から姿を消した悟を見て、修二はまたトパーズを横目に見てヘラヘラと笑った。
悟は意をけして穴の中へとダイブした。相当な勇気がいる行動だった。
「うあぁぁぁぁぁぁッ!!!」
悟は落下時の内蔵が浮き上がる感覚に声をあげずにはいられなかった。
「うわ! さっきの奴、降ってきやがったッ!」
修二は咄嗟の出来事に遠くへと離れてしまった。そのせいで、悟に大きな優位性を与えてしまう結果となった。
悟は落下寸前でトパーズの体に触れた。
「───何やってんだ?」
修二は悟の取った行動に呆気にとられた。
悟はトパーズの体にしがみついた。トパーズの体は宙に浮かんだ。
「は…? 何が起きてんだ!?」
凄まじいスピードで宙に浮かぶ二人を目で追ってはいるが、状況が理解できなかった。
悟はトパーズを守るように背中から着地した。
「───ン゙ッ」
地上に着陸したと同時に、トパーズはそんな様な声を漏らした。瀕死状態のトパーズの体中から血が吹き出した。
「やらかしちまった! おいクソガキッ! そこで待ってろよ!!」
修二はそう言うと壁に拳を突き刺し、どんどんと登っていった。
悟はトパーズを離れた場所に寝かせ、穴の方へと駆け出し、穴の端と端の縁に触れた。
「ごめんなさい……ッ」
悟は能力を発動させた。大きな穴が一瞬にして閉じ去った。
「ッヴゥ!」
修二は呻き声をあげて壁と壁に挟まれた。
「───殺してしまった……ッ」
悟は膝から崩れ落ち、放心状態になっていた。
「良かった! 人は一人も居なかったみたいで!!」
壊斗達は瓦礫の下敷きになった人が居ないかの確認を済ませた。
「本当……良かったです…」
昌幸はヘナヘナと体から力が抜け、地面に座り込んだ。
その場に居た全員が安堵に包まれていた。
「はぁ〜……あ」
「どうしたの?」
何かを思い出した様な声を出した壊斗にエメルが問う。
「そう言えばトパーズは?……あれ、トパーズ…」
『───あ』
壊斗以外の三人が声を揃えた。
「───ットパーズ!? トパーズはどこだッ!?」
「ぼ、僕達の為に戦ってくれています……」
昌幸は気まずそうにそう答えた。
「何で教えてくれなかったんだッ!」
壊斗は裏切られた様な、いたたまれない気持ちに苛まれた。
「そ、それは……私も 色々と混乱してて…」
「───ッ今更グチグチ言っても仕方ねぇ! トパーズの所へ急ごう!」
四人はその場を後にして穴へと走り出した。
「……今は余計な事を考えてる時間はない……ッ早くこの人を助けないと…」
そう思ったのも束の間、地面に横たわるトパーズを見た後、悟はパニックに陥った。
何処から応急処置を取れば良いのか分からなくなったからである。血が滲む左腕におかしな方向に曲がっている右腕、砕かれた顔面からは微量、血が吹き出している。全身を血に纏ったトパーズは、息をするのがやっとな程に衰弱しきっていた。
悟はトパーズを「早く何処かへ運ばなければ」と思い、トパーズの背中に手を回した瞬間。
「誰が死んだって?」
そう声が聞こえた。それは紛れもなく、悟自身が殺してしまったと思っていた男の声だった。
修二は全身を抗力で纏う事により、即死を免れた。然し、全身打撲の様な状態になり、立っているのもやっとな程。現に今も、足元がふらついている。
体中から血を垂れ流しながらも、少しずつ、少しずつ悟達の方向へと向かってくる。
「あぁ……あああッ!!!」
悟の中で、様々な感情が入り交じり、まともな思考は疎か、何もする事が出来なくなっていた。ただ喚き散らし、その場から動くことすらままならなかった。トパーズを抱きかかえ、目を瞑った。
「───トパーズッ!!!」
赤黒い髪をした青年が、こちら側に向かってきた。
「ガーネットォッ!!!」
修二は見る見るうちに狂気じみた笑みを浮かべた。
「トパーズッ!!! 何があったんだ!!!」
壊斗はいち早くトパーズの元へ駆け寄った。
「あ、アイツ…」
悟は半泣きで震えた手で修二の方を指差した。
修二は「やっぱり生きてやがったか」と嬉しそうに叫んだ。
「お前か? こんなことしやがったのは」
壊斗はブチ切れていた。自分だけに危害を加えられたのなら、ここまでキレはしない。トパーズを、友達を傷つけられた事が、どうにも許せなかった。
「お前……誰なんだよ。何でトパーズにこんな事すんだよ。トパーズがお前に何したってんだ?」
「俺? 朝霧修二だけどォ? それがなんだよ。で、ソイツが何したかって?」
「…俺の邪魔をした。それだけで死ぬ理由になる」
今まで嘲笑した態度を取っていた修二だったが、この一言だけ声のトーンが変わり、表情から笑みが消えた。
「ふざけてんのか?」
壊斗は修二を鋭く睨みつけた。殺意の篭った眼光で。
「おっと、怖い怖い。殺されちまうよ」
修二はまたヘラヘラと壊斗を嘲笑うようにそう言った。
壊斗はトパーズ達を守るように修二の前に立ちはだかった。
修二は駆け出し、拳を振りかぶった。
壊斗は、拳一つで勝てると思い込んだ修二に現実を見せつけるが如く、手を折り曲げ、シッシッとジェスチャーするように手の甲を上に仰いだ。
それは凄まじい風と衝撃波を生み、修二の体は吹き飛び、遥か彼方へ飛び去った。
修二の能力名に誤りがありました。正しくは〈孤独な幼時〉(シェイプ)です。他エピソードにおいては既に修正致しましたので、ご了承ください。




