第三十三話「苦戦」
「オラァッ!」
トパーズは縄を鞭のようにしならせ、銀髪の男の頬を殴打した。
銀髪の男は一瞬よろけたが、すぐに体制を立て直した。
「───あっぶねぇ…… 一瞬フラついたわァ」
「ハッ これを食らっても倒れねぇか… 多少頑丈なみてぇだなァ」
───落下する時に壁使って威力を殺したから助かったが……コイツ、近づく隙がねぇッ!!
トパーズは銀髪の男に向けて高速で縄を打ちつける。それを見た褐色肌の男は近づく隙が無く、その場を動けずにいた。
「何やってんだシュウジッ!! そうな奴早くやっちまえよッ!!!」
爽やか目の男が銀髪の男、修二に向かってがなった。
修二はプッと口の中の血を吐き出した。
「……やっぱ体全体を覆うと守りが柔くなんなぁ」
「あ゙? 何か言ったか?」
「独り言だ 気にすんな それよりお前 まさかその技しか使えねぇのか?」
「こいつ 一応能力者なんだよなぁ?」
褐色肌の男はきょとんとした顔で修二に確認をとる。
「そうっぽいけど」
「…ッたく オレの新技見れただけで感謝して欲しいぐらいなのによォ それより、反撃してこねぇのか?」
「オメェを殺した所で点数入らねぇからな 俺をこっから出してくれんなら死なせはしないぜ?」
「ンな事させっかよ」
トパーズは苦笑しながらそう言った。
「待ってろ 今他の技使ってやっから」
「ロイド ソイツが変な技出す前に殺しちまえよ お前なら出来んだろ?」
「お、おう! 当たり前だろぉ!?」
ロイドと呼ばれた褐色肌の男はうっしゃあ!と肩を回してトパーズへ近づいた。
トパーズは歯を食いしばり冷や汗を垂らした。
「何躊躇ってんだ あ゙ぁ?早く出して見ろよ!! 他の技ってやつをよォッ!!」
「───ック ……《断ち切る盾》」
トパーズはロイドの手足を断ち切った。
「うぎゃぁぁぁぁあ゙あああ゙ッ!!!」
「…オレも殺しはしねぇよ お前らがこれ以上オレらに危害を加えねぇって約束出来んならな」
「……」
「ほら ソイツ 出血多量で死んじまうぞ? 早く降参しろよ」
「…本当は最後まで隠しとくつもりだったんだけど 見くびりすぎたかなァ」
「隠す?何を───」
修二は散らばった手足と二人を抱えて、それを天高く投げた。
「───ッ 《|弾む盾》《バウンドシールド》》!」
トパーズは上昇したそれを咄嗟に地面へ弾き返した。
ロイドの手足はビシャッと音を立てた。
「クソッ!一本逃したッ!!」
ロイドの左腕だけが、トパーズの〈黄盾〉の範囲から逃れ、地上に着陸した。
修二は大きくため息を吐き出し、紫色に光る六角形の"何か"を指でクルクルと回す。
「……オメェら悪ぃな 助けてやれなそうだわ」
修二はロイドとサムの頭を殴りつけ、一撃で頭部を砕いた。
「…は?───殺しやがった!? 仲間なんじゃねぇのかッ!!!」
「俺の能力 当たると痛てぇからなァ こうして殺る方が楽に死ねるんだ」
そう言った修二の目からは、大粒の涙が流れている。
「…最期にお前に聞きてぇことがある 殺しちまったらもう聞けねぇからな」
「随分と自分の腕に自信があるみてぇだなァ?」
修二は無視して続ける。
「俺と一緒にわざとここへ落ちてきた本当の理由は何だ」
「別に大した理由じゃ───」
「教えてくれ」
「……オメェらがアイツに…バンに何したのか聞きたかっただけだ でも、エメラルドが居りゃあ 何されたとしても治しちまえっから わざわざ聞く必要なんてなかった …こんなこと冷静に考えりゃすぐわかった事なのによ」
「…治す? 致死量の百倍の毒を注射したってのにか?」
「注射? アイツに針なんか刺さんねぇだろ…」
「刺さったから倒れたんじゃねぇのか? 大体そのバンって奴のせいでこうなってる訳だが」
修二はトパーズを気にせずに話を続ける。
「で、致死量以上の毒を食らってもそれを治せる奴が居るってのかよ」
「アイツは…エメラルドは、回復だけは長けてるからな」
「なら……死人は治せるか? 生き返らせれるのか?」
修二は子犬の様な目で訴えかけた。
「───死んだ奴を生き返らすのは流石に無理だろ」
「そうか……ありがとう じゃあもう死んでいいぞ《ヘキサゴン》」
修二は指をトパーズへ向け、紫色の"何か"をトパーズに飛ばした。
トパーズは咄嗟に避けたが、それは急激に膨張し、爆散した。
「グァアア゙アアッ!!!」
無傷で生還する為にはあと一歩、足りなかった。その足りなかった一歩のせいで、トパーズの左腕が完全に破損。跡形もなく爆裂し、血が辺り一帯を赤に塗り替えた。そして、散った"それ"は不幸中の幸いな事にトパーズの足元をかすめた。当たらなかった。
「お、爆散か 今のちゃんと当たってれば単体で殺れてたくせぇなぁ ……まぁ、いずれどの道 テメェは死ぬだろうけど」
修二はポケットから紙巻タバコを取り出し口にくわえ、軽く息を吸いながらライターで火を付けた。
トパーズは今まで生きてきた中で一番の痛みに思わず気を失いそうになる。言葉を発するのは疎か、立っているのがやっとな程の状態に陥った。
トパーズは、すぐさま傷口を抉りとった。あまりの激痛に、叫ばずにはいられない。
修二は煙をフゥ〜っと吐き出した。
「おぉ 良い判断だなァ …言い忘れてたが、俺の能力〈孤独な幼時〉がある程度物体に近づいた瞬間、ランダムでいずれかの効果を発揮する 今回は爆散だった お前は運が無ぇな そんで俺の能力が作った傷、厳密にゃ患部から相手を徐々に溶かしていく 人間に限らず、そこの石ころでさえも時間が経てば跡形もなく溶け、消え去る 仮に今みてぇに患部を切り落としたとしても、そこの周りには重大な障害が残る 指先を切り落としたとしたら、他の指にも障害が残るって感じだ 〈孤独な幼時〉が当たっても処理出来なかった奴は時が経つに連れグチャグチャに溶けて死ぬ 気持ち悪ぃ死に方すっからあんま使いたくなかったんだ…って、もう聞こえてねぇか」
「……べら…べらと……早口で…喋ってんじゃ……ねぇ…ぞ」
「おぉ まだ口を開く力は残ってんだな」
「オレは……ジャーバル語覚えたてなんだよッ」
「あん? 何言ってんだ んな事ぁ知ったこっちゃない 俺達の邪魔をした事 何十回も後悔しながら死にな」
「オレが本気でやばくなった時用にとっておいた新技…見してやんよ…ッ」
トパーズは盾で体全体を覆った。
「んだそれ ダッセェ」
修二は腹を抱えて大笑いした。全身黄色いタイツに覆われた様な見た目をしていたからだ。
「オレが編み出したほぼ捨て身の技だ…どんな攻撃でも一度は防げるけど 壊れたら終わりだ ……殴り殺してやんよ」
「かかってこいよ」
修二は大笑いして出た涙を指で拭い、蛍光色に光る緑色の四角形を出現させた。
銀髪の男、修二の本名は『朝霧修二』です。




